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『何だ、ここか』
シロネコは楽園を見上げそう言った。
おかしい、シロネコのこの言い方……まるでここを知っているかのような物言いだ。
いや、待てよ? もしかして……もしかするのか?
『何だ、知ってる魔力だと思ったらシロネコだったか』
『やはりヴァローナ……様っ』
シロネコの体躯で『ヴァローナ様』か。いや、ちょっとだけ皮肉が込められてたな?
もしかしてヴァローナはシロネコにそこまで好かれていないのではないか?
『知り合いなのか?』
『前に言ったじゃないか。この森にはもう一匹獣がいると』
やはり、それがシロネコの事だったか。
しかし、シロネコのヴァローナを見る目は、どことなくジト目に近い。
過去何かあったのだろうか? いや、ないと出ていかないよな。ここ。
そう思い、俺はシロネコに耳打ちしてみた。
『前に何があったんだよ?』
『ふん、ヴァローナは我に狩りをさせるだけさせ、こき使ったのだ』
『もしかしてオークの事?』
『そうだ。一日一匹上納とかふざけている! オークジェネラルに目をつけられるからな。まぁ、我も聖獣となった身。この森のオークジェネラル如き今は怖くもないがな』
『あぁ、それなら俺が退治した。今この森にいるのは動物だけだぞ』
『ほぉ、流石は我を破った熊……いや、しかし人間くさいぞ?』
『忘れてた。人間もちょこちょこ遊びに来るから、襲っちゃダメだぞ』
『一体どういう場所なのだ、ここは?』
『言ったろ? 楽園だよ、楽園』
まぁ、開発中みたいなものだけどな。
「む、帰ったか。コディー」
「ん? ゴリさんちょっと魔力上がった?」
「やはりわかるか。二人が出かけた直後に変異した」
「おぉ、それじゃあゴリさんはついに霊獣になったのか!」
コクリと頷くゴリさん。
そう、魔獣と聖獣の間には《霊獣》と呼ばれる期間がある。俺はそれを二段飛ばしして聖獣化したのだ。つまり、俺に霊獣期間はなかった。ヴァローナには『異常な存在』とも言われたが、悪い事ではないらしいので、俺は気にする事もなかった。
『久しいな、シロネコ』
『ゴリさんもいたのか。なるほど、コディーが言う楽園の意味が薄々わかってきたな』
『何だよ、お前たちも知り合いなの? じゃあ俺、怪我しただけ損じゃん?』
『縄張りに入ったのであればあれが普通だ』
シロネコはもっともらしい事を俺に言った。
『他のヤツの縄張りなんて、どうやったらわかるんだよ?』
俺の質問に、誰も答えてくれない。
それは決して集団無視のようなイジメではない。皆、答えに困っていたからだ。
『『……雰囲気?』』
辛うじて出した獣たちの答えがこれ。
『くそ、理屈の通らない答えは嫌いだ……!』
因みに、俺の縄張りには、至る所に俺の爪痕がある。
先程のミスリル鉱山にも付けてきたから、おそらく侵入する者も少ないだろう。
うーん、こういった事であるのならわかるのだが、流石に理由もなく雰囲気と言われても納得出来ない。
もしかしたら俺は、獣としての何かが欠如しているのかもしれないな。
『ゴリさん、シロネコにこの森の注意事項説明してあげてくれ。特に、ディーナの事な』
『任せてくれ。付いて来いシロネコ。ここは楽園だぞ』
森の賢者とも呼ばれるゴリさんが楽園という位には、住み心地はいいようだ。
肉食の動物でも、極力魔物の肉で何とかなってるし、川も通ってるので魚もいる。
木々や植物からは果物や蜜も採れる。確かに楽園である。
だが、そうも言ってられない事態が、すぐそこまで迫っているのもまた事実なのだ。
シロネコから降りてきたニッサと、ヴァローナが楽園の入り口にとどまる。
「ミスリル鉱山は手に入れた」
「それは何よりだ、コディー。私の助言が活きたという事だろうな! ふふん!」
最近は余り見る事のなかったヴァローナのドヤ顔が久しぶりに炸裂した。
といっても、いつもの事であるのは変わりないので、いつも通り無視する。
ニッサが俺をチラチラ見ている事だしな。まぁ見ている理由は一つだ。
ヴァローナに話しておくべき事があるから。それだけだ。
「ミスリル鉱山に向かう途中、魔王軍の幹部――ハルピュイアのルピーに会った」
「何だって!?」
「しっ! あまり声を荒げるな。皆に聞こえちまう」
シロネコやゴリさんならともかく、他の仲間に聞かれるのはあまりよろしくない。
何故なら、獣とは総じて臆病なもの。たったそれだけで体調を崩す獣がいたとしても不思議ではない。
「うぅ……お腹が痛い……」
まぁ、ヴァローナはいいんだ。うん。
「魔王軍に幹部として迎えたいってさ」
「……それで? 何て答えたんだ、コディーは?」
「条件の見直しを提示して帰って来たよ」
「どういう事だ?」
「まぁ、それは後で話す。ニッサ、世界地図はあるか?」
「ある」
言いながら、ニッサは鞄の中から世界地図を出してくれた。
「ここがライオス国。だから、ココの町はここ」
「ならこの森が楽園だな。魔王城は?」
するとニッサは首を横に振る。
「詳細はわかってない。ライオス国の北、ノレイス国の更に北にあると言われてる」
「ハルピュイアのあの速度でそこまで行ったとして、ここに戻ってくるまでに何日かかると思う?」
「……たぶん、一週間くらい」
なるほど、一往復一週間ね。
「……やっぱり、今日のコディー怖い」
「ハハハハ。獣とはかけ離れた笑顔だな、うん」
くまさんこわいくないお。
くまさんこわくないおー




