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「五等分の花嫁」のop開始5秒くらいを聴いてると、なぜ自分が上杉でも風太郎でもないのかと考えてしまうのは作者だけでは無い筈(確信)
カレーがとても美味い。
その事実を噛みしめてまた一口胃袋へと流し込むも、この気まずい雰囲気に変化は訪れない。
時間にして半時程前の状態を思い出すとどうしてもお互い口数が減ってしまう。
俺のお腹が鳴ったのを機に「ごはん食べましょうか」と細田さんの提案を受けて今の状況に至る。
しかしサラッと流してしまったが細田さんの感情が読める力ってチートじゃない?
ってか普通それって異世界転移した俺に与えられる力じゃないのか。あの石膏像仕事しろよ。そんなことを考えながら柔らかく煮込まれた鶏肉を口に運ぶ。あっ、美味い。
「ふふっ、太郎さんの色ってコロコロ変わっておもしろいですね」
目の前で同じくカレーを食べている細田さんから笑われてしまった。
自分では面白いことなんて考えているつもりはないのだが、彼女からしてみれば俺の色はどうやら笑いの対象になってしまうらしい。まあ綺麗な女性の笑顔が見れるんだからこのくらいはなんのことはない。
それにいつのまにか名前で呼ばれてるし・・・まあいいけど。
「それに今更なんですが、私のこと・・・・・・怖くないのですか?」
一旦スプーンを置いてこちらを真剣な表情で見つめる彼女の口許は少し震えていた。
「それこそ今更でしょう。今まで人のプライバシー覗き見しといてそれが発覚したからと逃げるなんて僕は許しません。この世界の個人情報保護法ってどうなってるんですかね?」
少し棘がある言いかただけどこれが俺の素に近い言いかたなので、そんな悲しそうな顔をしないでほしい。こちらも一旦スプーンを置き細田さんに向き合う。
「それに、感情を読まれたくらいで逃げていては話になりません。もとの世界では思考を読んでしまう人もいましたから」
(漫画の世界だけど)と語尾につくけど嘘は言っていない。
事実彼女は驚きの表情を浮かべている。俺が嘘を言っていないのを読んだのだろうがこの力を頼りにし過ぎている気もするのは考え過ぎだろうか。
人は視覚からの情報で人の感情の大半を読んでいる。それに声色や仕草、さらには周りの状況を鑑みてその人物の感情を推測しているのだ。
・・・人間ってメンドクサイナ
その判断材料の殆どをカットされている細田さんがその力に頼るのも仕方がない話だし、俺がとやかく言えることでもないか。この話はここで終わりだ。
「はい、その話はもうこの辺で終わりにしておきましょう。もし細田さんが罪悪感を感じていても、それに対して何か言うつもりも権利もありません。それでももし気が晴れないというなら、今日みたいなエプロン姿で美味しいご飯を作ってくれたらそれでチャラです」
早口で捲し立ててから再びカレーを口に運ぶ。
その姿に一瞬呆気にとられていたがすぐに細田さんも食事に戻る。
「ありがとうございます」
小さく呟いた彼女の言葉はしっかりと俺には届いていた。
ここで「えっ、今なんて言ったの?」なんていう主人公ではないのだ俺は。
さてと食後の洗い物は俺の数少ない仕事なのでここだけは譲れない。と言っても軽く洗って食洗器にかけてお終いの簡単な仕事だ。これを仕事と言ってしまうと主婦の方々に怒られそうだが許してほしい。
残ったカレーは明日のお昼にカレーうどんとして登場する予定らしい。今から楽しみだ。
食後にこの世界の常識を教えて貰っていたら結構な時間が経っていた。そろそろお風呂でも入ろうかな。
「お風呂ですが、先と後どちらがいいですか?それとも一緒に入ります?」
勿論最後のは冗談だ。ここで彼女が慌てふためく姿を見つつ「冗談ですよ」と言ってからかうまでがテンプレだ。
「そうですね。それじゃ節約の為一緒に入っちゃいましょうか」
うん?えっ、今なんて言ったの?
「冗談ですよ。お先にいただいちゃいますね。それと覗いちゃダメですからね?」
ショートフリーズしている俺の横を通り過ぎる細田さんの足取りは軽く、最後のセリフは俺の耳に囁きかけるという余裕。
やっぱりあの力はチートだチート。チーターや。
このまま細田さんにいいようにされていては駄目だ。今日の雪辱は今日の内に晴らすべく俺は行動に移る。
「おさきにでした。いいお湯だったので太郎さんもゆっくりしてきてくださいね」
30分と女性にしては短いのか長いのかよくわからない時間で出てきた彼女はちょっと色っぽい。なんでこう風呂上がりの女性って色気30パーセント増しなのだろうか。誰か教えて。
「・・・太郎さん。またエッチなこと考えてませんか?」
俺をじっと見つめる彼女からの疑問。
それは正しい。俺の今の色を視て言っているのだろうがそれが仇になったな。自分でも一体なにをしているのかよくわかっていないが今は早く風呂場へ行きたい。
さっきとは逆で細田さんの横を通り過ぎる時に彼女の耳元で囁く。
「それじゃお言葉に甘えてゆっくりさせてもらいますね。因みに今僕は全裸ですよ?」
一瞬で固まる細田さんに「冗談ですよ冗談」と言い残して風呂場に行く。そしてパンツだけ脱ぎ浴槽へ直行する。
本当なにしてるんだろ俺。
まあそれでもこの世界でこうして冗談を言い合える人に出会えたことには感謝しないと。上っ面な関係ではなく、多分だけど細田さんとなら普通に接することが出来ると思う。まだまだ時間はかかるかもしれないけどそう思えたことがちょっとだけ嬉しかったりする。
風呂上がりに
「いいお湯でした。あれ?細田さん・・・エッチなこと考えてませんか?」
と言った瞬間顔を真っ赤にしながらも年上の威厳を保つためか強気な態度で
「あまり年上をからかうものではありませんよ?そもそも私でなければ襲われても文句は言えない冗談ですので今後は慎むように。わかりましたか?」
「すいませんでした。少し冗談が過ぎたかもしれません」
素直に謝ると「そうですそうです」と頷く細田さんに近づいて彼女の右手をとる。驚く彼女の耳元でまたも囁く。
「さっきは冗談でしたが、今はどうでしょうね?」
そう言って彼女の指を自分の胸板に当ててみる。
先程より硬直する彼女を横目に自分の部屋へとそそくさと戻って扉を閉めた。
ただ単に着替えを持って行くのを忘れたのだ。さてとパンツはどこに仕舞ってあったかな?
作者の小話④
沖縄1人ぶらり旅でいつの間にか石垣島のとある港に。今日はここで野宿しようと決めながら沈む夕日を見ていたら「1人?」と女性に声を掛けられあれよあれよという間に3週間くらいのひも生活を送ってました。
このままじゃダメになる!と正気に戻り地元に帰って来た次第でございます。
女性ってこえー(いい意味で)