067
「コディー様! 班分けが完了しやした!」
「それじゃあナイフ隊からいこうか」
「いく……とは?」
「訓練だよ」
「ま、まさかコディー様自らっ!? や、野郎共声出せぇええ!!」
「いや、声は出すな」
「……へ?」
「考えても見ろ。戦闘中に何故わざわざ声を出して疲れなくちゃいけない? 力と力の真っ向勝負ならわかるが、ナイフっていうのはそういう武器じゃない。どれ、一本貸してくれ」
「も、持てるんですかい?」
「訓練したからな」
俺は訓練場の広場に立ち、怯えながらやってきた小さなゴブリンからナイフを一本貸してもらう。
「構えは半身で、決して相手に正面を見せない事。片方の手は後ろに置く。これだけで怪我はぐっと減る。ゴブリンたちは体重が少ない。なら切るより刺す方が向いてる。今日はそれを重点的に磨け」
「へい!」
「短剣も基本は同じだ。棍棒隊、こっちに来い」
という具合に、武器毎の特性を教えつつ、ゴブリンの錬度の上昇を図る。
最終的には彼らの武器は全て槍で統一するつもりだ。
武具が揃い次第、槍にシフトする。現状から武器の違い、訓練の仕方に慣れておく方が後々受け入れ易いだろうしな。
ゴブリンはどこにでもいるというのがジジたち冒険者の言だ。
それだけの数を抱えている以上、ゴブリンへの指導こそが一番の強兵への道だろう。
「閣下、ただいま戻りました」
「ミザリー、次だ」
「と、言いますと?」
「魔族の水源へ案内してくれ」
「となるとリザード種ですね」
◇◆◇ ◆◇◆
魔王城の北に、東から西へ流れる大きな川が流れている。
ここに住む巨大なトカゲ――リザード種の幹部、リザードキングのジュカ。
緑色の鱗肌、鋭い指の間の発達した水かき。確かにファンタジー脳の俺がよく知るリザードさんである。
「用水路と水車……ですか?」
まぁ聞き慣れない言葉だよな。
「まずは用水路からかな。水路は私が引くので、心配する事はない」
「それがあるとどうなるのですか?」
「リザードたちが川から水を運ぶ仕事がなくなる」
「し、失業っ!?」
脊髄反射かよ。
「いや、他の仕事が出来るって事だ。ゆくゆくはジュカたちにも大森林構築計画に加わってもらうからそのつもりで」
「はぁ……?」
「よし、それじゃあ水路だけ作っちゃうか」
「閣下……?」
「コディー様……?」
ミザリーとジュカはきょとんと首を傾げているが、俺はそれを気にする事はなかった。
何故なら俺は、この短時間の間に過剰なまでのストレスを被っていたからだ。
「ふんがぁああああああああああっ!!」
揺れる大地、木々から飛び立つ怪鳥たち。
川から飛び出て来るリザードたち。
膝を突くリザードキングのジュカと、へたりと座り込む……ミザリー。
溢れんばかりというか溢れまくっている俺のストレスは、そのまま魔力へと変換され、俺の両前脚に集中していく。
「うらぁああああああああああああああああああああああ!!!!」
地中を泳ぐように突き進み、真っ直ぐ水路を掘る。
固い岩盤だろうがなんだろうが、今の俺にとってはただのプリンだった。
勢い以上のこだわりをもって、整然とした水路が形成されるまで、そう時間はかからなかった。
「……こんなものか」
夕刻、俺の一日の仕事が終わった。
こんな日が毎日続くのかと考えると億劫であるが、それは少しずつ減らせばいいだけだ。
まずはこの地を変える。難攻不落の魔界へと。
◇◆◇ ◆◇◆
「…………た、ただいま」
「「コディーッ!!」」
大森林に帰るなり、俺の顔面には神獣と王太子が飛び込んで来た。
「一ヶ月も手紙だけとは! この私を忘れたのかと思ったぞ!」
「仕方ないだろ、やる事が多すぎてこっちは一杯一杯なんだよ」
「コディー! ん~! コディーだぁ~!」
ディーナは引っ付いたままはなれない。頭をぐりぐりと俺の顎下に入れているばかりである。俺はディーナを抱え、広場まで歩く。
そこではニッサが待っていてくれた。
「お帰り……」
「ただいま。まぁまたすぐに出なくちゃいけないけどな。食料は足りてる? 持っていきすぎかな?」
「ううん。寧ろ増えてる」
ニッサは首を横に振って否定した。
しかし増えてるとは一体?
「ふふふ、私のおかげだなコディー!」
「どうしたんだ唐揚げ?」
「揚げるな!」
絶対美味しいのに。
俺はヴァローナを指差してニッサに聞く。
「どういう事なの?」
「コディーの力もそうだけど、最近ゴリさんとシロネコの力も強くなってきた。だから」
あ、うん。説明はそれで終わりなんだ。
「つまりあれか? そこの照り焼きの加護が更に強くなったって事?」
「焼くなぁ!?」
「うん、そゆこと」
ニッサの説明の補足を、何故か俺がした後、腕に乗っていたディーナが俺を揺さぶった。
「森もどんどん大きくなってるんだよ。もうすぐミスリル鉱山に届くってシロネコが言ってた!」
何その怪奇現象、怖い。
「向こうはどうだったの? 魔界魔界♪」
人間がきゃっきゃしながら「魔界♪」って言うと更に怖い。
まぁ、積もる話もあるし、色々話すとするか。




