028
『おい、ヴァローナ君、あれは一体なんだね?』
ディーナには聞かせられない内容故、俺は獣の言葉でヴァローナに聞いた。
しかし、ヴァローナは俺の頭の上で「う~ん」と唸るばかりである。
『大きな翼、長い首、獰猛な瞳……カッコイイフォルムだとは思うが、一体なんだね?』
いや、わかってはいるんだけど、これから向かう先にアレがいると思いたくないんだよな。
俺の指摘についに降参したのか、ヴァローナは頭を振って、俺の頭の上から飛び上がった。羽ばたきながら上空へ行き、ヴァローナは飛んで行った飛行物体を遠目に見ているのだろう。
「ディーナ、少し走るから揺れるぞ」
「うん!」
ディーナが俺の首元の毛を掴むと、俺はヴァローナの速度に合わせて走り始めた。やがてヴァローナが頭部に降りて来る。顔は見えないが、どうにも焦っているように見えた。
『ま、まずいぞコディー! ドラゴンだ!』
『知っとるわ!』
『うぇ!? 知ってたのか!? な、なら話が早い。あれは古竜種のリベリオンドラゴン! 魔物すら標的にする悪食だ! ほら、さっさと逃げよう!』
リベリオンドラゴン……確かランクAの魔物だ。
『何言ってるんだよ! あの森が目的地だろ!?』
『目的地もなにも、もうあの森は終わりだ! 大人しく去るのを待とう! な!?』
ったく、相変らず臆病なんだから。いや、まぁ普通の獣ならそうなのかもしれないけどな。そう言われて俺が引き下がると思ってるのだろうか、ヴァローナは。
俺は、正面にぽつんと生えていた木に跳び上がり、その枝にヴァローナとディーナを掴まらせた。
「ヴァローナ」
「はい!」
俺はディーナにショルダーバッグを渡しながら、ヴァローナに言った。
「ディーナに何かあったらぶっ飛ばす」
「お、おいコディー!? まさか行くつもりじゃないだろうな!?」
「これまでの行動でそれ以外の結論が出たら驚いてたところだよ!」
「コデーがんばれー!」
背中の方ではヴァローナがまたギャーギャー言ってたが、気にしている場合ではなかった。そして、俺はディーナの声援を受けながら、眼前にあった森に入った。
大地の震動、この臭い……もっと奥だな!
徐々に迫る震動と臭い、そして聞こえ始める獣の悲鳴。この独特の臭い……火か!?
そう思って飛び出た開けた場所。そこでは青黒い皮膚を持った巨大なドラゴンと、大木を振り回して戦う巨大で白い体毛をしたゴリラがいた。ゴリラの方は巨大といっても、俺と同じくらいの大きさだ。しかし、ドラゴンは本当にデカい。これがリベリオンドラゴンか。流線を描く翼と共に胴体から生えている腕。そしてその先にある湾曲する爪。辺りが燃え始めているところを見ると、ブレスを吐くのか?
魔物も食うとかヴァローナが言ってたが、実際狙われているのは獣。なら、味方するのは、当然獣の方だよな!
『助太刀するよ!』
『何っ!? 魔獣か!』
俺が魔獣だとわかるという事は、やはりコイツがヴァローナの言ってた賢者。事情こそわからないようだが、俺はゴリラの方を向くより、リベリオンドラゴンの方に向く事を心掛けた。それが、敵意のない証。
『……ふっ、礼は言わんぞ!』
『上等……!』
鋭い眼光で睨みつけるリベリオンドラゴン。注意するのは牙、ブレス、爪、そして尻尾だな。これまでの敵とはまったく想像出来ない攻撃パターンだが、ある程度はわかる……はず!
俺はミスリルクロウの爪を立て、リベリオンドラゴンと距離を取りつつ弧を描くように歩く。むぅ、どうやらゴリラより俺に興味があるようで、視線から外してくれない。
あの青黒い皮膚は固そうだ。外皮よりも腹部などの鱗がない部分を狙うしかないか?
『うぉおおおおおっ!』
白いゴリラが大木を振り被り、そして振り下ろす。しかし、リベリオンドラゴンはそれを受け止める。それと同時に大木を握りつぶしてしまうのだ。
何て握力だ。捕まったら危険だな。
『はぁああああっ!』
リベリオンドラゴンに出来た一瞬の隙、大木を受け切った直後の隙を狙い俺はその足下に向かって駆けた。だが、リベリオンドラゴンはそれを読んでいた。身体を捻りながら尻尾を振ってきたのだ。
『うぉっと!?』
振り払われる尻尾に背中を乗せ、転がるようにかわす。
「ガッ!? グルルルル……!」
睨まれてしまった。かわしながらミスリルクロウで尻尾を引っ掻いたからだろう。しかし、攻撃自体は通る。問題はあの馬鹿げたサイズだ。
隙は大きいが、近付けば近付くだけ危険が増す。それがわかっているからこそ、あの白いゴリラも攻めきれずにいるのだろう。
そんな事を考えていると、リベリオンドラゴンの戦闘プランが決まったのか、突如羽ばたき始めたのだ。
『一体、何をする気だ……!?』
白いゴリラが呟くと、リベリオンドラゴンはその場でホバリングし、首をのけぞらせた。
『おいおい、これって……!』
何がくるかは予想が出来た。しかし、考えたくなかったのだ。それは白いゴリラも一緒だったのだろう。
『く、来るぞ! ブレスだ!』
『くそぉおおおおおおおっ!!』
俺は跳び退き、近くの木の陰に移動し、身を低くして縮めた。
「ガァアアアアアアアアアアアッ!!」
直後、一面に広がる紅の炎。熱こそ防げているものの、その威力は絶大。オークジェネラルなんか目じゃないだろう。
ただのドラゴンはランクBと聞いたが、リベリオンドラゴンはランクA。これが、あのオークジェネラルと同じ実力だって?
いや、ランクAクラスになると、決め技や威力の高い攻撃法があるとか聞いた事がある。
リベリオンドラゴンにとって、それがブレスなのだろう。
背にあった木はミシミシと音を鳴らして、横に倒れていく。
未だホバリングを続けるリベリオンドラゴンは、薄気味悪い笑み浮かべて俺を見る。
「参ったな。そんなに見つめるなよ……」




