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祝3連休!
スーパーのカートで公道を時速60キロで走行してたら警察に捕まる夢をみた作者です。
済
~細田 瞳~
「田中さん、もう夜の七時ですよ? ごはんもできましたから一緒に食べませんか?」
彼の部屋をノックしながら話しかけますが返事は一向にありません。
お昼の外出から帰宅後、気分が悪くなったという彼を連れて戻ったのが一時過ぎ。帰って直ぐに自室に籠ってしまってから一度も部屋の外に出てきてくれません。
気分が悪くなった理由はなんとなくわかります。
ここは他の地域より男性が多く住んでいるとはいえ、外出中の男性を目にする機会はあまりないのです。私達のような仕事は基本男性ありきでなりたっているので忘れがちですが、一般女性が男性に会うと言ったらメディア越しや脳内がいいところでしょう。
それが、今日のようにいきなり本物の男性が目の前に現れたら性的な視線を向けるのも同じ女性としてわからなくもないですが……
もしも私が男性が大多数を占める世界に行ったとしたら、その視線に耐えられるでしょうか?
多分無理でしょうね。引き籠りになるに決まってます。
でも彼をこのまま引き籠りにするわけにはいきません。それに月曜からは学校に通わなければいけないのですから!
「田中さんがお昼に食べたいと言っていたカレーですよ? 頑張って作ってみたので食べてもらえませんか?」
少し中で動く気配がした。
私の眼でわかるのは私の視界に入る範囲だけなので、こうやって扉一枚隔ててしまうと感情を読むことができなくなってしまう。
普段から感情を読み取って会話をしている弊害がこういった場合は顕著に表れます。
「……一晩寝かせたほうが美味しいともいいますし、明日にでも食べてもらえたら嬉しいです」
こんなことしか言えない自分が情けない。
いつもなら感情を読んで、相手が欲しがってそうな言葉をかければ大抵は満足してくれました。まあそれが行き過ぎて「全部覗かれてそうで怖い」と言われたこともありましたね。
もし、この力がなくなったら私は誰ともコミュニケーションをとれる自信がありません、断言出来ます!
扉の前から離れて自分のご飯の準備をしながらふと考えてしまう。
(彼の全身から”拒絶”を感じるのに、なぜ今日みたいに外に出たり学校に行こうというのでしょうか?)
一度その思考に至ってしまうとその矛盾点が気になりだしました。
(本当に”拒絶”するのであればそれこそ部屋に籠って生活すればいい。学校なんてもっての外だ。この世界の男性であればそれが可能だし……もしかしたら人と繋がりたいと思っていても何かが邪魔してる? あの”拒絶の色”は自分を守る為の鎧かなにか?)
そう思った瞬間頭の中で「おかえりなさい」と言った彼の姿が浮かんできた。もしかしたらあれが彼の本当の色なのかもしれない。
気が付けば私の足は彼の部屋へと向かい、ノックもなしに扉を開ける。
もしこれが社長に知られたらクビだな、と一瞬考えるも今はそれより暗闇より暗い色をしている彼を助けたいという感情が溢れてくる。
「田中さん」
布団の上で膝を抱えている彼は動かない。
「田中さんが何を拒絶しているのかは私にはわかりませんし、それを無理に聞こうとも思いません。いえ、話してくれるのであれば勿論聞きますが」
”拒絶”という言葉に少し反応をする。
やはり彼のそれは自己防衛かなにかだったのでしょう。勝手に部屋に入った私が追い出されていないのがその証拠と今は思うこととして。
一度深呼吸をして自分を落ち着かせる。これから言うことは母親と社長以外は知らない私の秘密。
もしこれを彼に告げて更なる”拒絶”に繋がるかもしれないけど、今ここで伝えなきゃいけないという気がする。今を逃せば彼からの信頼は決して得られないと。
「田中さん……実は私には秘密があります。それは……」
いざ口にしようとすると言葉が出てこない。
二人しかいない空間で私の心臓の音だけが聞こえてくる気がする。煩い。それを抑え込むように右手で心臓を掴む。
もしかすると私は怖いのかもしれない。
彼が更に”拒絶の色”を濃くすることではなく、私自身が彼から”拒絶”されることが。
こんな時でも自分の安全を考えてしまう私はダメな人間なのでしょうか?
いいえ。多分人としては正解なのかもしれない。だけど今、彼の前に立っている私にとっては不正解だとわかる。
彼は人と係ることに酷く臆病なくせに今までそれと闘ってきたのだろう。そうして色を濃くしてきた。
そんな彼の前に立つ私が怖気づいていい理由なんてない。蹲っている彼の前まで歩を進め両膝をついて視線を合わす。
「私には……今の田中さんの表情はわかりません。だけど、あなたが纏ってる色が視えるんです」
彼の色は変わらないまま。
「信じられないかもしれないですが本当です。出会った時からあなたが全てを”拒絶”しているのは視えてました」
少し色が濃くなったけど構わずに続ける。
「私には”嬉しい色””悲しい色””怒った色”他にも色んな色が視えるんです。田中さんが「人数無制限のメイド」のチラシに”欲情”してたのもお見通しです!」
”羞恥の色”がチラッと視えた。ちょっと可愛く思ってしまい、くすっとしてしまう。
……沈黙
勢いを失ってしまった私は無理やり大きな声でこの場を誤魔化すしかなかった。
「な、なので、田中さんがなにを考えているかなんてお見通しということです。私には隠し事なんて出来ないと思ってください!よ、欲情するポイントも全部まるわかりなんですから!」
あれ? 私は何を言っているのだろうか?
これじゃあ「お前の性癖まるわかり」と言ってるだけじゃない。最初のシリアスな私はどこへ行った? 言いたかったことの半分も言えてない気がするが、今更シリアスな会話に戻す自信なんてない。
そんな私の耳に彼の笑い声が聞こえてきたのは幻聴だろうか。
慌てて彼を視ると下を向いていた顔を上げて私を見ていた。
「それは怖いですね。僕の性癖が世に知れたらと思うともう外に出れる気がしません」
これが強がりなのは色でわかる。それでも彼が少し歩み寄ってくれたのだ。
「そうです。まるわかりです。朝も私のエプロン姿に喜んでいたのも知ってるんですからね」
彼は「まいったな」と言いつつ頬を軽く掻きつつ
「怖いんですよ。これ以上人に裏切られたらと思うと。だから上辺だけはいい関係を築こうしても心はそれを拒んでいるんです。でも、細田さんの眼にはそれが視えてたみたいですね」
昔の出来事を思い出したのだろうか、今まで体を纏っていた色が大きく膨れ上がる。目の前にいる私までも覆ってしまうほどに。
他人の色に触れたことなんて今までなかった。色に触れられるなんて知らなかった。
彼の色に覆われた私が感じるのは”痛み”。実際傷つけられているわけではないけど、心臓の周りが酷く痛む。こんな痛みをずっと抱えてきたのだろうか? なんで嘘でも笑えるのだろうか?
そんなことを思う間もなく私は彼を自分の胸に抱きよせていた。
少し彼が苦しそうな声を出した気がしたけど構わない。この色を少しでも自分が代わりに受けることはできないだろうかと腕に力を入れる。
数分だろうかその態勢でいると彼の色はいつも通りの大きさまで戻っていた。
ちょっと雰囲気に充てられたのは認めるけどこの態勢って結構大胆だったかもと思うも、自分から離すのも憚れるのでそのままでいると
「僕の今の”色”わかります?」
腕の中の彼が訪ねてきたので彼を視る……
「……太郎さんのエッチ」
作者の小話③
バイト時代何故か女性率が高いとこが多かったのですが(狙ってないですよ)完全に「いい人」ポジションになることが多く女子会に呼ばれることも多々ありました。
ちょっとは異性として見て欲しかったけどその状況に甘んじていた自分を殴ってやりたい。
彼女が欲しかったらまずは行動することと学んだ作者でした。
因みに「作者さんって性欲あるんですか?」と後輩女子から言われたのが地味にきつかったです。