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善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~  作者: 壱弐参


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 ここはライオス国最南端にある小さな町――ココ。

 ココの町は規模こそ小さいが、人口は密集している。何故なら生息するモンスターは比較的弱く、新人ながら冒険者が多い事もあり、首都ライオスに多くの土地代を掛ける事を考えれば住みやすい町として人気が高かった。

 ――そう、高かったのだ。

 しかしそれは、最近になって変わり始めた。

 数ヶ月前より、ココの町に噂が流れた。噂は、誰が流したかいつの間にか広まっていた。

 ココの町の南にある大森林――そこに巨大な熊が住み始めたという噂が。

 その噂に対し、誰もが首を傾げた。


 ――――あそこにはオークジェネラルがいるのに、と。


 しかし、噂は現実味を帯びていく。

 ある時期、冒険者ギルドより多くの討伐依頼が出された。

 依頼内容は主にオーク、ハイオークの討伐。

 突如オークが出現する不思議。近くにダンジョンはなく、出現する理由がわからない。

 だがその理由は、冒険者たちの討伐報告に付随(ふずい)する調査報告でより明確化される。


 ――――オークたちは怯え切っていた、と。


 そう、オークたちは元々大森林を根城にしていたのだ。

 それがココの町近隣で発見されるという事実。その事実を、冒険者ギルドは重く受け止めた。何故ならオークたちの異常とも思える行動は一つの答えに帰結していたからである。

 オークたちは住処を追われたのだと。

 その時、ココの町には一人の冒険者がいた。

 彼は、冒険者という肩書き以上のソレを有していた。

 彼の名はヴェイン。勇者という肩書きを持った将来有望の若者である。

 軽い性格からヴェインを軽視する冒険者は多かった。

 しかし、ある日を境にヴェインは変わった。ひたすらひたむきに自らを鍛え始めたのだ。

 そのヴェインが言ったのだ。「心配するな」と。

 彼の言うとおり、ココの町に以降被害はなかった。それどころか、より安全な町へと変わっていったのだ。

 その後ヴェインは冒険者ランクCに上がり、首都ライオスへと旅立って行った。

 しかし、ヴェインはすぐにココの町に戻る事となる。理由は定かではないが、一通の手紙(、、、、、)を持って帰って来たのだ。

 皆の制止を聞かず、ヴェインは南の大森林へと向かった。

 翌朝、ヴェインは清々しい様子でココの町に帰って来た。傷だらけだったヴェインの鎧が更にボロボロになっていた事から、「熊にやられた」、「熊をやっつけた」と噂されたが、彼は否定も肯定もしなかった。

 ヴェインが再びライオスへと旅立った後、事件が起きる。

 それは、ココの町に住む全ての住民を脅かすような事件だった。

 ソレが起こった時、大パニックを起こす住民もいれば、気を失う住民もいた。

 事件とは(すなわ)ち、南方から今にも届きそうな超魔力を肌で感じ取ったからである。その発信源が南の大森林である事は明白だった。

 すぐに集められた多くの冒険者。選りすぐりの魔法士たちがココの町に魔力の障壁を築き、とりあえずは事なきを得た。しかし、解決には至っていない。

 翌日、冒険者ギルドにある通達があった。


 ――――大森林に手を出すべからず、と。


 通達にあった内容は至極単純かつ明快だった。

 差出人は、ライオス国宰相――リードルード。

 冒険者ギルドはただちに大森林を第一級危険指定地域に指定。

 これにより許可なき冒険者は大森林に近付く事が出来なくなったのだった。

 ココの町の南からモンスターは消えた。従って南門を出る冒険者はいない。

 しかし、許可のある者は別である。

 それが、ランクA冒険者のダニエルと、ランクB冒険者のアッシュである。

 足取り軽い彼らを見て、誰もが「流石一流の冒険者」と(ささや)く。

 住民たちも冒険者たちも、ダニエルとアッシュを羨望の眼差しで見る。

 だが一部ではこう言われるのだ。「足取り……軽すぎでは?」と。

 アッシュは最近懐が潤っているようで表情にゆとりを持ち、ダニエルは大森林に向かう事を楽しみにしているように見えるという証言もある。

 ある一人の冒険者が二人に聞いた。「あの森で一体何があった?」と。

 しかし彼らは一流の冒険者、険しい顔つきでこう返したのだ。「悪いな、外部の人間には話せない(、、、、、、、、)」と。

 この返答から、彼らの様子を怪訝に思っていた者たちは心改める。

 そう、「あの二人は国に認められた冒険者」なのだ。

 決して大森林に住む獣に接触し、キャッチ&リリースされたり、仲良くなったり、ミスリルを譲渡してもらったりはしていないのだ。この高潔さに感銘を受けた住民たちは彼らの無事を祈るように手を合わせる。

 そして、その決着をつけるかのような出来事が起こる。

 まず最初にココの町に戻ったのは勇者ヴェインだった。より逞しくなったヴェインは、ダニエル、アッシュと合流し固い握手をかわす。

 冒険者ギルド内で起こった勇者と高潔な二人がかわした握手。これが悪手だった。

 遅れて戻って来たジジも冒険者ギルドに集まってしまい、皆これを目撃してしまったのだ。集いし四人の冒険者。これにより誰にでも理解出来てしまうのだ。

 彼らは大森林に対し、何らかの行動を起こすと。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「どういう事よっ!!」


 ココの町の宿の一室。そこにあるテーブルに苛立ちをぶつける女冒険者。

 長く美しい黒髪を持ち、細い身体ながら肉感的、端正な顔立ちをした女だった。

 部屋のソファーにはヴェインとジジ。丸椅子にはアッシュ。

 そして女冒険者のご機嫌を(うかが)うように立っていたのはダニエルだった。


「え、えぇ~っとアビー(、、、)さん? 何がでしょう?」


 ダニエルは言った。

 するとアビーは鋭い目付きをダニエルに向けた。

 さっと目を()らしたダニエルに罪はない。それ程の視線だったのだ。


「わからない? あなたたちが軽率な行動をしたおかげで、今や町中大騒ぎよっ」

「軽率な行動……ですか?」

「あなたたち二人が先んじて大森林を調べている事は町の人間なら知っているでしょう。ヴェインやジジがギルドっていう目立つところでこの二人と握手なんかかわしたら作戦のメンバーだってすぐにバレちゃうじゃないっ!」


 アビーの怒りはそこにあった。

 出来るだけ静かに動きたかった彼女の目論みは、彼女がココの町に着く以前に消え去った。これに疑念を持ったヴェインがアビーに聞く。


「目立つとまずいというのか?」


 すると今度はアビーの強い視線がヴェインに向く。


「だからあなたはまだまだお子様なのよ」


 こう言われて黙っていられる程ヴェインも大人ではない。立ち上がり反論しようとするヴェイン。しかし、これを止めるのがジジだ。

 ヴェインの腕を掴み、目を見つめながら無言で首を横に振る。

 ジジの判断と厚意を無駄にしないため、ヴェインは押し黙った後、どすんとまたソファーに腰をおろした。


「アビーさん、全員の理解を統一する必要があります。説明を」


 これがヴェインの反論を代行するジジの言葉だった。

 しかし、こう言われてはアビーも答えなくてはいけなかった。

 彼女は大きな溜め息を吐いた後、肘を抱えながら中央の椅子に腰掛け足を組んだ。


「……これは、まだ大きな声じゃ話せないけど、ライオス国の北側が騒がしくなってるのよ」

「「っ!?」」


 ここまで言われれば、全員が理解してしまう。

 アッシュが確認するようにアビーに言う。


「名だたる冒険者がこのココの町に集まってれば、首都ライオスの守りは手薄になる……って事すか?」


 アビーは静かに頷く。


「で、でも今回はたった七人でしょう? 首都ライオスにはまだ強い冒険者もいる。そんな簡単に――」

「――どんなに小さくても、綻びは綻びよ」


 アッシュの言葉はアビーの一言により制される。


「リードルード様は言ってたわ……『ノレイス国(、、、、、)にこれ以上弱みを見せる事は出来ない』とね」

「そういう事でしたか」


 ジジがそう言って理解を示すと、アビーは鼻息をすんと吐いてから言った。


「……私の事前連絡が甘かったのは認めます。ですが以後、目立つような真似は避けてちょうだい」


 言い切ると、四人は静かに首を縦に振った。

 その後、アビーは腰のポーチから懐中時計を取り出した。

 外はもう日が暮れかけ、夜に差し掛かるというところ。


「集合時間はとっくに過ぎている……」

「後二人でしたっけ?」


 ダニエルが聞くと、アビーは肯定するように言った。


「大森林へ偵察に行ってるはずなんだけど……」


 瞬間、全員がアビーから目を逸らした。

 アビーはそれを疑問に思わなかった。何故ならその反応は当たり前だと思ったからである。


「やはり、大森林に住む魔獣に……!」


 直後、頬を膨らませるジジ。

 そんなジジをアビーの視線から隠すように立ち上がるヴェイン。

 素知らぬ顔をするアッシュ。

 唯一困り顔を浮かべるダニエル。そんな彼にアビーの視線が向いてしまうのは当然だった。


「あなた、ダニエルだったかしら? 何度もあの大森林に侵入してるんでしょう? 申し訳ないけど偵察をお願い。彼らの消息がわかればそれでいいわ。名前はゲラルドとシェインよ」

「ですよね~……」


 この一時間の後、ダニエルは違うテンションで同じ言葉を吐く事になるのだった。

ですよね~

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