表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/86

008

「ちょっとちょっと? 話が違うでしょコディー?」

「いや、まさか、一撃とは……」

「ほんと~? 実は最初から知ってたんじゃないの~?」


 じとっとした目を向け、顔を近付けてくるジジのおでこを小突く。


「あいたっ」

「本当」

「むぅ、でもまさかコディーが倒しちゃうとはなー……」


 自分の手柄になるというのも気が引けるようだが、一番は経験にならない事を嘆いているのだろう。ジジは結構負けず嫌いだからな~……ん?


「どうしようかなー、この依ら――」

「――ブォオオオオオオオッ!」


 瞬間、草むらから怒声をあげてハイオークが現れた。

 しまった、もう一匹いたのか。臭いが混在していたから気付けなかった。

 ジジの背後から迫るハイオーク。俺は振り返るジジの隣を横切り、ハイオークとの距離を詰めた。


「ばふぉ!」

「ブッ!? ブォッ!」


 くそ俺の突進を受け止めるとは流石ハイオークだな。こりゃさっきみたいにいかないか。


「ジジ!」

「うん、わかった!」


 俺は背後からジジの返事と共に剣を引き抜く音を聞いた。

 がっつりと組み合った俺とハイオークの力は拮抗していた。

 死なないために、これまで鍛えてきたのが幸いしたのかもしれない。


「ぬがぁ!」

「ブォオッ! ッ!?」


 するとハイオークの力が一瞬で緩む。

 そう、ジジがハイオークの懐を駆け抜けながら斬り裂いたのだ。


「今!」


 俺はそう叫びながらハイオークを横に倒した。


「はっ!」


 地面に叩きつけられたハイオークの隙を、ジジが見逃すはずがなかった。

 ハイオークの脳天に突き刺した剣は、確実にその命を奪った。


「ふぅ、危なかったね。ありがとうコディー」

「いい、ジジ、無事」

「もぉー、コディーは優しいなぁ~。結局助けてもらっちゃったし、何かお礼したいなぁ。うーん、よし、それじゃあ今日はここまでにしてご飯でも食べようか!」

「もう?」

「うんうん、いつもお世話になってるんだからさ。コディーには美味しい物をプレゼントしよう」


 そう言われた瞬間、俺はジジの両肩をガッシリと掴んでいた。


「塩!」

「ふぇ?」

「塩! くれ!」

「お、お塩の事?」

「いえす!」

「あ、あはははは。そんなんでいいならいつでも持ってきてあげるよー」


 神はここにいたのかもしれない。

 これで俺は塩の入手ルートを構築出来た訳だ。

 確かに最初は打算もあってジジとの接点を作ったが、すっかり仲間になって完全に忘れていた。

 しかし、飽くなき食欲は、やはり消滅させる事は出来なかったのだろう。

 その後、俺はジジを乗せ、かつてない程の速度で町の近くまで送って行く。


「それじゃあ、いつものところで待ってて。ギルドに報告と買い物したらすぐに向かうから」

「はい!」

「あ、あはは。んもう、現金だなー、コディーは」


 困った顔を浮かべながらも、ジジは笑っていたような気がする。

 塩を待つ間、俺は枯れ木を集めながら回り道をしながら寝床に帰る。

 ひと月も過ぎたが、結局俺に襲い掛かってくる魔物はいなかった。

 どうやらここら辺にはあまり強い魔物はいないのかもしれないな。

 ハイオークも戦ってみればそれ程でもなかった。

 冷静に戦えば、一対一でも勝てただろう。勿論、多対一では負けるだろうけどな。

 火を(おこ)した俺は、火の番をしながらボーっとジジを待った。

 すると、俺の前に変な男が現れた。

 深く青い甲冑を身に纏った金髪の男だった。

 若干釣り目だが、整った顔立ちだ。これはおそらくイケメンの部類に入るのだろう。


「なんだクマか」


 こちらからすれば「なんだ男か」なのだが、男の素性がわからない以上、口をきくのはまずいよな。

 見世物用とかで売られそうだし。

 仕方ない。ここはしばらく離れておくか。ジジには後で――


「まぁ、あのサイズの毛皮と肉でもお金にはなるだろう」


 なんですと!?


「はぁっ!」


 いきなり剣を抜き、跳躍して襲い掛かってきた男。

 俺は転がってかわし、腰を低くしたまま男を睨んだ。


「へぇ、ただのクマに俺の一撃がかわされるとは思わなかった。さては魔獣(、、)の類か?」


 そんなものまで存在するのか、この世界は。


「なら俺も本気を出させてもらう。勇者の本気……獣には光栄だろう?」


 こいつが勇者? そう言われるとなんだかパッとしない男に見える。

 これはきっと嫉妬フィルターが目に働いているからだろう。


「ふん! はぁ!」

「がぁ! きゅっ!」


 あ、やべ。踏ん張り過ぎて変な声まで出ちゃった。


「これもかわすか」


 仕方ない、ここは危険を承知で交渉してみるしか――――


「魔獣を倒したなんて知ったら町の女は放っておかないだろうな。はははは、腕が鳴る……!」


 ――――ぶっ潰す。

 こんなすけこまし野郎が勇者だというのは俺が許さん。

 攻撃自体はかわせるから速度は同等。力では勝ってると思いたい。


「行くぞ、はぁあ!」

「ぷぁ!」


 俺は地面を叩きながら勇者との距離を詰め、振り下ろされる剣の軌道を掴んで止める。


「馬鹿な!?」

「だぁっしゃああ!」


 その勢いのまま、肩を勇者の身体に当てる。


「ぐぉっ!?」


 吹き飛んだ勇者はそのまま倒れ、大の字に仰向けとなった。

 今なら出来る! 俺は更に距離を詰め、勇者の手前で跳躍し前方宙返りをした。着地点は勇者。落とすのは足ではなく背中。


「か……はぁっ!?」


 これが……サンセットフリップ!

 プロレス技だが、成年前とはいえクマの体重だ。相当の衝撃を受けたはずだ。


「きゅ~……」


 勇者は口から変な声を出しながら伸びていた。

 まあ、きっと足を落としたら死んじゃってたしな。仕方ないだろう。


「……何やってるの?」


 振り向くとそこには、ジジが大荷物を持って俺を見ていた。


「せ、正当、防衛……?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~』
おっさんは、魔王と同じ能力【血鎖の転換】を得て吸血鬼に転生した!
ねじ曲がって一周しちゃうくらい性格が歪んだおっさんの成り上がり!

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ