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 いやいや待て待て。

 ニッサ、ヴァローナ、ゴリさんの「ある」が全部同じ物を指しているのか。まずその確認からだろう。


「じゃあゴリさんから」

「ミスリルだ」

「私も同じだ」

「うん。同じ」


 ゴリさんの返答に、ヴァローナとニッサが同意した。

 なるほど、どうやら皆は同じ物を考えていたようだ。

 しかし、ミスリルだと? 俺もジジからもらったミスリルクロウを使う身だ。その威力からして価値は理解出来るし、以前ヴェインから話も聞いている。そんな貴重な物が楽園の近辺に存在しているとは思わなかった。


「コディーも聖獣になったんだし、ちょうど良い機会かもしれないな。なぁゴリさん?」

「えぇ、コディーなら、何とかしてくれる、思います」

「私も、大丈夫だと思う」

「え、ちょっと待って。何その雰囲気?」


 ヴァローナの言う「良い機会」とは何の事だ?

 ゴリさんの「何とかしてくれる」とは?

 ニッサの「大丈夫」はどういう事か。

 善良なる隣人ことコディアックヒグマの私は、意を決して三人に聞いてみた。


「……どういう意味?」

「西にミスリルが採れる鉱山があるのさ」


 ヴァローナの言葉だけでは、別に何の問題も無さそうだが?


「だが、そこは誰も、手、付けない。魔族も、人間も」


 ゴリさんの言葉でほんの少し見えてきた。暗雲ってレベルで曇ってはいるが。


「魔王軍の幹部でさえ制御不能の魔物がいるって話」


 ニッサの言葉からようやく答えを得られた。

 つまり、俺はその魔物を倒さなくてはいけないという事だ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「何で皆付いて来てくれないんだよ!?」

「いいじゃない。私がいるんだから……」


 俺の背でボソりと言ったのは、最近ゴリラの群れにとても人気の女魔法使いニッサたんである。いや、自分で言って少し気持ち悪かった。

 そう、ニッサちゃんだ。……ニッサだ。


「西の山ねぇ……」


 ココの町の南に位置する楽園の森。

 その森の中に流れる川。正確には森の間を通っている北から南に流れる川だが、そこを東に向かって越えるとディーナを見つけた平野がある。その平野を南下すればゴリさんたちがいた密林に着く。

 しかし、今回向かうのは西。

 これまで足を運んだ事のない地である。

 地理に明るいニッサが付いて来てくれたのは有り難いが、今回のパーティが俺とニッサだけなのは納得いかない。

 俺は遠目に見える西の山を見ながら溜め息を吐く。


「しょうがない。コディーが外出するなら、ゴリさんがいないと楽園守れないし……」


 ついに人間のニッサがあの森を楽園と言うようになった。

 まぁ、それは俺たちが言い続けたから耳に慣れただけなのかもしれないが、最近ニッサは一日の大半を楽園で過ごしている。確かに過ごしやすいだろうが、それは人間界と離れているという事。これがまだ若いニッサに良い事なのかは、俺にもわからない。


「せめてヴァローナは付いて来るべきだろう」

「ヴァローナの魔力は既に楽園と密接。今、神獣であるヴァローナが森を離れるのは危険」

「どういう事だ?」

「楽園を守ってるのはコディーだし、コディーの魔力。神獣であるヴァローナはそのコディーたちを守ってる」

「わざと難しく言ってる?」

「そうじゃない。神獣の役割は獣たちの安穏(あんのん)。簡単に言うと、ヴァローナのおかげでコディーたちは病気にならない」

「おぉ! そりゃ凄いな!」


 そうか、ゴリさんを助けに行く時は、森に俺とディーナ、そしてヴァローナしかいなかったが、今はもう違う。楽園には多くの獣たちがいる。ヴァローナは存在するだけで彼らを守っているという事か。


「それってつまりヴァローナの加護(かご)って事?」

「おぉ……それ、わかりやすい」


 もうちょっと魔法使いっぽくてもいいのに。


「なるほどな。神獣の加護か」

「戦闘向きじゃないヴァローナの魔力は多くない。あの楽園が精一杯」

「ふーん、そうか。じゃあしょうがないな」

「でも、多分コディーが神獣になればライオス国全部が加護の対象になると思う」

「はっ?」

「聖獣の段階でココの町すっぽり。神獣になれば魔力はおそらくライオス国を包む」

「いやいや、さすがに国全体はないだろう」

「多分、なる」


 ニッサの自信は一体どこからくるのかわからないが、ここまで頑なに言い張るんだ。何か理由があるのかもしれない。その理由を尋ねようと思った瞬間だった。

 空に異変を感じたのは。


「……何か来るな?」

「え?」


 俺は立ち上がり、俺の背からすとんと落ちたニッサを抱きかかえる。


「ふぇ?」

「よっと」


 俺が後方に跳んだ瞬間、俺とニッサがいた場所が大きく穿たれたのだ。

 見上げると、太陽の中に一つの黒点が見えたのだ。

 それは、まるで人型の鳥。いや、翼の生えた人間のようなシルエットをしていた。

 俺の視線に追いついたニッサが空を見上げる。


「っ! ハルピュイアッ!」


 どこかで聞いた事のある名称だ。いや、知っている。

 あのシルエットを見て、その名称とくれば、わかってしまうものだ。

 あれは正しく、別名ハーピーと呼ばれる。怪鳥の魔物。


「あら、外した? ブレイクの言葉も満更嘘じゃなさそうね」


 (つや)のある女の声。そんな印象だった。

 しかし気になる事を言ったな? 確かに言った。「ブレイク」という言葉を。

 俺の知る限り、ブレイクというのは名前であり、脅威の存在。

 それ(すなわ)ち、魔王軍幹部のオークキングの名前。


「魔王軍か」

「んふふふふ、せいか~い」


 ついに動き始めたか、魔王軍。

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