太陽を求める二人
ある古き都、氷に閉ざされた永久凍土の上に作られた在りし日の栄光。その名をニブル・ゴラドという。それは古代の言葉で誉れ高き氷を意味していた。
彼の地にて崇拝されしは氷、及び寒さそのもの。それ故拝氷教と呼ばれる宗派が生まれていた。自然の大いなる力を畏敬の念をもって奉り恵みは無理だとしても暴威を振るうことを避けようとした。
ニブル・ゴラドを作りあげた始祖は氷を操ることができたという、その力をもって周囲の部族を併合して国というにはいささか小さいものではあるが連合国という形でまとめあげたという記録が残る。
その始祖の名はトウドウ・コタロウ。【氷層大帝】と呼ばれた彼はある小さな村の出身であった。幼き頃より神童として名を馳せていき様々な生活向上技術生み出したと伝えられる。
彼の残した言葉には「シベリアスタートとか聞いてないんですけど!?」「ここでならカイロを作る能力の方が使える気がする」「閉鎖的村の因習マジで怖え!?」など余人ではとうてい理解できない用語が混ざったものも存在している。おそらく神からの啓示を受けていたのであろうと考えられる。
試練を乗り越えて国を作りあげた彼であったが「あれ?このままだとまずくね?」とまたも謎の言葉を残して自らを氷の塊の中に封印したとされ事実それ以降始祖が歴史に登場することはなくなった。
それから数百年の月日が経過した。
始祖が作りあげた国家はとうに崩壊し拝氷教の勢力が人々を支配する時代へと回帰してしまった。
そんな中、ある一組の男女が声をあげた。彼らは太陽を象ったシンボルを旗印にかつての国を再興させるための活動を始めた。彼らはかつての始祖と同じように強力な力を持ち。瞬く間に拝氷教の勢力を蹴散らして拝氷教の総本山となっていた古都を手に入れたのだ。
その後彼らはニブル・ゴラドに太陽崇拝を広め始めた、厳しく牙をむく氷などは敵であり太陽こそが自分たちを救済するものであると教化した。そして自ら太陽王と名乗り太陽神の化身であると宣言した。
男女の名はトウドウ・リュウジ、トウドウ・リンカといった。名前から始祖の血族であるという噂があったことも人民の支持を得る一因であっただろう。
事実彼らは始祖の伝承上の容姿である黒髪黒目を有する者であった。
「ようやくここまで来たな凛華。あとは本物の太陽神を呼び出すだけだ」
「うん、龍二がヘマしなきゃもう大丈夫」
「違いねえ」
玉座に二人で座りながら二人は笑い合った。その顔には拝氷教の信者を冷酷に処断したとは思えない優しさがにじんでいる。
「長かったな……本当に。メッセージを見つけてからずっとこのために行動してきた」
「そうだね、でも私たちは絶対にこの計画を諦めるわけにはいかない」
「その通りだ。俺は……俺たちの新しい命はここから始まるんだ」
「取り戻すの何もかもを」
「「もう二度と家族を奪われない為に」」
先ほどまでの雰囲気は霧散し決意と覚悟がその目にはあった。
「とりあえずは……そこにいる邪魔者を消すか」
リュウジが玉座から立ち上がるとその背には色とりどりの羽を持つ翼が現れた。その翼はひどくいびつで整合性がない、違う種類の鳥の羽を蝋で固めているのだから当然である。
「私がやりましょうか?」
凛華の格好にも変化があった。今まで来ていた防寒用の服ではなく舞踏会に出るような可憐なドレスとなっていた。ただ一つそれに異常な点があるとするならばそれが灰でできているということだ。
「いやそれは必要ない。もう終わった」
リュウジの手が軽く握られた。それと同時にガラスが割れるような音が響いた。
一拍おくれて白一色で頭からつま先まで統一された刺客が衣装を赤く染めながら倒れる。
「そんな……ばかな……!?母なる氷に仇なすものよ……貴様に呪いあれ……」
「相も変わらず氷壁屈折での透明化しかやることがないのか拝氷教。姿を隠したところで空気の流れはお前の位置を正確に教えてくれたぞ?」
「……だが……三重氷壁までもが一度に破られるなど……ありえん……!」
「どんなに強固な氷でもな、針の穴くらいの隙間あるだろう?それ以前にお前が呼吸している以上は空気はあるんだ空気が入り込めるなら俺の羽だってお前を貫くさ」
「ぐ……母なる氷よ……偉大なる冷気の父よ……我が身を捧げ……一時の顕現を……」
刺客を中心として急激に気温が下がり始める、床が凍りついてひび割れ少しずつ二人へ向かって冷気が手を伸ばす。
「自爆か……それもまたパターンだな」
もう一度リュウジが動く前にリンカが指を弾いた。
「が、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
燃え上がる刺客は瞬く間に灰となった。
「別にお前が何かする必要はなかったが?」
「龍二がやると汚れるでしょ?」
「ま、それもそうか」
二人はまた笑い合う。
「早くこいよ太陽神……お前が来ないと始まらないだろうが」
「待ち遠しいわね……本当に」
二人は玉座に座りなおした。太陽神が自らを騙るものに対して接触することを確信しながら。




