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善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~  作者: 壱弐参


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「くっ、殺せ!」


 かの有名な「くっころ」が出たところで、俺は気付いた。

 なるほど、この声は女か。騎士ではないところが残念だが、間者が騎士ってのもおかしな話だ。肉感的な身体の…………褐色美女だ。瞳は紅く、薄紫の髪。肩が露出したシャツと革のパンツ。間者らしくかなりの軽装である。


「どこで捕らえた?」

「南の崖の上で我が軍のハルピュイアを監視しておりました」


 魔界と人界の裂け目だな。

 切り立った崖と崖の間を通らなければ、基本的には魔界へやって来られない。

 個人の能力が高ければ、崖上からやって来る事も可能だが、それを俺が許す訳がない。

 ハルピュイアはある意味囮である。


「なら、捕らえたのはオークキングか」


 オークキングのブレイクには、輸送隊を任せる訳にはいかない。

 何故なら彼にはそれ以上の実力があるから。輸送隊は部下にまかせ、崖からの侵入者の対応を任せていたのだ。

 当然、間者の前だ。ブレイクの種族を知らせても名前までは出せない。


「えぇ、閣下のご判断が功を奏したと言えるでしょう」


 そうミザリーが言うと、女から反応があった。


「ま、まさか気付いていたのかっ!?」

「警戒するのは当然ですわ」


 これまでやってなかったのに、そこまでドヤ顔で言える根性は凄いと思うぞ。

 しかし、人間が捕まったとなると俺の行動にも制限がかかるな。

 これは、ある意味大事件だ。


「さて閣下、この者をいかが致しましょう?」


 そう、「煮るなり焼くなり好きにしていいんですよ?」と言いたげなミザリーの期待を裏切らないために、ここを何とか乗り切らなくてはいけないのだ。

 まぁ、こうなったらやる事は一つだな。

 口の中に唾液を溜め……こんな感じか?


「ふっ、愚問だな……」


 俺の口からだらしなく垂れる唾液。


「……私はこの女から聞く事がある。少々席を外せ。ふふ、ふふふふ……」


 我ながら白々しい演技であるが、ミザリーは納得した様子で頭を下げた。


「かしこまりましたわ、閣下。どうぞ、ご存分に……」


 流石は悪魔(デーモン)種。俺のヤリたい事を理解したようだ。

 まぁ、実際には全然理解してないんだけどな。

 牢の鍵を手渡したミザリーの魔力反応が消えたところで、俺はじゅるりと唾液を口に戻す。

 あ~……気持ち悪かった。演技とはいえ下種びた野郎の振りなんてするもんじゃないな。


「……わ、私を……」


「どうするつもりだ」とまで言えないか。

 今のやり取りで、かなりの恐怖心をあたえてしまったようだ。

 人間の間者なのだから舌をかみ切るとかするのかと思えば、彼女の頭にそういった自決行動はないようだ。まぁ、それはそれでやりやすいからいいけどな。


「女」

「ひっ……」

「そう怖がるな。私は情報が欲しいだけだ。出来れば先程までいた悪魔(デーモン)にも知られたくはない」


 俺がそう言うと、牢の隅で警戒していた女の顔に、ほんの少しの余裕が生まれた。


「……ほぉ? 魔族も一枚岩じゃないという事か……」


 実はこれにも狙いがある。

 彼女にこちらの情報を渡す事。これが重要だ。

 何故なら、この情報を、女が勝手な納得をして依頼主に届けるという使命が生まれるからだ。「この情報を持って帰らねば」という女の生への欲求が生まれる訳だ。

 そして女はこうも思う訳だ。「もう少し情報を得られるかもしれない」と。

 まぁ、逃がしませんけど。


「ではまず自己紹介をしようじゃないか。私の名はビッグベア(、、、、、)。魔王軍の幹部(、、)だ」


 女にはまず二つの情報を与える。それは俺の名前と身分。当然、偽の情報だ。

 無言を貫く女には、次にこう言う。


「名前くらいはいいのではないか?」

「…………シンディ」


 二つの情報を与え、一つの情報を得る。相手の損を、こちらの損が上回れば、相手の情報を得やすくなるのが交渉で重要なところだ。

 相手が偽名だとしても関係ない。情報を与え合ったという事実と、名前を呼び合う仲になるという事実は変えられないからだ。


「シンディ、まずはあの要所の弱点をよく見つけたと言える。それだけで、シンディはかなりの体術、そして聡明さを持っていると見受けられる」

「……褒めても何も出ないわ」


 大丈夫だ、言葉は引き出せている。


「その身一つで我が同胞(どうほう)、オークキングと対峙するとは感嘆すべき豪気。して、あやつはどうであった? 強かったか?」

「流石はオークキングってところね。虚実を混ぜた珠玉の攻撃が、槍の一振りで掻き消されてしまったわ」


 と、そこで俺は頭に指を当てる。


「む、オークキングから連絡がきたぞ。なるほど、シンディの動きから只者でないと感じたようだな。『つい本気を出してしまった』と言っている」

「オークキングに念話の能力があるとはね。それとも……あなたの能力かしら?」


 どっちも違います。ただの演技です。


「それはご想像にお任せする。しかし驚きだオークキングを本気にさせる冒険者か……さぞ質の高い冒険者を抱える国なのだろうな。ともなると……依頼した国はライオス国(、、、、、)かな?」

「ふっ、どうしてそう思うのかしら?」


 ついに笑いまで出させたぞ。

 しかし、その笑いの中に嘲笑が混ざっていた事を、俺は見抜いた。となれば、こいつを雇って魔族を調べていたのは……やはりノレイス国。

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[良い点] コディーさんの悪い顔が目に浮かぶところ。
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