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善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~  作者: 壱弐参


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059

 アビーへの報告を終えた後、ダニエルは自室へと戻っていた。

 同室のアッシュがベッドに座りながら呟く。


「何が楽しくてこんなオッサンと同室なんだか……」

「それは俺の台詞だよ。ったく」


 聞こえていたとは思っていなかったようで、びくりとしたアッシュが取り繕うように言う。


「こ、こんだけの実力者を揃えるんだから、少しは気前よくてもいいでしょうに……」

「だからだよ。実力者を揃えたからこそ金がないんだ。予算をやりくりして男は二人部屋。女もアビーさん以外は二人部屋さ。ま、ヴェインと同室予定だったゲラルドと、ジジと同室予定だったシェインは――――……と、まぁ今話す事じゃないな」


 するとアッシュは声を落として言った。


「やっぱりコディーさんたちに?」

「あぁ、三食昼寝付きの臨時捕虜らしい」

「うわぁ、羨ましいっすね。アビーさんには何て?」

「『目視での確認は難しかったが連れ去られた痕跡を見つけた』って報告しといたよ」

「ま、それしかないっすよねぇ。でもこの後どうするんですか?」


 アッシュがベッドに身体を預け、仰向けになりながら言うと、ダニエルは不可解な事を言った。


「この後の事は……この後決める」

「……はぁ?」


 身体を起こしダニエルの言葉の意味を探るアッシュ。

 しかし、ダニエルはニヤリと笑うばかりで何も答えてはくれなかった。

 すると、まるでダニエルの代わりかのように返事をしたのは、その背後にある扉からだった。

 返事代わりに響く扉のノック音。ダニエルが扉に近付き、「誰だ?」と言う。

 すると、扉の奥から聞こえる「ヴェインだ」と「ジジでーす」の声。

 扉を開き、二人を招き入れるダニエル。

 アッシュは首を傾げながら言う。


「何で二人が?」

「あの方から伝言があるんだよ」


 ダニエルは扉を閉めた後、自身のベッドに腰掛けた。

 ジジはソファーに腰を下ろし、ダニエルの言葉を待った。


「それで、話ってのは何だ? あの方(、、、)というのも気になる」


 ヴェインは壁にもたれかかりながらダニエルに言った。

 するとダニエルは咳払いをしてから話し始めた。


「まずはアビーさんからの指示だ。ゲラルドとシェインは大森林で消息を絶った。各自これを認識し、明日の行動の際、新たな情報が入り次第報告せよ……との事だ」

「そうか」

「へ、へぇ~」


 ヴェインは淡々と聞き、ジジはヴェインの方へ目を逸らした。

 それを見たダニエルがくすりと笑う。


(なるほどな、コディーさんが言った通りだ)


 直後、ダニエルは上体を前に倒した。

 まるでここからが本題。ジジ、ヴェイン、そしてアッシュもそれがわからない訳じゃなかった。


「ここからは我々を身内と理解した上での話だ」

「みう……ち?」


 ジジが小首を傾げながら言った。


「……名前は伏せるが俺とアッシュには、()にとある友人がいてな。その友人が言ってたんだよ。ヴェイン、ジジ……二人はその友人と知り合いだって」


 南と言った事で二人の頭にある存在が過ぎる。

 しかし、それを断定してしまうにはまだ早計。そう判断した。


「誰の事だ?」

「う~ん、南……だけじゃわからない、かな? ははは」


 当然、アッシュは気付いた。そして二人を見た。

 まるで秘密を共有している仲間かのように。

 その後ダニエルはくすりと笑みを見せた後、指を一本立てて言った。


「その方は茶髪(、、)けむくじゃら(、、、、、、)で……得物はミスリルクロウ(、、、、、、、)


 ダニエルがそう言ったところで、二人の頭の中にはコディーという存在が確立した。

 二人の顔に理解が見えたところで、ダニエルは言葉を続けた。


「さっきな、偶然その方と会ったんだよ」


 先程行った大森林で、と言わないあたりがダニエルなりの処世術なのだろう。


「んで、あの方からの伝言があってな。共通の知り合い全員に集まってもらったって訳だ」

「なるほどな、アビーからの指示は上手くダニエルが誘導したという事か」


 そう、ヴェインの言うとおり、長年冒険者をやっているダニエルといえど名目なく部隊長以外全員を招集する事など出来ない。それには部隊長であるアビーの指示が必要。その機会を設ける事が出来たのは、全員との情報共有を買って出たダニエルの手腕の成せる(わざ)だった。

 それを聞いた後、ジジの目は輝かんばかりに光っていた。


「ね! ね! 伝言って何っ?」


 相棒とも呼べる存在からの伝言。ジジが喜ばないはずがなかった。

 それを受け、ダニエルとアッシュは見合って笑い、ヴェインはすんと鼻息を吐いて肩を竦めた。


「伝言って言ってもそう長いものじゃない。所謂(いわゆる)、意気込みみたいなもんだったからな」


 そう前置きしたところで、ダニエルはニヤリと笑ってから全員に伝えた。

 コディーの強き伝言を。


「『全力で来い。全力で迎え撃つ』」


 これを聞き、アッシュは額を押さえ苦笑し、ヴェインとジジは目を丸くして驚いた。

 だが、驚くだけでないのがこの二人だ。

 すぐにその目の色が変わる。仲間とも呼べる相手からの激励とも思える挑戦状。

 ヴェインの目に強き意思が、ジジの目に熱き闘志が。

 ダニエルが立ち上がり、中空に右手を置く。

 載せられるアッシュの右手、ヴェインの右手、そしてジジの両手。

 ジジは言う。強く高らかに。


「やってやろうじゃない!」

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