咎人と森の一族
俺は少しだけ軽くなった飢餓感と戦いながらひたすらに瞑想を続けている
やることもない上に動けば動くほど消耗するだけだからだ
幸いクリアはそれを邪魔しない
ただ静かに見守って時おり近づいてくるヤツを追い払ってくれていた
そんな日々がしばらく続いた
そして体の動かし方を忘れ始めた頃に
俺に矢が刺さった
「うぐっ!?」
痛えええええええええ!?
おまけに体が痺れ始めやがった。毒が塗ってあんのか!?
「やった!初めての獲物!!」
大喜びで木から降り立ったのは幼い声とは裏腹に発育した女だった
下半身が反応するはずだが麻痺してるからかあんまり酷くない
「どう……して?」
俺を狙う意味なんてねえだろうが
いちおう人型よ?
食べるの?同じ形したものを食べるの?
そんなのいたらもうだめだわ、やっていける気がしない
「ん?しゃべったぁ!?もしかして魔物じゃない!?」
「い……え。私は……モンスターです」
違います。人間です
ああっ!嘘もつけねえ!
「でも喋る魔物なんて……よっぽど強いヤツじゃないと……」
突如俺を光が照らすと途端に体から痺れが抜けた
「神の御加護ですね」
なにが起こった!?
「ふふん、【聖】属性がここまで高くなるとちょっとくらいの不利益なんて全部祝福でなかったことになるんだから」
クリアよそういうのは早く言え
「ええっ!?後光が差したってことは【聖属性】なの!?えっとえーっとごめんなさい!!」
綺麗な土下座だ
なんで土下座の文化があるんだよ
理由なんて分かんねえから考えるのはやめるけどな
「許します」
許さん。何かよこせ
「ああっ!お詫びしなきゃ!私の村まで来てください!」
手を引かれる
鎖がガッチャガッチャ鳴るが案外動けるものだな
でも、体がガッチガチでところどころ履バキボキ音がしてやがる
あとさ、手が柔らかいな
あー、これだけでムラムラするのが情けないわホント
そしてしばらく行くと
村があった
「あっ!ここが私の村です」
ものの見事に焼き払われていたが
「これは……なんてひどい」
まあ、そんなこともあるよな異世界だし
「え?嫌だなあ。ここは【焔森人】の村ですよ。これが普通です」
は?
木属性であろうエルフになんでバーンなんて言葉がつくんだ
焼畑農業でもしてんのか
「おーい!みーんなー帰って来たよー!」
燻っていた火が一気に燃え広がり火柱が上がりはじめるとそれらは収束して人型になった
火がおっさんエルフになった。意味がわからない。
「帰って来たか……誰だそいつは?」
「この……人?【聖属性】だったんだけど間違って射っちゃったからお詫びの為に連れて来たの」
「初めましてロートです」
人にものを尋ねる時は自分から名乗れや
「これはこれは娘が粗相を致しました。お怪我はありませんか?」
「いえいえ、神の御加護がありましたので」
体に穴が空いたんですけどどうしてくれんだよオイ!
「それは素晴らしい。あの矢の毒は大型の獣でも即死させる猛毒ですのに……。それは敬虔であられるのですね」
「神に感謝を捧げているだけですよ」
そんな毒を使うんじゃねえええええ!!!
「立ち話もなんですので、こちらへどうぞ」
おっさんが指差すのは焼けた家
俺に焼身自殺しろと申すか
「ああ、申し訳ございません。今戻しますので」
おっさんの指パッチンで家が完全修復された
は?
「いかがなされた?」
「素晴らしい術ですね」
「こんなもの手遊びでございます。」
どうなってんだバーンエルフ
『バーンエルフとの邂逅を確認。情報を開示します』
※※※
焔森人
森に住みながら拝火教の神の加護を受ける極少数の異端者
しかし、個の力は絶大である
天からの火である【終焉の火】の使用権限までも持っており怒らせるようなことがあれば世界が滅びかねない
危険度SS
※※※
………………帰りたい
めちゃくちゃやべえ奴らじゃねえか!?
なんだよメギドって
メギドラ○ンじゃなくても十分すぎる火力なんですけど!?
万能属性どころか世界滅亡属性かよ!?
「ささ、こちらへ」
「ありがとうございます」
帰らせてえええええええ!!!
世界滅亡案件は俺には荷が重い
「手狭で申し訳ございません」
中はなんというかエスニック?風の内装であった
「とんでもない」
でもボロいな
「実は恥を承知でお願いしたいことがあるのですが」
「なんでしょう?」
めんどくせえな
「貴方を名のある【聖】と見込んで祭壇の祝福をして欲しいのです。もちろんお礼はいたします」
「何か事情があるのですか?」
ふーん、どうでもいいなあ
「実は恥ずかしながら私は【聖属性】の素質が低く祝福が出来ないのです」
「なるほど……これもまたお導きですね」
ほぉ、それで?
「受けてくださいますか?」
「もちろんです」
どうせやらないと帰れないんだろ……礼はきっちりもらうぜ?
「ありがとうございます!では早速」
おっさんが指パッチンをすると周囲が歪み始めそれが収まると洞窟のような場所にいた
「ここが……」
「はい。私達の信仰するツァラトゥストラ様の神殿でございます」
でっかい石の祭壇の上に弱々しい火種がある
あれが御神灯かな?
「もう消えかかってしまっているでしょう?私が至らないばかりに……そうあれは120年前のこと……」
昔語り始めやがった
まあいいや、クリアに祝福の仕方を聞こう
「ん?祝福なんて適当なこと言って触ればオッケーよ?」
雑すぎるわ〜
そんなんでいいのかよ〜
昔語りをするおっさんの横を通り過ぎて石に触れる
「神の威光よ天元の煌めきよ。今一度輝きを取り戻したまえ。شظيدتخوةغ」
なんかいい感じに戻れー
つーか最後のなんだよ。何語?
ピシッ!
んん?変な音がするな
バキッ!!
石から響いてるな
バガアッ!!!
石をぶち壊して巨大な火柱が……
これ大丈夫なやつ?
「あああ!!なんで神代の言葉なんて使うのよ祝福どころじゃないわよ!?」
知らねえもんそんなん
どうすっかな
おっさん泣き崩れてるけど
「おおおおおおおおおおお!!!」
「祝福は終わりました」
結果はどうあれ祝福はしたぞ。礼をよこせ
でも、これでキレられたら地上が火の海だよなー
まあいいや。それならそれで
俺は悪くねえ
「ありがとうございます……こんなにも火勢が強くなるなんて数百年ぶりでございます……なんと言っていいか……」
成功だったのか!?
びっくり!!
「いえ、私はやるべき事をしたまでです」
適当にやったけどなんとかなったわー
「うーまーいーぞー!!」
火柱から声が!?
「まさか、ツァラトゥストラ様!?」
シンボルじゃなくて本当にいんのかよ。さすが異世界としか言えねえ
火柱から何かが飛び出してくる
それは燃えるような毛並みの猫だった
「にゃんて美味い炎!!こんなの神代以来だにゃ!」
喋る猫かー。なんでもありだなー
「お久しぶりでございます。ツァラトゥストラ様」
「にゃ、苦しゅうない」
殿様かよ
「して、この炎を生み出したのはそこの【咎人】で良いのかにゃ?」
「左様でございます」
「ふーむ」
猫が近づいてくる
そういや飼ってたタマ(血統書付き)は元気かなぁ
自然と手が伸びる
「にゃ!この手つき……にゃんてニャンコたらし……ふにゃあ……」
猫を撫でると癒されるなぁ
「良いなあ…」
クリアなんか言ったか?