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 おっすオラ田中太郎。

トラックに跳ねられて死んだと思ったら、なんやかんやで異世界へ来ちゃいました。

 眩しい光に包まれたと思ったのも一瞬で、恐る恐る目を開けてみると元の世界と変わらない街並みがそこにはあった。

 別に車が空を飛んでるわけでもないし、携帯が進化して空中投影みたいな技術も無さそう。残念だ。



 着いた時には既に陽も沈んでいたが、街の灯りで十分過ぎるほどに照らされており一目で都会と判断。

俺が前に住んでいた場所よりずっと都会だ。


 さて、周りの状況判断(・・・・)も済んだところでと




 ゆっくりと回れ右からの







 全力ダッシュ!!






 俺のダッシュに少し遅れて後方からも走ってくる気配を背中に感じる。

ああ、俺これ知ってる。確かに異世界だよここは。


 だって目に映る全ての人間が「女性」なのだから。

もし「女性しか入れない街」とかだったら素直にごめんなさいだけど、俺は悪くない!


 そんなことを考えながらまた一人の女性とすれ違う。

その度に驚いた顔と数秒遅れて聞こえる叫び声。そうこうしている内に後ろの気配がどんどん膨らんでいくのがわかる。気配を読むって一回やってみたかったんだよね。「バカめ、気配でまるわかりなんだよっ」とか言って相手の攻撃を躱してからのカウンター。

 

 一瞬振り返って確認してみたい衝動に駆られるが今はその一瞬が命取りだ。

中二な思考は置いといて今は走ることだけに集中しよう。

 

 

 あれからどのくらい走り続けたろうか。一〇分? 一時間?

精々二分くらいかな。体内時計に定評のある田中だ。ほぼほぼ正解だろう。

 そして俺の体力の限界も近い。ってかこの世界の女性の体力すげーわ。普通に高校生男子の全力疾走に二分もついてこられるか?チートだチート。

 なーにが「ファンタジー要素ゼロの世界」だ。嘘つき石膏像め。あれ絶対魔法で身体強化とかしちゃってるやつだわ。後で教えてもらおう。

 再び中二が顔を出すが無理やり押し込める。


 自分の勝手知ったる街でも無理だと思うのに、まったく知らない街で大多数の通行人から逃げ切るなんて到底不可能だ。


 現在いるのは街の灯りの届かないビルの裏路地。すでに俺の足は止まっている。

周りからは「どこだ探せ!」だの「おどご~」だの「男の踏んだアスファルト~くんくん・・・こっちだ!」だの。いやいや最後の女性なんなのさ。


 このまま逃げ切るなんて不可能かな?

 もし本当に男性の少ない世界だったら悪いようにはされない、寧ろ読んでた小説みたいに好待遇でハーレム生活できるんじゃない? 仮に逃げ切ったとしてもその後は?

 とか色々考えていたとき、ふと視界の隅で動く気配を感じた。


 暗くて顔までは分からないが十中八九女性だろう。男の娘という可能性も捨てきれない。こんな世界でなければ俺はそれに賭けていたかもしれない。

 その女性はビルとビルの間の狭い路地からひょこっと顔を出して「こっちこっち」と手招きをしている。

状況からして彼女は俺を助けようとしてくれているのだろう。よくあるパターンだ。この後彼女についていき無事にこの状況から脱出。そしてベッドインだろ? 何も間違っちゃいない。それが世の常だ。


 俺はゆっくりと彼女の方に歩み寄る。

女性の顔が見えるくらいまで近づいて俺は息をのむ。


 一言でいえば美人。それで十分だ。ちょっと遊んでそうな金髪とギャルっぽいメイク。だけどスッピンのほうが綺麗系女子だ。すまないがこれでわかってほしい。


「説明は後でするから、今はあたいについてきて」


 あたいっ子きたー。と心の中で叫んでいると彼女は俺に背を向け静かに歩き出す。どこの学校か知らないが、制服姿の彼女はおそらく高校生くらいだろうか。少し短めのスカートに視線を奪われつつ俺もゆっくりとそのあとをついて行く











 筈がない!





 一八〇度回転からの本日二度目の全力ダッシュ。

さっきのやり取りまでで少し休憩出来たしもう少しくらいは逃げれるだろう。


 え? なんでついていかなかったって?

寧ろこの状況でついていくほうが可笑しいだろ! チョロ過ぎにも程がある!

現に後ろからは驚きと焦りが混ざり合ったような声が聞こえてくるし。


 親から教えてもらわなかったか? 「人を簡単に信用してはダメ。特に初対面は全力で疑ってかかりなさい」と。まあ俺も教えてもらってないし、こんなことを子供に教える親なんてヤダよ。

俺のはただの経験(・・)だ。


 更に走ること一分。

俺は周りの状況変化に戸惑いを隠せずついに足を止めてしまった。



「静かすぎる」



 さっきまでの女性達の叫びが嘘だったかのように今は静寂に包まれている。

もしかしたら諦めたかもと頭をよぎるが直ぐにそれを否定する。アスファルトをくんかくんかする女性がそう簡単にあきらめるとは思わないし、先程の「あたいっ子」の声すら聞こえない。

 不気味さを感じながらも立ち止まるよりはましと考え暗闇の一本道を進むが俺は歩みを止めた。

正確には止まらざるをえなかったと言った方が正しいだろう。


「どこのヒロインだよ」


 俺の目の前に立ちふさがるビルの壁に一人愚痴る。

こんな時、アニメとかだと追手がナイスタイミングで現れてヒロインピンチ! からの主人公登場! からのベッドイン! 主人公補正ってまじチートだわ。



 そんなくだらないことを考えながら無意識に後頭部を掻く。

危険だがもと来た道を戻るしかないと踵を返したところで今回の鬼ごっこは終了を告げる。

噂をすればってやつか。本当にナイスタイミングだこと。

 俺の目の前に居るのは一、二……五人。こんな裏路地にこの人数で来られた時点で詰み。更に言えば武装してるし、特殊部隊みたいな服装だし。


 その五人の中から先頭に立っていた女性が数歩前に出てくる。おそらくは隊長さんかな? 身長は俺より一〇センチ程高そう。なので一八〇センチくらいか? そして黒の長髪だが前髪ぱっつんの細目。これだけで伝わる圧倒的強者の風格。




 そこから別に主人公が助けにくるとかもなく俺は五人にとあるビルまで連れていかれたのであった。



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