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「ははははは! そうか。違約金すら払えなかったのか、アイツら」
豪快に笑う俺をきょとんと見るディーナ。
「コディー、いやくきんってなぁに?」
「約束と違う事したらお金を払いますよーっていう決まり事みたいなものだ」
「ふーん、何でお金払えなかったのかな?」
「ニッサのお給料が高かったからだろうな」
「それは違う。正確にはコディーが追い剥ぎばかりしてたから」
そう言って俺の言葉を否定してきたのは、先日の女魔法使いニッサ。
ランクA冒険者のニッサは、あの後本当に俺の下にやってきたので、何度か話をした。
どうやらあのメンバー以外にも斥候が一人いたそうだが、俺の魔力に怖じ気づいて速攻で逃げ出したのだと。……多分、ソイツが一番の実力者だと思う。
まぁ、ニッサも気付いてはいたんだが、好奇心の方が強かったそうで、ここまで付いて来たようだ。
あの後も、あのグループは当然やって来た。契約上、仕方なくニッサもやって来ていたが、攻撃が単調過ぎて笑うのを堪えるのが大変だった。当然、ニッサは他の仲間にバレないように動いてはいたようだが、俺にはすぐにわかった。
彼らが来る度に、俺は装備を剥ぎ取った。当然、徐々にその武具の価値は下がっていった。稼ぐための経費が嵩むと、それは当然なのだろう。
高ランクの冒険者であるニッサを雇っていた彼らは、ついにニッサへの給料も払えなくなった。ニッサも辞めたがっていたが、契約期間もあったし、違約金を払うのも馬鹿らしいと思ったのだろう。彼ら側のパンクを待ったというから、ニッサは強かさを備えた魔法使いと言えよう。
「それで、違約金が払えないとどうなるんだ?」
俺の問いに、今度はダニエルが入ってくる。
「普通なら、ココの町の冒険者ギルドに借金をする事になります。しかしそれをすると冒険者ランクの降格処分や活動制限を強いられますので、町にある金利が高い金融業者を頼る冒険者も少なくありません」
「へぇ、じゃあ今頃アイツらは金策に走ってる訳だな」
「借金……地獄」
ニッサの他人事感覚の言葉に俺は苦笑しつつ、背後の木陰に隠しておいたニッサの装備を取った。
「ほれ、これが一番金かかってるんだろう?」
「え……いいの?」
ニッサは未だ幼さ残る顔を上げ、俺を見る。
「アイツらと一緒の時には返せなかったけど、辞めたってんなら話は別だよ」
「ははははは! コディーさんは気前が良い!」
ダニエルの快活な笑顔に釣られるように、ニッサは微笑みを浮かべそれを受け取った。
「なかよしー!」
ディーナも嬉しそうに笑い、俺も心が喜んでいるのを感じた。
「ちょ、ちょっとちょっと! ダニエルさん! 対象者が目の前なのに何でそんなに笑ってられるんですか!? 仕事しましょうよ! 仕事!」
そんな俺たちの間に入って来たのは、ダニエルに付いている新人――アッシュだった。
対象者ってのは勿論ディーナの事。仕事とは勿論、ディーナの救出の事。アッシュの感覚は何ら間違っていない。人間の感覚を知っている俺だからこそ言える。
確かにこの場合、間違っているのはダニエルである。
「うるせぇ! コディーさんとゴリさんがいて生きて帰るだけで仕事してるんだよ!」
ちょっと意味がわからなかったが、ダニエルの言い分もわかるつもりだ。
しかし、追い剥ぎグループの 逃げた斥候といい、ニッサといい、ダニエルといい…………俺を評価するのはランクA以上の冒険者なのではないか?
気になった俺は頭の上に乗っているヴァローナに聞いてみた。
「なぁ、やっぱり魔力感知って難しいものなのか?」
「いや、弱い魔物でも冒険者でもそれは出来るはずだぞ」
俺が求めてた答えと違う。それに気付いたのか、ニッサがヴァローナの補足をするように言った。
「コディーの魔力は異常。遠方からならともかく、ココの町に入ったらもうわからない」
「ん? それってどういう意味だ?」
更に補足をするかのように、ダニエルが頭をポリポリと掻きながら言った。
「自分も気付くまでに時間がかかりましたが、魔力を感じる以前、コディーさんの魔力の中じゃ気付けない――ってのが正解でしょうか」
「え、何? つまり俺の魔力がココの町を包んじゃってるって事?」
概ね正しいのか、ニッサとダニエルは首を縦に振った。
「いやいや、そんなはずないでしょ! そんなのがいたら今頃ココの町は失神者が続出ですよ!」
けらけらと笑いながら、アッシュが指摘する。
「だから、気付いてないだけなんだよ、お前は」
ダニエルの言葉が正しいのであれば、アッシュは気付いた途端に気絶するのでは?
「あ、そうだ」
ニッサが何かを思いついたようだ。
「マジックシールドの魔法をアッシュに使えば、多分わかる」
「おぉ! 確かにそうだな! ニッサ、やってやれ!」
ダニエルはアッシュの方を見ながら、ニッサはアッシュに杖を向け魔力を集中させた。
「む~ん、マジックシールド!」
「「おぉ!」」
ヴァローナとゴリさん、そしてディーナは、初めて見る魔法に興奮を隠し切れていない。
「……あれ?」
それが、アッシュの本日最後の言葉となった。




