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善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~  作者: 壱弐参


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036

『もう夜だというのに騒がしいな』


 俺たちの言い合いを聞きつけてか、ゴリさんがやって来た。


「まったくどうなってんだ、この森は? このゴリラ、どう見ても魔獣だよな?」


 俺たちと共にいるからか、ゴリさんはヴェインを威嚇する事はなかった。

 そしてヴェインもそれは同じだった。


「神獣一匹に魔獣が二匹。正直オークジェネラルが生息してた時の方が安全だったんじゃないか……はぁ」


 人間にとってはそうかもしれないな。


「別に危害を加えたりはしないさ」


 ヴァローナがゴリさんに説明している間、俺はヴェインとの話を続けた。


「『今は』……だろ?」

「……流石にわかるか。が、その答えに行きついたって事は、剣を振るうという選択をするって事だな」

「正直、そんなつもりで来たんじゃないけどな」


 この時のヴェインの顔は、本当に残念そうだった。

 ちょっと前まですけこまし野郎だと思っていたが、やはり人間は変われば変わるものだ。

 そう、彼には彼の都合がある。それは勇者としての仕事。勇者の味方は……人間なのだ。俺たち獣ではない。人間が頼るべきは勇者であり、やはり獣ではない。

 彼にはやらなければいけない事がある。それがディーナの救出(、、)という仕事。

 俺にはやらなければならない事がある。それがディーナの安寧という……エゴなんだろうな。そりゃそうだ。ディーナがそう望んでるかどうかなんて聞いていない。

 そう、俺は俺の自己満足(エゴ)でディーナの都合なんてお構いなしにヴェインと戦うのだ。

 何故なら俺は獣。元人間ではあるが、それを押し通そうとするのは、果たしてどちらの俺なのか。

 折衷案が出ない以上、俺はヴェインと戦うしかない。

 それはヴェインもわかっている事。

 だからヴェインは…………いや、おそらく俺も――この衝突を残念に思い、残念な顔をしたのだろう。


『……そうか、ならば私が二人の決闘を見届けよう』


 ゴリさんがヴァローナの説明を理解したところで、俺たちは森の外へと向かった。

 森の中ではゴリラの雌や子供もいる。何かあってからでは遅いのだ。ヴェインもそれは理解していた。


「……いい森だな」

「これからもっと良くなるさ。だが――」

「ん?」

「――ありがとう」


 ヴェインに背を向けながら言ったこの言葉。ヴェインはどう受け取ったのか、それは俺にもわからなかった。

 だが、人間と獣が対立したとしても、俺とヴェインが個人的に対立する事は今日限りにしたいものだ。

 森の外に付いた時、外はまだほんのりと陽の光が残っていた。やはり森の中は木々が生い茂っている分、それだけ夜が早いという事だ。


「明日まで待つか?」


 念のために聞いたヴェインへの言葉。


「気にするな。これ程度なら言い訳にすらならねぇよ」

「そうか」


 暗くなりきってしまえば、獣である俺のが圧倒的有利。

 しかし、まだ陽は残っている。早々に始めれば、ハンデは無しという事。


『準備はいいか?』

「こっちはいつでも。準備は?」

「既に腰を落としてるのが見えないか?」


 ヴェインは腰を落とし、剣に手を掛けている。

 なるほど、確かに前とは雰囲気が違う。こりゃ、王都に向かった時のジジ以上かもしれないな。


『開始の合図はコレ(、、)でいいか?』


 少し大きめの石を手に持って見せるゴリさん。


「落ちたら開始だ」


 それを見ながら俺はヴェインに言った。


「それくらいはわかる……が、魔獣への見方が変わったよ」

「いいね。だけど手加減(わりびき)は無しだ」

「当然だ……」


 互いの魔力が戦闘用に染まる。

 そして互いの呼吸音が聞こえなくなったと同時に、ゴリさんの腕が動く。

 振り上げられる腕、宙を舞う石。

 弧を描き地面に向かう石を目で追うのは途中まで。

 待つのは、地面と石の衝突音。それが両者の鼓膜に届いた時、勝負が始まる。

 しかし、この勝負……おそらく――――、


「っ!! はぁあああああああああああああああああああっっ!!!!」

「ばうぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」


 地面と石の衝突音が聞こえた瞬間、ヴェインが()え、俺に向かってきた。剣を引き抜き、光り輝く一閃を見せた時、俺はヴェインに向かって駆けたのだ。

 ただ我武者羅(がむしゃら)に、獣の如く、ただ真っ直ぐに。

 ヴェインが振り下ろした剣は、俺のミスリルクロウによって受け止められ、押し返し、はじき返され、ヴェインを巻き込んで吹き飛んで行く。

 先程の石以上の巨大な弧を描き、勇者が舞う。

 地面と勇者(、、)の衝突音より早く、俺の声が虚空に飛ぶ。


「やっべ」


 体操の競技ならば、減点対象となりまくるヴェインの着地は、背後にあった森の木々が、なんとかカバーしてくれた。

 ヴァローナとゴリさん、そして俺は「ぎゃふん」と零れ出たヴェインの身体を心配しながら顔を覗き込む。

 ヴェインはピクピクしていた。

 ヴェインはとてもピクピクしていた。

 まるで全自動ヴェインだった。


「……お、お前…………強くなり過ぎ………………かふっ……」


 ヴェインはどうやら無事のようだった。

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