欲なき生
美味いもん食って、女を抱いて
適当に家でゴロゴロしていれば金が入る
俺、富多浪十は人生の勝ち組である
親父と爺がぽっくり死んだと思ったら俺のところに椅子が回ってきた
俺の家系の男子であることに意味があるらしく長男で一人っ子の直系だった俺しか出来ないことらしい
良く分からんが湯水のように金を使えて遊びたい放題
移動に制限はかかるがそれだけさ
だと思ってたらだ
なんでも隕石が日本に接近していただかっていう二ユースを見た
そして直後に俺に直撃したことだけはなんとなくわかる
当然即死だ
死体も残りゃしないだろう
で、だ
目の前にいるやたらでかい爺様はなんなんだろうか
「来たか、お前がここに来た理由は分かるか?」
「だいたい把握してる」
「そうか……ではお前が死んだ理由は覚えているか?」
「隕石だろう?」
「違う。お前が死んだ理由は"裁き"だ」
「さばき?」
「そうだ。お前の一族の天命である祭祀を行わないばかりか堕落の一途。故に裁きが下された」
「そんな話聞いてねえぞオヤジぃ……」
「そして、お前にはさらなる裁きが下る」
「死んだ後もかよ……!」
「転生せよ」
「は?」
「転生してその身を清めるがよい」
「え、ちょっ…!?」
視界が暗転する
沈んでいくような感覚だけがある
※※※
意識が少しずつ戻って来た
なんだかすごく体が怠い
ジャラリ
なんだろう、なんかを引きずってるきがする
ジャラリ
鎖だ
それに体を締め付けてくる動き辛い服。
これ拘束衣だろ?囚人かよ…
顔に違和感まで感じるので触ってみた
カツーン
口がというか顔の下半分がマスクで覆われていた
「なんなんでしょうか」
は?俺はちくしょう!って言いたかったのに
「全く困ったものです」
ふざけるな!と言おうとしたのに……
どうなっているんだ
グゥ〜!
腹が減ったな。
周りを見渡しても木以外なんもないが
川のせせらぎが聞こえてくる
幸い近くに小川が流れているのを確認できた
水を飲もうと思うがマスクが外れない…
「ん?」
何度やっても外れない
外れないというかどうやってついてるかが分からない
ここで脳裏にポーンという音が響く
『情報を開示します無駄な行為をやめなさい』
頭に情報が入り込んで来た
♢♢♢
個体名 未定
種族名 咎人 【ユニーク】
神の裁きによって生みだされたユニークモンスターである
欲の発散を封じられるが欲自体は無くならなずそれによって死ぬことも狂うこともできない
食欲 睡眠欲 性欲 の発散が不可能
欲自体は生前よりも強化されている
一応神の直系の被造物であるために殺生は不可
拘束具を外すことはできない
善性のこもった言葉以外は発することができない
苦しみに耐え乗り越えて魂を磨くという特異なモンスターである
善行を重ねることで神からの温情が与えられるかもしれない
スキル
【欲封印具】 【精神耐久強化】【限定不死】
【不殺生の戒め】【善言矯正】
ランク
E−
咎人に強さは与えられていない
♢♢♢
食うことも寝ることもヤることも出来ず
狂うことも死ぬこともできない……だと!?
地獄か
ここが地獄か
「我が主よ得難き試練を感謝します!」
神なんて死んでしまえ
空腹はますます酷くなる渇きはどんどん加速する
たまらず歩き回って気を紛らわせるが、そんなものは気休めにもなりゃしない
「あ、あ、主よありがとう、ございます」
口からこぼれるのは罵倒ではなく気持ち悪い神への賛美だけ
本来だったら気を失ったり狂ったりするところなんだろうが意識だけははっきりとして苦しみは続く
野生動物が通りかかったりもするが視線を向けただけで逃げてしまう
それ以前に素手で捕まえられる筈もないのだが
思考が停滞していく
乾いた
渇いた
空腹だ
飢えている
水
くいもの
だれかたすけてくれ
どうして
どうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
おれがこんなめに
ああ
かわいていく
うつろになっていく
ねむいな
いしきがうすれていく
「あっがあああああああああ!?」
突然の頭の中から抉られるような痛みを感じる
「うがああああああああああ!?」
眠気は瞬時に霧散して痛みも消えた
睡眠の封印はこういう事か
おかげで思考は戻って来たが苦しいことに変わりはない
ぶつぶつと呟きながら歩くと
「ギャッ!」
子供?
の割には化け物じみた顔をしてるし錆びた剣を持っている
「まさか、ほかのモンスターですか?」
救いだと思った
こいつはきっと殺してくれるだろう
自殺はできないが殺されるのは良いだろう
もう嫌だ
「ギャッ?」
おれが両手を広げて刺されるのを待っているとモンスターは首をかしげる
「ギャッ」
それじゃ、というふうに手を振って去ってしまう
「待ってください。私をあなたの糧にしてください」
早く俺を殺してくれがなんでこうなるかな
言葉は通じたろうか
意識も失えず満たすこともできず
死ぬことも出来ない
早く俺を終わらせてくれ
「……ギャ」
分かったという風にモンスターが剣を握る
その顔は俺には救世主に写る
「さあ」
早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く
俺を殺せ
それで解放されるんだ
モンスターがこちらへ駆けてくる
ああ良かった
これで終われる
「待ちなさい」