040
俺の魔力を肌に感じて逃げないとなると、相当の手練れか、相当のお馬鹿さんか。あるいは、秘策でもあるのか。
と見てみるも、どうもこの三人の実力はそこまででもない様子だ。
女魔法使いだけ、ランクAに近い実力を有している。
青年戦士、無骨戦士ランクB。女戦士はランクB寄りのCというところか。
チームランク平均B。これを殺さずに挫くってのは中々難しいのではないか?
「はぁああああああっ!!」
ライトノベルの主人公みたいな声を出した青年戦士が、物凄く格好いい剣を振り被って俺に向かってきた。それに続き無骨戦士が戦斧を下段に構えて向かって来る。
「っ!?」
どうしたらそんな剣をかわすという選択が生まれるのか?
当然、俺は青年戦士の剣を体表で受け、無骨戦士の戦斧は腕で払った。
「ぬぉ!?」
何だ、声出るんじゃねぇか。無骨戦士。
「え?」
呆気にとられている女戦士の顔が、ちょっと可愛かったが、それは決して異性としてのものではない。小動物を見るかのような感情だった。
「やめておけ。これ以上は怪我じゃ済まないぞ」
「ふ、ふん! 強がりを!」
言葉に動揺が見られる青年戦士は、俺の忠告を聞く様子はない。
どうやら今度は剣を斬り付けるのではなく、刺突を狙うようだ。まぁ、彼ほどの力では俺の毛皮を貫く事は出来ないだろう。単なる毛皮じゃない。聖獣の毛皮なのだから。
「やめておいた方が……いい」
お、女魔法使いは帰りたそうだぞ。
既に俺との実力差を理解した様子だ。
「い、いいからアンタも攻撃しな!」
「…………」
女戦士に逆らえない訳ではなさそうだが、もしかしてこの女魔法使いは雇われの身なのかもしれない。
女戦士の指示通りに、杖を天にかざす女魔法士。
む、周囲の酸素が少しだけ薄くなった。火属性の魔法だろうか。……なるほど、俺へのダメージより森へのダメージを考えたか。悪くない考えだが、それを素直にやられる程コディーさんは愚かではないのだよ。
「うぉおおおおおお!!」
主人公みたいな青年は置いてといて、俺は正面奥で魔法を発動しようとしている女魔法士に向かってミスリルクロウを振った。するとミスリルクロウは空間を裂き、カマイタチのような刃となって、女魔法士の火魔法を斬り裂いた。
発射前に消えた魔法にポカンと口を開ける魔法士。
そして青年戦士は、俺の懐で刺さらない剣をぐりぐりさせながらうんうん唸っている。
そんな俺に、女戦士は威勢ばかりで動けずにいる。そして無骨戦士も攻撃してこない。どうやら先程のはじき返しで腕が痺れているようだ。
しかし、こいつらをどうやって追い返す? 追い返した所で、どうせまたすぐにやって来る。
これをなんとかするには…………ん? すぐにやって来させなければいいのではないか?
ふんふん……うん、多分これならいけるかもしれない。
答えが出た時、俺は既に行動に移していた。
「ぐぁ!?」
青年戦士の剣をかち上げて弾き、それを奪う。
「何で掴めるのよ……!?」
女戦士が奇異の視線を俺に向ける。
失敬な。これでも頑張ったんだからな。
と言ったところで、何かが変わる訳でもない。
そう思い、俺は無骨戦士の戦斧も強引に奪う。
直後、背後に見える周りの木々よりも一回り大きい大樹に向かってそっと投げる。うむ、我ながらナイスコントロールだ。適度な威力で大樹の幹に刺さってくれた。
「何を!?」
そして女戦士の剣も、女魔法使いの杖も奪い、ぽいぽいと大樹に向かって投げる。
「うわ!?」
「くっ!?」
「ひゃ!?」
「なんで……?」
青年戦士、無骨戦士、女戦士、女魔法使いの防具をひっぺ返し、森の奥に投げ入れる。
そう、俺の毛皮が物理的に剥がされるかもしれない重大な事件なのだ。俺が追い剥ぎ仕返しても、まったく問題はないはずだ。
まるで町人。冒険者には見えなくなった彼らの装備は、最早ただの衣服のみ。その後、彼らの後ろ衿を丁寧に掴み、
「何をする!?」
「は、放せ!」
「どこに連れて行く気!?」
森の外に向かって投げ捨てる。
魔法使いの女の子だけは、反抗しなかった。
だから、当初の目的通り、彼女を掴まずに腰を落として低い声で言った。
「お引き取りください」
すると、女魔法使いは、ようやく俺の狙いに気付いたようで、「あー」と気付きの声を漏らした。
女魔法使いは少しだけ身体をもじもじさせた後、面白い事を言ったのだ。
「あ、あの……杖だけでも返して欲しい、な?」
盗人猛々しいとはこの事ではあるが、彼女の動きには理知的なところも多く好感が持てた。返してやるべきだろうか。
「実はあれ、お爺ちゃんの形見なの……」
返してやろう。俺は心にそう決めた。
決めたとしても、すんなり返しては軽い男――いや、軽い熊だと思われかねない。
溜め息を交ぜつつ「仕方ないな」という風を装って、のたのたと杖を取りに行くとしよう。
「……ほれ」
「ありがとう……」
杖を受け取った後、女魔法使いは俺を見上げる。
はて、用事は済んだはずだが? もしかして防具はお婆ちゃんの形見なのだろうか? そしたら全部返してやるけど。この子に関してだけは。
「また、来て……いい?」
一瞬だけ俺の顔は渋くなったはずだ。しかし、彼女の目が毛皮目的でないと言っていたので、一応聞いてみた。
「何しに?」
「……うーん、お話?」
ほぉ、それは面白そうだ。
毛皮を狙うのでなければ、別に人間がやって来る事を拒む理由も、拒む法もない。獣とはそういう状況下で生きているのだから。
「それくらいなら……まぁ」
「……わかった」
大人しそうな女魔法使いだったが、ちょっとした大胆さに驚くも、本日の侵入者はこれにて帰還なさりやがりました。




