表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/56

17

見るんじゃなかった・・・


 ~田中 あきら~


 今日から私の勤めている高校へ男子生徒が新しく通うと聞かされたのは日曜の午後だった。そして学年主任である私に彼の学内の相談役として白羽の矢が立ったのだ。

 正直学年主任に就任した時は嬉しかったけど仕事量が凄い増えたにも係わらず、お給料は・・・


 それでも”異世界”からの男性の相手は正直嬉しい。柄にもなく校長先生からの電話を切ったあとにガッツポーズをしたくらいに嬉しかった。この世界の男子みたいにすれてない性格と本でも読んだ。もしかしたら壁ドンも体験できるかもしれない。


「先生が悪いんだぜ。毎日俺を誘惑しやがって。それじゃお望み通り・・・」


 とか言われてみたい。

私は生まれつき目つきが悪く、不機嫌でもないのに「怒ってる?」と聞かれる毎日に辟易していた。同級生の男の子からは「怖いから見ないでくれ」と言われる始末。その日は盛大に泣きはらし、次の日からは男なんてもう要らない!と心に決めて早10数年。私も今年で28になる。勿論経験はない。


 周りからは変わらずいつも怒ってそうと思われてるが、中身は乙女のままだと思いたい。一度は必要ないと切り捨てたけど、いざ目の前に現れるとどうしても手が伸びそうになる。

そんなダメな私を叱って欲しい。


「要らないとか言いつつ、ここ(・・)は正直じゃないですか。ねえ先生?」


 とか言われてみたい。

 時計をチラッと見るともう出ないといけない時間で、そんなこと(・・・・・)をしている時間はなさそうだ。


 貯まっていく貯金を崩して買った真っ赤なスポーツカーを今日も走らせて学校に向かう。

 応接室には既に校長先生がおられ今日の準備を始めていたので手伝うことに。作業をしながら今日の流れについて再確認を終わらせる頃、コンコンコンと扉がノックされる音が響く。


 そうして入室してきた男性を見て私は驚いた。

この世界でもアイドルと言われる職業はある。この瞬間まで彼等が最高にカッコイイと思っていた自分にシャイニング・ウィザードを食らわしたいくらいの衝撃だ。身長は私と同じ170センチくらいだろうか。こっちの男性の多くは「もやし」みたいと言われるが、程よくついた筋肉がそれを否定している。顔は・・・ああ、なんて言っていいのかわからないけどカッコイイ!!


 そんな感情を表にださないよう努めていると自然と目つきが鋭くなっていくのがわかる。

ダメだ。ここで彼を睨んでは後が気まずくなる。だからと言ってだらしない顔を見せる訳にもいかないし。一体どうしろと!?


 それでも彼は最初と変わらない態度で私に接してくれた。

私や校長先生の話もちゃんと聞いてくれるし、我が儘も言わない。本当にこんな男の子がいたんだと内心感動していると、校長先生と彼の護衛の女性が体育館へと向かっていき部屋には田中だけしかいない。


 これは運命だろうか。偶然にも同じ「田中」である。だとすればもし彼が婿養子にきたとしても変わらず「田中」のままだ。私が嫁いでも「田中」のままだしこれはwin-winの関係では?


 心の中ではそんなことを考えつつ、彼に珈琲を勧めるとブラックで大丈夫と答えが返ってきた。

興味本位で始めた珈琲だけどこんなところで役に立つとは、人生なにが起きるかわからないものね。注文通り彼にはブラックで。私は苦くて飲めないので砂糖とミルクをたっぷり入れる。それが意外だったのか彼の表情が変わった。

 私の見た目だとブラックで飲んでいそうと思われたのだろうか、甘いカフェオレを飲んでいる自分が急に恥ずかしくなってきたけど正直に「私は甘党なんだ」と言ってしまった。


 その時に見せた彼の笑顔に私の心はもう・・・






 いや、私はちょろ・・・・・・くない!!






 ~佐藤 花子~


 朝の目覚ましより早く起きた私は、今日から通う学校の準備をしつつ朝ごはんを食べる。やっぱり朝はパンよね。世話役の池田さんは基本本職の護衛の仕事をしつつ、必要な時だけ私の保護者として動いてくれるみたい。

 正直それを聞いた時は安心した。もし四六時中彼女と一緒に居たら私の精神が持つ気がしない。昨日もギリギリを狙ったかのごとく私の尿意をコントロールされた感があったのだ。もうあんな体験はしたくない・・・けど、あの解放感をもう1回だけ体験したい気も・・・


 ハッ、いやいや、これは駄目な兆候だ。気をしっかりもて私!


 

 指定された時間に登校して校長先生の指示に従い、舞台脇の小さい部屋で待機中。

ここで紹介があるまで待ち、挨拶をしてD組の後ろの列に行く。うん、大丈夫ちゃんと覚えてる。

 集会も始まり、彼の護衛の細田さんの紹介に少し騒めいていた。少し頭のいい子だと彼女の後ろの男性の影に気付いている子もいるかもしれないなあ。

 

 そんな彼と同じ世界から来たということは伏せての今回の編入だ。これは静かに学校生活を送れるようにとの校長先生の提案で、私はそれに頷いた。もし私が彼と同郷だと知られたら確実に面倒なことになりそうだし、それに異論はない。


「これから宜しくお願いします」


 挨拶も問題なく済ませ、D組の生徒達に軽く挨拶をしながら列の一番後ろまで行き座ろうと思ったら急に真っ暗になった!?

 こんな時に停電!?と慌てているとクイズ番組でよく聞くドラム音とミラーボールの輝きで騒めく生徒達。しかしそれはどこか楽しそうで慌てている雰囲気ではない。不思議に思っていると「ラッキーだね佐藤さん。多分男子の転校生だよ?」と隣の女子から言われたけどなにがなにやら。私の後には彼の紹介があるとしか聞いていない・・・私の次?まさか!


 その直後、あの校長先生とは思えない口調で彼の編入が告げられ会場のボルテージは一気に上がった。


 私はこの時初めて気が付いた。この世界で”男”というだけでどれだけ優遇され敬われ崇拝されるかを。

あんな(・・・)奴らのどこにそこまでする価値があると言うのだろうか?


 


 まっ、まあ百歩譲って彼はそこから除外してもいいかもしれないけど。

でもこの世界に感化されていけば彼だって下半身で動く人間になるに違いない。お礼も言ったし私には関係のないことですがなにか!?


 1人だけこの歓喜の宴に乗り遅れ、更に続く校長先生の演説に湧き上がる女子達。

彼女かー。もしかしたら話しかけてくれたこの、ちょっと遊んでそうな金髪でギャルっぽいメイク。だけどスッピンのほうが綺麗だと思われる女子も彼のことを狙っていたりするのだろうか?


 ふーん。

私には関係のないことだけど、この子のおっぱい大きいわね。何食べたらこんなになるのかしら?今度聞いてみましょう。


 少し会場も落ち着きを取り戻した瞬間、体育館にあるスピーカーから


「おっ!D組だ」


 という彼の声が聞こえてきた。

私は彼の声を知っているのですぐにわかったが、他の生徒達はスピーカーを見つめたまま動かない。ちょっと怖いんですけど。


「えっ、勝手に引いたらまずかったんですか?すいませんやり直しますね・・・あ、それは大丈夫ですか。本当すいませんでした」


 後から知ったことなのだが、本来であれば応接室と中継で彼のクラス決めをここで見届ける予定だったらしい。ここでしなかったのはもしも暴動が起きたら大変だということだが、それを聞いた時納得出来てしまう。あの地獄絵図みたいな中にそれを生み出した張本人がいたらどうなっていたかわかったものじゃない。


 ある者は両手を合わせて天に祈って「おお神よ。あなたは本当におられたのですね」とか、ある者は「私って確かD組の生徒だよな?そうだよな?そうだと言ってくれよ!!」と叫んでいたし。「私とあんたの仲だろ?ちょろっとクラス変わってくれればそれでいいんだよ、なっ?金なら払うからよ」これは聞かなかったことにしよう。


 もうヤダ。なにこの世界。




 でも・・・彼と一緒のクラスか・・・




 ふふ







 面倒事の気配しかしないんですけどーーーーーーーーー!!





 


興味本位でランキングに載る作品のPV数とかブクマ数とか・・・見るんじゃなかった・・・化物だよあんなの。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ