4
珍しく早起きしたので
済
~細田 瞳~
私の視ている世界は多彩な色で溢れている。
でも、私はそれが何色なのかを知らない。母親から教わったがもともとの”赤”や”青”を知らない私には理解が出来なかったのだ。
それでも私は色を知っている。”優しい色”や”寂しい色”だったり”怒ってる色”。
初めてその色を視たのは凄く小さい頃だった気がする。
私を抱きかかえる母の色はいつも暖かくて私を安心させた。時折寂しい色が混ざることもあったが私が笑うとそれが薄らいでいく。
この不思議な力と折り合いをつけるのにそう時間はかからなかった。
物の輪郭はなんとなくわかるし、人に至ってはその人間の感情までもわかるのだから。それで嫌な思いをしたこともあったけど、そんな日は母の”優しい色”を視て癒される。
中学生になってからは母と地元を遠く離れ、私の事を誰も知らない地で過ごす。この時周りには「目は視えないけど気配でなんとなくわかる」と言って誤魔化した。三年間これで誤魔化せたのが驚きだ。そしてこのまま過ごしていくんだなと思っていた高校三年生の冬休み。私に転機が訪れた。
ピンポーン
と、チャイムが鳴る。
母と炬燵に入り他愛ない話をしていた時だったのを覚えている。「私が出るね」と言ったのを炬燵から出た後に少し後悔しつつ玄関を開けた。
「お母さん逃げて!!」
考えるより先に叫んでいた。
なにこの色? こんな色今まで視たことが無い。小さな悪意みたいなのはなんとなく分かるけどこれはそんなものじゃない。
”殺意”
それに気が付いた時既に私は地面に組み敷かれていた。
腕を背中にまわされ背中を膝で押さえつけられて動けない。背後から母の足音が聞こえてくる。
「来ちゃダメ」
そう叫ぶことしか出来ない自分が情けなくて涙が出てきた。
それでも今までこんな私を育ててくれた母の為なら腕の一本くらい安いものだ。動かない腕を無理矢理動かそうとすると
「試してごめんなさいね」
という言葉と同時に背中から重さが消える。
急な出来事に狼狽えるも今は母の身の安全が最優先だ。直ぐに起き上がり母を視ると”不安の色”で一杯なのがわかる。その際視界に入った人物の色は先程とうって変わって穏やかな色に変わっていた。
私と母が呆気に取られていると
「寒いからあがってもいいかしら?」
そんなセリフが飛んできた。
この人本気で言ってる。”嘘の色”も視えない。その問いに狼狽えている私をよそに
「ど、どうぞ。何もないところですが」
ちょっとお母さん!!
ああ、すごく”混乱の色”が視える。大体胸の中心辺りに拳大の大きさで視えるのが普通だけど、この時のお母さんの色は普段の3倍くらい大きかった。
結果この女性は私が人の感情の色が視えるという噂を頼りにここまで来たみたいだった。
出会いがしらの行動もそれを確認するためのことで仕方がなかったと説明されても、納得は出来ない。
確かに口頭で「あなた感情の色が視えるのでしょ?」と聞かれても知らないふりでなんとかなったかもしれない。けど先程のやり取りで確信に至ったらしい。
そして来訪の理由を説明され更に驚いた。
なんと民間の男性警備会社の中で一番の信頼と実績のある「シリウス」への勧誘で、目の前の女性はそこの社長さんとのこと。卒業と同時に研修生として入社後二年間基礎を固めてから、正社員になるための必須事項である国家資格を取得。晴れてシリウスの仲間入りという筋書きらしい。
そこからは怒涛の日々を送って気が付けば私はシリウスの特務隊の隊長になっていた。
いや、ちょっと待ってほしい。
確かに体を動かすのは好きで格闘術もメキメキ覚えていったし、いくつかの任務で男性を救った。(主に媚薬から)その一助になっているのがこの力だろう。
相手の色を視て攻撃を躱したり、”悪意の色”が混入した飲食物やトラップを事前に察知したりしたけど……隊長はやりすぎじゃない?
家を出るとき「いい男性を見つけるのよ」と母親に言われたが、世の男性に私の噂が広まっている所為で”恐怖の色”しか視えない。この力のことを公にしている訳ではないのに、私の行動が適格過ぎて逆に不気味とは護衛した男性から言われた言葉だ。地味に傷つく。
そんなこんなでもう仕事を辞めて家に帰ろうかと考えていた時、私は彼に出会った。
その日の護衛をいつも通りこなして職場に戻った私と他のメンバー四人。
この後一緒にご飯でも行こうと話していた矢先、特第一級緊急事態のサイレンがビルの中に響き渡る。
このサイレンを聴くのは私が入ってきてから初めてだ。座学で学んではいたが本当に聞くことになるとは夢にも思わなかった。
すぐさま館内放送で社長の慌てた声が聞こえてきた。
「現在当ビル周辺に異世界からの男性が現れた可能性がある。特務隊はこれを速やかに発見し保護すること、以上」
そこから私達の動きは速かった。
周囲にいる女性達の誘導は他の隊に任せて路地裏を探索する。途中で見つけた地面を嗅ぎまわる変態と、女子高校生はご退場願おう。
そして男性を見つけた時私は息を呑んだ。
そこに居たのは全身に”拒絶の色”を纏った一人の男性がいたからだ。
fgoのクロエの声で脳が蕩けそうです。しかしミドラーシュのキャスターも捨てがたい