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連れてこられたビルは五人と出会った場所から徒歩数分ととても近かった。
俺がこの世界に来てから実質五分くらいでGETされるわけだ。伝説のモケポンもびっくり。
基本、異世界転移後のファーストコンタクトはとても大事だ。
特に盗賊に襲われてる馬車を助けるのはお勧めする。ここでこれをやっておかないと、貴族ないしは王族との関わりが無くなる可能性プラス、ツンデレお嬢様との接点もなくなってしまうからだ。
もし君たちが異世界転移したならこれは実践してほしい。
俺のように誰がファーストコンタクトの相手かわからなくなってしまってからでは遅いのだ。俺の前を歩く細目の女性か?それともあたいっ子?大穴でくんかくんかの女性という線も捨てきれない。
そんなことを考えている内に目的の場所まで着いたようで、細目さんが「どうぞ」と言って扉を開いてくれた。一応説明はこの部屋の中の人物から聞いてくれと事前に教えられていたので、ここまでの道中俺たち六人に会話は一切なかった。べ、別に俺がコミュ障ってわけじゃないんだからね!
促されるまま部屋に入り最初に目に入ったのは、真正面の壁が一面のガラス張りでその手前にこちらに背を向けて佇む妙齢の女性。ここは他のビルより高いので夜景がさぞかし綺麗だろう。
「ようこそ。そして慌ただしくしてごめんなさいね。そちらのソファーに座ってくださるかしら」
と、ゆっくりと振り返りながら話しかけてきた。
あ~この人絶対ラスボスだわ。俺のセンサーがビンビンに反応している。どこかの主人公の髪の毛が逆立つくらいに。年齢は五〇代だろうか、優し気な笑みの下で何を考えているかわからない系の女性だ。察してくれ。
「ありがとうございます。それでは失礼して」
こちらも顔面に笑みを張り付けてそれに応える。
指定されたソファーに腰を下ろすと、ラスボスさん(仮)も俺の前にゆっくりと座わり俺を連れてきた一人に飲み物を持ってくるように指示を出す。その際こちらの要望もちゃんと聞いてくれたが丁寧に断っておいた。何が出てくるかわかったもんじゃないからな。
「さて、とりあえず自己紹介をしましょうか。私の名前は田村景子。ここの社長をさせてもらってるわ。これから宜しくね」
「初めまして田村さん。僕は田中太郎と言います。ここと言いますと一体どのような会社なのでしょうか?」
対年上用の言葉遣いで答えると田村さんは少し驚いた様子の後、細目さんの方をチラリと見たあとに
「あら? 細田から説明はなかったの? ごめんなさいね。ここは簡単に言えば男性の身の回りの安全を主にサポートする会社なの。ボディーガードと言ったほうが簡単かしら。その中でもここの五人は特別優秀なのよ」
成程。細目さんは細田さんだったのか覚えやすい。とりあえず細田さんに軽く会釈をし田村さんに向き直り続きを促してみる。
「それで我が社の前が騒がしかったから何事かと思えば男性が一人で突然現れたって聞いて、おばさん驚いちゃったわ。ただの悪戯かもしれなかったけど、取り返しのつかない事態になる前に彼女達に出動してもらったわけ」
「それはお騒がせして申し訳ございませんでした。以後気を付けます」
気を付けるも何もこれっきりにしたい事象なのだが黙っておこう。
気になっていたが自分のことを「おばさん」とかいう人に「おばさん」って言ったら怒るのはなぜだろうか。不思議だ。
田村さんは俺の返答に満足したのかニコニコと笑顔をこちらに向けてくる。
それから他愛無い話をしながら状況を整理していくと
・俺がこの世界の住人ではない事は既にばれてる
・この会社から俺のボディーガードをつけてくれる
・明日以降お役所周りして住民登録等を行う
こんな感じかな。
既に別の世界から来ていることがバレていたことに驚きを隠せないが、俺が初めてではないらしい。まあここで嘘をつく理由もないしな。
転移してくる人は数十年に一人くらいの確率で世界各地に現れるらしく、場所はこういった会社の近くと決まっているっぽい。さすがに転移後全力で逃走したのは俺が初らしい。やったね、この世界の初めていただいちゃいました。
そんな阿保なことを考えつつ今後の行動について詰めていくことに。
数分の話し合いの末決定したのは、今後の俺のボディーガードは細目の強キャラこと細田さんに。
理由として実は彼女は生まれた時から目が不自由らしく、俺のことは見えていないらしい。だというのにそれを感じさせない足取りを不思議に思ったのだが、共感覚というやつのお蔭で不自由しないとのこと。
難しいことはわからないが兎に角そういうこと! 深くは突っ込まない。
本当はもう一つ理由があるのだがそれは恥ずかしいのでここでは割愛させてもらおう。
誰にだって秘密の一つや二つはあるもんだろ?