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善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~  作者: 壱弐参


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「だ、大丈夫か……?」


 気遣う俺の言葉に、ヴェインはジトっとした目を向ける。

 いや、野郎のジト目なんか美味しくもねぇんだよ。とっとと閉まって欲しいものだ。


「おい、目にミスリルクロウが刺さりそうなんだが?」

「おっと、つい」

「ついで失明してたまるか! ……っと、いつつつっ」


 ボロボロの身体を起こしたヴェイン。


「ははは、ランクAの冒険者でも手を焼くだろうな」

「ならもうちょっと強くならなくちゃな」


 まさかあんなに力の差が現れるとは思わなかった。

 まぁ、別れた時のジジ程、もしくはそれより少しだけ強い程度であれば、負けるはずがないんだよな。

 あの時点で、俺はジジより強かったし、その後俺はオークを滅ぼし魔獣にまでなったんだ。ヴェインとの差は非常に大きいだろう。


「獣ってのは、強くてもランクCってのが相場なんだけどな」


 ほぉ、それは面白い事を聞いた。

 人間の感覚を知っておいて損はないだろう。

 この先人間と戦う時、あわよくば魔王幹部と戦う時に出し抜けるかもしれないからな。


「確かに、ゴリさんのランクもそれに近いか、ランクBかってとこだろうな」

「ゴリさん? あぁ、そのゴリラの名前か」

「そうそう」

「これからこういった魔獣が増えてくのか?」

「さぁ、どうだろうな? 魔王だの勇者だので獣にとっては生き(にく)い世の中だ。なら獣の居場所を作ってやるのが獣としての考えなんじゃないか?」

「まるで神のような物言いだな」

「普通の獣よりは知能があるって自負から出た言葉なだけだよ。あくまでも良き隣人として、さ」


 俺がそう言うと、ヴェインは少しだけ考えるように黙った。


「……それは、人間にとってもか?」


 その質問は想定外だったから、今度は俺が黙る事になってしまった。



「……ん~、そうしたいとは思ってる」

「まぁ、そう上手くはいかないだろうからな」

「はははは、やっぱりぃ?」


 俺は、ヴェインの鋭い指摘に同意して笑って見せた。

 すると、ヴェインもまたニカリと笑った。

 そう、この問題がそう簡単に終わるはずもない。勇者ヴェインの報告により、ライオス国はこの楽園にいるディーナを奪還に来るだろう。

 ヴェインは仕事を(まっと)うする。そこに淡い期待などしてはいけない。これは主義主張の違いだ。どうしても折り合いがつく事はない。

 以降、冒険者はここを標的として動き、数多くの救出者(、、、)がここにやって来るのは明白。

 勇者ヴェインが言っていた。俺は冒険者ランクAでも手こずるだろう、と。しかし、それ以上の実力者がやって来たら? とんでもない大軍でやって来たら? 俺の許容範囲を超える武力が来た時、ディーナは連れて行かれるだろう。ヴェインはそれを危惧して言ったのだ。

 いや、十中八九(じゅっちゅうはっく)そうなるだろう。

 だが、そう簡単にはいかない。


「依頼主……いや、ライオス国の国王に伝言頼めるか?」

「また無茶言うな、お前……」


 頭を抱える勇者も中々斬新だ。


「……はぁ、言うだけ言ってみろ」

「国王だけなら招待しますってな」


 俺の言葉に、ヴェインは少しだけ硬直した。

 そして、口を結びながら陽が落ちた空を見上げる。

 その後、「ん~……」と何度か唸った後、俺を見て言ったのだ。


「…………本音を言っていいか?」

「何だよ?」

「少しだけ笑いそうになった」



 真顔で言ったヴェインの顔を、俺は目を丸くして見た。

 少しの間、互いに見合いながら沈黙が流れた後、


「「ぷっ、アッハッハッハッハッ!」」


 二人して大きく笑った。

 ヴェインの胸中がどうだったのかは知らない。けど感じる事が出来た。

 立場は違えど、ヴェインの気持ちは少なからずこちら側だと。


「……勇者ってのも大変だな」

「うっせ、ジジがここに来てせいぜい困りな」

「やっぱり来るかな?」

「ははは、そりゃ今や引っ張りだこの冒険者だし、今回の案件も別方面の捜索で関わってるからな。当然来るだろう。特別だ。何か伝言あれば頼まれてやるぞ?」

「じゃあ、一つだけ」

「何だ?」

「お土産は岩塩を頼む、と」


 今度はヴェインが目を丸くした。

 まぁ、その反応はある意味期待通りである。

 直後、勇者ヴェインは大きな声で高らかに笑った。そう、涙目になる程大きく笑ったのだ。


「ハハハハハッ! わ、わかった! ちゃんと伝えといてやる! ハハハハハッ! っ! けほっ、げほ! ったく、笑わせん――けほっ!」


 咳き込む程笑っていた。

 ヴェインはしばらく笑った後、目元の涙を拭い、俺の後ろにある我が楽園を見つめた。

 そして、くるりと(きびす)を返して人間の町に向かい歩き始めた。


「またな」

「いつでも遊びに来い」


 俺は、今後のヴェインの来訪を歓迎する旨を伝えながら、彼の背中を見送った。

 その顔は背後からでは当然わからなかったが、笑っていたのではないだろうか。まぁ、これは俺の願望みたいなものだ。


 ――――勇者ヴェイン。

 俺が二戦して二戦とも勝利した男ではあるが、彼の伸び(しろ)は計り知れない。

 これからどんどん強くなり、いつしか俺より強くなるかもしれない。

 だから俺も負けていられない。魔獣コディーは、いつか聖獣となり、神獣となり、魔王だろうが、勇者だろうが、対等に渡り合える存在を目指すつもりだ。

 時には武力行使をするかもしれない。しかし、最終的にはわかり合えるような、そんな存在になりたいと思っている。


 そう、人間と魔族と獣の――――善良なる隣人として。

まだ続きますよ?・x・

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