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004

「ブヒッ!」


 オークは俺が逃げ始めると、すぐに追いかけてきた。

 まるで先程倒した別のオークのように。

 なるほど、知性はそこまで高くないようだ。

 他のオークも似たように追いかけてくる。

 とりあえず先程と同じ戦法で何匹か倒せるだろう。

 不思議と焦りはなかった。

 一度オークを倒しているから? いや、単純に二十倍の戦力……それ以上だ。そんなよくわからない自分の余裕は、すぐに結果として表れた。


『おらぁ!』


 正面に回り込んだオークをヒグマパンチで押しのけ、かわそうとしたら、意外に軽くオークが吹き飛んだのだ。

 勿論、オークが転ぶ程度だったが、それでも、この威力には俺自身驚いた。

 怖さがないのは、獣の本能的なものなのか?

 自分が地球で生きた中で知ってる動物は皆、恐ろしいが、同時に臆病でもあった。それはクマも同じだ。

 これはもしかして、獣の中に俺という元人間が入った事による、特性なのか?

 走り、オークとの差が出来始めた時、先程のオークの死体のところまでやってきた。


『よし、斧を回収!』


 オークの頭部から斧を拾い、反転し、追ってくるオークに投げつける。

 頭頂部から振りかぶるように両手で投げる斧の威力はやはり凄まじく、今度はオークの胸に突き刺さった。


『凄いな、コントロールも抜群じゃないか』


 オークの心臓がどこにあるのかはわからないが、倒れたという事は致命傷なのかもしれない。

 直後面白い事が起こった。


「ブヒ! ブヒヒ!」

「「ブヒーッ!」」


 一番大きなオークが何か指示のようなものを発し、周りのオークたちが返事をした。

 すると、俺に向かって武器を投げ始めたのだ。

 まるで俺の真似をするかのように。

 しかしオークの武器が俺に届く事はなかった。

 宙に弧を描き、そのまま俺の方へ向かってくる。その緩やかな動き故、武器の着地点は容易に特定出来た。


『おっと』


 足下に向かってきた武器を、片脚を上げてひょいとかわし、地に刺さった後、口を使って引き抜く。


『返す、ぞ!』


 投げた武器はオークの頭部に当たり、また一匹のオークがその場に倒れる。

 凄いな、俺の投擲スキルは既に獣の域を超えてるのかもしれない。これをヒグマスラッガーと名付けよう。

 その後、俺は次々とオークが投げた武器を拾い、それをオークたちに返してやった。絶命というプレゼント付きで。

 うーむ、ゴブリンの時からそうだったが、これだけ命を奪うと、後悔やら自責の念が過ってもいいのだろうが、そういった症状もない。

 これも獣の特性の一つなのだろうか?

 それとも種族の違い故なのかもしれない。


「ブ、ブヒ……!」


 リーダー格のオーク一匹だけになった時、俺はそのオークの前まで歩いてた。

 オークの投擲技術や走力を見た、単純な判断だった。

 おそらく今の俺なら……!


「ブヒーッ!」

『どすこいっ!!』


 オークの猛進とも呼べるような直進に、俺は真っ向からぶつかってみせた。


「っ!?」

『うぉ!?』


 結果は相打ちとなった。

 俺とオークは、互いに後方へ吹き飛び、そして堪えてから互いの目を睨んだ。


『流石にリーダー格なだけはあるな。なら今度はこっちからだ!』

「ブ、ブヒッ!」

『っしゃあおらぁあああ!!』

「ギャッ!?」


 今度は俺の助走距離が長かったおかげか、オークを吹き飛ばす事が出来た。

 俺は、自分の勢いが死なないよう、ブレつつもそのまま身体を直進させ、倒れるオークに覆いかぶさった。

 オークからマウントポジションをとった俺は、恐怖に怯えるオークの顔を見ながら、小さく呟く。


『じゃあな』


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『おぇ、不味い……』


 豚っぽいから食べようと思ったのが失敗だった。

 モンスターが食える訳ないじゃないか。いや、もしかしたら食べられるモンスターもいるかもしれないが、オークは無理だ。


『仕方ない。火葬くらいはしてやるか』

『おい、そこの少年』

『っ!?』


 俺はその声に反応して空を見上げた。

 そう、上から声が聞こえたからだ。

 声の方には背の高い木があった。その側面にちょこんと生えている短い枝の先に、ソイツはいた。


『……(からす)?』


 漆黒の羽毛を纏い、光沢のある(くちばし)を俺に向ける鳥は、やはり烏に見えた。


『失敬な。烏は烏でも、私は八咫烏(やたがらす)さ』


 八咫烏? 確か神話とかに出てくるような烏だよな?

 だけど……、


『違いがわからない……』

『何と!? いや、少年に言ってもわかるはずもないか。それにしても少年、凄まじい戦いっぷりだったな?』

『見てたのか?』

『あぁ、見ていたとも。オーク二十に対し少年のみ。あっさり殺されて食料にされるのかと思いきや、まさかまさかの少年の勝利。獣界の珍事とも言えよう!』


 妙なテンションの八咫烏だが、見ていたなら助けてくれてもいいのに。

 いや待て? それは自然の摂理だから仕方ないのか?

 ここは人間社会じゃないんだ。見捨てる事も日常茶飯事という事だ。うーむ、覚えておこう。


『……それで、何か用か?』

『何、そんなに難しい事じゃない。そのオーク、食べないのであれば私にくれないか?』

『……こ、これを食べるのか?』


 食べた瞬間、奇妙な酸味が口を襲う気持ちの悪い味だ。

 まさか食べたいヤツがいるとは思わなかった。


『ははははは、八咫烏にはオークの肉はご馳走なのだよっ』


 明るく言った八咫烏。

 しっかし、そこらにオークの死体があるというのに、俺に許可をもらいに来るか。

 烏にしては礼儀を弁えてるな。


『ま、まぁ食べたいのならどうぞ』

『ハハハハ! 頼んでみるものだな! おっと自己紹介が遅れたな、私はヴァローナ(、、、、、)! 宜しく頼むよ少年!』


 これが、俺とヴァローナの、初めての出会いだった。

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