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善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~  作者: 壱弐参


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 左前方にジジ、ダニエル。

 右前方にヴェインとアッシュ。

 なら中央にいるあの黒髪ロングの美女がアビーって女冒険者か。


『それにしてもディーナ? よかったのか、この作戦で?』

『ニッサが言ってたよ』

『何て?』

『これが一番怪我少ないって』


 なんという漠然とした作戦説明なのだろうか。

 まぁ、ディーナがいいと言うのであればそれはいい。

 がしかし、ディーナの理解はどこまでいってるのかが謎だ。

 これまでディーナには、少しずつ今の状況を説明してきた。

 ディーナの祖父にあたるライオス国の王が、ディーナを取り戻そうとしている事。

 その作戦の指揮をとっているのがライオス国の宰相である事。

 実行部隊には俺の友人が多数いる事。

 と、説明したところで五歳の頭に入ってる事はそう多くないだろう。

 それ以上にディーナにはあの日以前の記憶がない。受け入れる事自体が困難である事は明白。だが、今回はニッサの助言があったとはいえここまで出て来た。

 もしかして、ディーナの心の中で何かしら変化があったのだろうか。


『ゴリさん、いけそう?』

「ヴェインとアッシュか……まぁやるだけやってみるさ』

『シロネコは?』

『ふん、可愛がってあげようじゃない』


 まぁ、戦力バランスとしてはこんなものかもな。

 シロネコの相手もダニエルとジジ。ランクAの冒険者二人……か。

 本当なら俺がジジと戦いたかったが、アビーは俺が相手じゃないと厳しそうだ。

 俺たちの行動に慌てこそすれ、シロネコに近い実力を持ってると見た。

 徐々に、少しずつ、ジリジリと皆が近付く。

 相手方も、どうやら誰がどの獣と戦うのか理解しているようだ。


『よーし、ディーナ。人間の言葉で頼む』

『うん!』


 そう言ったディーナは大きく息を吸い込む。


「みんなー! やっちゃえぇええ!!」


 ディーナ将軍率いる俺たちは、その掛け声と共に高らかに叫ぶ。


「「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」」


 魔力を伴った全員の咆哮(ほうこう)はアビーの顔を凍り付かせる。


「やはり……魔獣たちを率いている!」


 そう、現場指揮官の目にそう映ればいいのだ。

 後はこの戦闘をなんとかやり過ごすだけ。

 両翼での戦闘は既に始まっている。ゴリさんとシロネコの奮闘に期待だ。

 まぁ、殺さないというのが一番の難題なんだけどな。


「リミ王女! 陛下が心配されております! さぁ、城へ戻りましょう!」


 当然、アビーの初手はディーナへの説得。


「私は! 帰りません!」


 ディーナも負けてない。この宣言からディーナの強い意思が見える。


「そっちが来ればいいじゃん!」


 ……子供ながらの我儘(わがまま)も忘れていない。

 まぁ、俺も過去言ったけどな。陛下だけならOKだって。


「陛下が、おじいさまが悲しまれますよ!」

「本当に悲しかったらここに来てるもん!」

「っ!」


 子供の心は正直で、真理。

 これ以上の説得は無駄だろうな。

 俺が立ち上がろうとすると、ディーナは俺の背中を滑り台の如くするりと滑り下りた。


「くっ!」


 アビーは身の丈以上の槍を構え、腰を落とす。

 直後、一閃という言葉が霞む程の一撃を俺は見た。

 俺の体表をかすめ、引き手すら見せない。かろうじてかわす事は出来たが、やはり人間は侮れない。

 どう見てもジジとそう変わらない年齢だというのに、彼女の錬度は本物だ。


「ならばこれならどうだ!」


 という言葉を聞いたら、さっきと違う攻撃がくる事は明白。

 俺が人間の言葉を理解していると知っていたら、彼女もこんな愚かな事はしなかっただろう。槍は先程同様に引き手を見せずに彼女の下に戻る。

 その後、華麗な技術で流れるように槍の持ち手が変えられる。右手から左手に移動したかのような槍は小円を描き俺の足下を払う。

 が、刃先で受けなければ、俺の毛皮はそれ以上の強度なのだよ。


「なっ!? 一瞬で間合いを詰めたの!?」


 後ろ脚に当たったのは槍の柄。

 後は槍を引かれる前にそれを掴めば……!


「ぎっ!? くっ……くくくくっ……!?」


 ま、ここが人間の限界だよな。

 俺は片手で槍の柄を掴み、アビーは両手でそれを引っ張ろうとしている。

 当然、びくともしない。後は皆の動きを見守るだけだな。しかし、それまで暇だなぁ。


「何だこの膂力は……!? お、おい貴様!? 何をそんな退屈そうな顔をしている!? 眠そうな顔をするな! くっ! こっちを見ろ! 熊めっ!」


 熊ですけど?

 俺は精一杯のジト目をアビーに送った後、先に動きがあったゴリさん側を見る。


「んなぁ!? 剣が折れちゃったっすよ!?」


 ゴリさんはアッシュが振り下ろした剣をかわし、足の裏でそれを上部から踏み剣を折った。技有りという感じのゴリさんの行動に、アッシュは悲壮感漂う顔をしながら頭を抱える。


「新調したばかりの剣なのにぃいい!?」


 仕方ない。アッシュにはまたミスリルをくれてやろう。

 鋼の剣よりというかミスリルソード作れよ。

 直後、ヴェインのなぎ払い攻撃にも反応したゴリさんは、寸分違わぬ位置でヴェインの剣を両手で挟んだ。上部からならともかく、真横の真剣白刃取りなんて初めて見たかもしれない。

「くっ!?」


 剣を奪いとられたヴェインは、ゴリさんから距離をとろうとした。

 しかし、それが敗因だった。ただでさえ速度で劣るヴェインが、速度の出にくい後退を選んではいけなかった。ゴリさんの前進速度はそれを凌駕し、ヴェインの腹部に強烈な一撃を叩き込んだのだ。

 ヴェインの意識は刈り取られ、アッシュは戦意喪失。

 ゴリさんは一度俺を見た後、二人を抱えて大森林へと向かった。

 さて、お次はシロネコだな。

 ジジの得物は変わらず剣。ダニエルはポールアクス。

 シロネコは速度で翻弄するタイプだが、攻撃力がない訳じゃない。

 特にサーベルタイガーの象徴ともいえる牙は、殺傷能力抜群である。

 だがしかし、殺しちゃまずいのだ。

 ジジが相手だ。できれば傷も付けないで欲しいところだが、はてさて……?


「はぁ!」

「おぅら!」


 急造のチームのはずだけど流石ランクA。ダニエルが上手い事ジジに合わせている。

 ジジが切り払ってシロネコを牽制すれば、回避したシロネコの着地点に合わせダニエルがポールアクスを振り下ろす。

 シロネコのポテンシャルであれば圧倒出来るかと思ったが、いかんせんシロネコ自体が人間と戦い慣れていない。

 モンスターみたいに真っ直ぐ向かって来ないのも人間の特徴だ。

 まぁ、シロネコの事だ。それもすぐに慣れていくだろう。

 が、そうはならなかった。


「はっはっはっは! やるな、ジジ!」

「ダニエルさん、しぃー!!」


 なるほど、俺の見解が甘かった。

 この戦闘を掌握していたのはダニエルじゃなくジジだった。

 そうだ、ジジは俺とよく戦い、訓練を積んだ。俺だけじゃない、俺という存在をいると知っているからこそ、獣との戦闘は幾重にも積み重ね、足りない部分は想像で補ったか。

 ジジのヤツ……都度戦いの呼吸を変えている。

 戦闘のリズムを把握したいシロネコ。だが、そのリズムが定まっていなければ、シロネコの慣れは一向にこない。むしろ、ダニエルがジジに付いていくのが大変そうだ。

 ふむ、やはりジジは俺が相手すればよかったかもしれない。

 攻めきれないシロネコに罪はないが……仕方ない。両者に怪我あっても()だ。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「なっ!?」


 俺は今一度大きな咆哮を放つ。

 アビーが驚いたのも無理はない。これは、単純な大声だから。

 魔力の伴わない声に何の意味がある。単なる威圧に屈する冒険者ではない。

 そう思うのは早計だ。これは合図。

 大森林に協力する……とある人間への合図なのだ。

 そう、人間とは(すなわ)ちニッサたんの事である。

 俺の合図により、ニッサが張っていた結界が解除される。

 瞬間、吹き荒れるは……俺の魔力。


「……な、なんだこれは……?」


 槍からも伝わる程の緊張。そしてそれ以上の恐怖。

 俺はこれまでニッサの結界により魔力の遮断をしていたのだ。ココの町すらも包み込む巨大な魔力を。

 これが解放される事で何が起こるか。

 俺の魔力を感知していなかった冒険者たちに、強力な魔力を浴びせる事が出来るのだ。

 ココの町には魔法障壁があるはずだが、この場にいるジジ、ダニエル、アビーにはそれが掛かっていない。


「くっ……! 油断したっ!」

「こ、こんなのずるいよ……コディー……」


 狡さも強さの一部だぞ、ジジ。

 一瞬でこの場を包んだ俺の魔力により、ジジ、ダニエルは自身の肩を抱えながら(うずくま)る。二人の身体には恐怖、寒気、目眩、吐き気という様々な状態異常が起こっているだろう。


「ば……ばけもの……」


 当然、このガタガタ震えるアビーにも。

 遠目に見えるシロネコは若干不服そうだったが、攻め切れなかった自分の甘さも認めているようで、ダニエルの腹下に頭を通して背に乗せ、ジジの服を咥えてジジを持ち上げた。

 そして、大森林へと消えて行く。


「とうっ!」


 すると、ディーナが跳び箱よろしく俺の背に跳び乗った。

 何故ディーナやシロネコが俺の魔力の影響を受けないのか。

 当然それはもう一人の協力者のおかげである。

 そう、俺より上位の存在。神獣ヴァローナの加護のおかげなのだ。

 ……まぁ、今頃家で羽繕いでもしてるだけで、何もしてないんだけどな。


「はぁ……はぁ……リミ王女…………一体何を……?」


 目も霞むであろう朦朧としたアビー。

 ディーナが答える事はない。

 俺はアビーを持ち上げ、大森林とは反対の方向へ走って行った。

 アビーと他の四人の分断。これがこの作戦の肝だ。

 大森林の反対側に向かった先にある町。そう、ココの町である。

 門番に警戒される中、俺はアビーをココの町の南門の前におろす。


「お帰りください!」


 最後はディーナが決め台詞を吐き、とりあえずは終了っと。

 さぁ、楽園に戻ろう。

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