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善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~  作者: 壱弐参


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「ガジル、絶対に手を出すなよ」

「はっ!」

「お前たちの役目は、俺が取りこぼした人間の……排除」

「全軍にしっかり言い含めておきやした! ご安心をっ! 絶対に人間たちを工事現場に踏み込ませません!」


 うん、絶対に人間を取りこぼせない。

 排除(、、)というのは当然殺しも含まれている。つまり、俺が人間を取りこぼした瞬間、ゴブリンたちは一斉にそいつに襲いかかる。

 だが、俺が全て当て身で気絶させ、人間たちを撤退させれば、(ある)いは魔界大門(まかいだいもん)を壊す事が出来ない程、工事が進んでしまえば……俺の勝ちだ。

 これは人間たちとの勝負であると共に、俺と魔王軍との勝負でもある。

 ここまで皮肉のきいた「前門の狼、後門の虎」も珍しいだろう。


 直径百メートル程のこの境界線、死守しなければ人間が死に、魔王軍にも死者が出る。

 そんな事はこのコディーさんが許さない。


「閣下、ご武運を」

「あぁ、ありがとうミザリー。これは私の武力を世界に知らしめる良い機会だ。皆でゆっくりと楽しむがいい」


 ゴブリン軍の後ろには、仮設の観覧席。

 そこには多くの魔王軍幹部が顔を連ねている。

 現場指揮の鬼人王(オーガキング)のレジン、ゴブリン軍指揮のガジル以外は座っているのではないかという程だ。

 …………そろそろ動きそうだな。


「うし……やるかっ!」


 俺はそう呟いた後、自分の頬に張り手(きあい)を込めたのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 ノレイス国の北に集う多くの冒険者。

 彼らの目に、恐怖の色はなかった。それは、過去コディーの魔力がアッシュを包んでいた状況に酷似(こくじ)している。


「へっ、何が始まるかと思えば工事かよ」

「ふん、どこで拾ってきたのかゴブリンたちが槍? 人間を真似るにも限度があるだろう。あの低脳共に人間様の恐ろしさってやつを教えてやらなくちゃな」

「はははは! そりゃいい! ついでに、『ここは人間様の領地だ』って事もな!」


 事実、ノレイス国は人材の宝庫だった。

 魔界が近い事もあり、魔族と戦う機会の多い冒険者の平均ランクはB以上。

 ノレイス国の兵士にしてもそうだった。兵士に志願をするためには、冒険者ランクCを経なければ入隊する事も出来ない、人界屈指の軍事国家である。

 ……だが、彼らは知らない。


「あん? 何だあの熊は?」

「コディアックヒグマァッ!? ははははは! 魔王軍も遂に獣に頼り始めたってか!」

「身体の大きさから見るに魔獣の(たぐい)か。高く売れそうな毛皮だな」

「んじゃ、早い者勝ちって事でいいな!?」

「お、じゃあ俺はランクSのシャドウに賭けるぜ!」

「あら、ランクSなら私でしょう?」

「確かに、リィナの爆裂魔法なら一瞬かもな! はははは!」


 そう、彼らは知らないのだ。

 魔界大門工事現場の目の前に立つそのコディアックヒグマが、ランクSの冒険者でも感知出来ない程、強大な魔力でこのノレイス国を包んでいた事に。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!」


 大地を揺るがすコディーの咆哮に、冒険者たちの喧噪がピタリと止まる。


「……へっ、威嚇だけはいっちょ前じゃねぇか」


 彼らは気付かない。

 しかし、彼らの身体は気付く。

 じわりと滲む汗、粟立(あわだ)つ肌、背中を通る冷気。

 それが緊張であり、恐怖であり、悪寒である事を理解する者はいない。

 この場にいる冒険者の数を考えれば、それは当たり前の事だった。

 たとえ経験豊富なランクS冒険者であろうが、あの熊にとってこの数は阻止不可能だという状況判断。

 相手(コディー)にとっても多勢に無勢。そう誰もが判断していたからだ。

 それに拍車を掛けたのは、冒険者ギルドへ依頼した国からの依頼内容だった。


「あの工事を妨害するだけで一ヶ月は遊んで暮らせるんだ。こんな楽な仕事はない」


 ターゲットはない、ただの妨害行動。それだけで報酬が支払われる。

 金に目がない冒険者たちが集う理由としては、当たり前の事である。


「賭けの対象となるんだ。分け前はよこせよ」

「お、シャドウが一番乗りかっ!?」


 疾風(しっぷう)の二つ名を持つ冒険者ランクSのシャドウ。

 漆黒の軽装に身を包みながら身の丈程の刀を操る熟練の冒険者である。


風刃(シンディ)がいないのは気になるが、いないのであれば私だろうよ」

「おっしゃ! 続くぜぇ~っ!」


 ノレイス国の騎士団長が剣を(そら)に掲げる。

 その合図を機に、全てが始まるのだ。


「全っ! 軍っ!! 進めぇええええええええっ!!!!」

「「おぉおおおおおおおおおおおっっ!!!!」」


 騎士団の馬が駆ける。その馬よりも速く動いたのがシャドウだった。


「ふっ!」


 風を置き去る程の速度でコディーとの間合いを詰め、コディーの領域(リーチ)に入る直前で自身の最高速を出した。

 一瞬にしてコディーの背後に回ったシャドウが繰り出した、後頭部への刺突(しとつ)

 誰もがそれで勝負がついたと確信した。

 だが、確信は一瞬に疑心へと変貌(へんぼう)する。


「人間には回復魔法ってのがあるんだろ?」


 シャドウの耳が、本日最後に拾ったのは、そんな疑問の声だった。

 そしてシャドウの目が、本日最後に見たのは……余裕をもって振り返り長い刀をくわえる…………(コディー)の満面の笑みだった。

 後日、死の淵から帰還したシャドウは語る。


 ――――まるでシルクを扱うように掴み……扱われた、と。


「っしゃおらぁああああああああああああ!!」


 シャドウの本日最高速は、自身が弾となる……コディーの大遠投によって叩き出された。

まだまだ続く・x・

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