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007

「嘘!? 君、喋れるようになったのっ!?」


 夜な夜な練習していた人間言語。

 ついに習得した俺は、カタコトながら話せるようになっていたのだ。


「あぁ、ジジ、いつも、頑張って、いる」

「わぁ、わぁわぁわぁっ。ど、どどどどどうしよう……!」


 ジジは顔を真っ赤にさせ、両手で口を押さえた。

 そしてついに目頭から小さな雫を一つ垂らしたのだ。


「凄い……本当に凄いよ、君……!」

「あり、がと。ジジ、俺、名前、欲しい」


 これまでずっと呼ばれていた「君」という呼称。

 それが嫌だった訳ではない。けれど、名前を貰う事により、俺はジジに認めてもらえるような気がした。


「うん……、うん!」


 思えばひと月くらい共に魔物討伐をしただろうか。

 ジジはおっちょこちょいで、ドジで間抜けな点も多いが、とても優しい俺の仲間だ。

 彼女になら、たとえ裏切られても後悔しない自信がある。

 そんなジジだから、俺は俺なりの要望を伝えた。

 彼女から欲しい名前を。


「えっと……どうしようかな。プーちゃん?」


 早くも後悔しそうだ。

 そしてその名前は駄目な気がして首を振った。


「だめ」

「んー、それならコディーは? ほら、コディアックヒグマだし」


 おぉ、それはいいな。

 俺は何度か首を縦に振ると、ジジは嬉しそうに「よかった」と言ってくれた。

 ジジは指で最後の涙を拭い、晴れやかな顔になる。

 でも、まだやっぱりぎこちない。もう少し流暢に喋れるようになりたいものだな。


「今日、どこ、行く?」

「ふふふ、今日はちょっと頑張っちゃうよー」

「ジジ、張り切る時、そそっかしく、なる」

「うっ、コディーってそういう性格だったのー?」


 ぷすーと頬を膨らませるジジはなんとも微笑ましい。


「どこ、行く?」

「あー、もう。いいよいいよー。私一人で行くからー」

「それ、だめ。ジジ、俺が、守る」

「うぇっ? あ、え……はい」


 目を丸くしたジジをよそに、俺はジジが手元に出していた依頼書を覗き込んだ。


「……オーク、一匹。いや、違う」


 何かオークの文字の手前に見かけない文字がある。

 何だろう、これ?


「はぁ~……コディーって本当に頭いいのね。字も読めるようになったの?」

「記号で、覚えた。でも、まだ、難しい」

「うんうん、そうかそうかー。私が今度教えてあげるね」

「だめ、今、教える」

「はいはい。これはね、ハイ(、、)オークって書いてあるんだよ。わかる? ハイオーク」

「ハイ、オーク」

「うーん、よく出来ましたー!」


 まるで子供に言うような感じだな。

 まぁ、自分でもまだ拙いってわかるからいいんだけどな。

 しかしハイオークか。聞いた感じオークの上位種だとわかるが、ちょっと危ないんじゃないか?

 これまでのゴブリンやオークとは違うだろうし、不安だな。


「Dランクの冒険者はね? ハイオークが倒せれば一人前って言われてるんだー」


 ついこの前までEランクだったジジが、Dランクになる事が出来たんだ。

 そう聞くと、大丈夫に思えてしまうが、さぁどうだろう。


「……ジジ、乗る」

「うん!」


 そう、俺の成長と共に、ジジは俺の背中に乗るようになっているのだ。

 最初冗談交じりに乗っかってきたジジを、俺が冗談交じりに走り回ったら、いつの間にか定着してしまった。


「えっと、情報によるとあっちの方にハイオークがいるみたいね」

「わかった」


 俺は、この世界に来た時よりかは格段に強くなった身体を動かし、ジジが指差した方へ駆け始めた。

 平原をしばらく走ると、木々が多くなってきた。辺りの草も背が高く、中々に見通しが悪い。

 こちら側にここまで来るのは初めてだ。おそらくここはヴァローナと会った森から西にそれたところだろう。

 そう考えていると、俺の鼻が異臭を感知した。


「何か、いる」

「どっち?」


 ジジは小声になるや否や、俺の背で身体を低くした。


「あっち」

「それじゃあ慎重にね」

「任せろ」


 俺は腰を落としながら、草の中を進み始める。

 やがて草の樹海から俺の鼻先が出る。そこは小さな広場だった。

 半径十メートル程の小さな広場。その隅で腰を下ろしながら腕を組んでいるオークがいた。

 俺の頭の上からジジが顔を出すと「いたわね。あれがハイオークよ」と言った。

 通常よりも確かに強そうだ。以前戦ったオークのリーダーより三割増しくらい大きいだろうか。

 確かに俺もあの時より強くはなったが、あれと真っ向からやり合うのは難しい気がする。


「寝てる……みたいね?」

「どうする?」

「どうするって、倒すしかないじゃない?」

「作戦、ないのか」

「コディー……本当にクマさんなの?」


 強敵を前に冗談を吐ける胆力は見習いたいものだ。

 はぁ、仕方ない。囮役くらいはやってやるか。


「ジジ、あいつ、後ろから。俺、前から、ぶったたく」

「なるほどね。最初にコディーが不意打ちで起こして、ハイオークがコディーに気を取られてる隙に、私が後ろからって事ね?」

「ばう」

「それ、私結構好きなんだ」


 ホント、胆力だけは一級品だよな、ジジって。

 ジジは俺の背中から降り、草むらの中を慎重に歩き、静かにハイオークの背後に回った。

 ジジが草むらから顔を出した時、俺はのっそりとハイオークの正面まで歩いた。

 獣の忍び足ってのは便利なもので、ほとんど物音を立てずに動ける。何ともありがたい事だ。

 寝息を立てるハイオークの眼前に立った時、心音を身体で聞く程緊張した。

 出来るだけ最強の一撃だ。

 出来れば起こすよりそのまま永眠させるような一撃を食らわせれば、ジジの危険も少ないだろう。

 自然と俺は腰を低く落としていた。まるで空手の正拳突きの型のように。


「…………っ! ばうわぁああああああっ!!」


 瞬間、ハイオークの顔が消し飛んだ。


「あれ?」

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