誕生日の魔術 ep1-8
ようやく出題篇です。園比雨稀の種を暴いてみてください。なぜ、そんなことができるのか? 感想お待ちしてます。
「っていうか、そんなことなの? ちょっと拍子抜けしちゃった。もっとほら〈魔術〉というぐらいだから、炎を出したり、風を操ったりとかそういうものかと、創造してたんだけど?」
それは違うと思う。確かに〈魔術〉はそういうイメージだろうと思う。私も少なくともそう思っていた。和美が言うことも一理ある。でもそれは、真実ではない。
それを見越したように園比雨稀が、あざ笑った。
「和美。それは違うんだよ。確かにファンタジー要素が強いイメージがあるかもしれないけど、それがどんな些細なことでも、どんな馬鹿げたことでも、それが不可思議な現象だったら〈魔術〉になるんだよ。〈魔術〉の内容で、〈魔術〉かどうかが決まるわけじゃないの。炎を出すにせよ、年齢を当てるにせよ、誕生日をあてるにせよ、そんなの関係ない。内容ではなく、不可思議な現象なのかどうか、だよ?」
和美は納得していないのか、唸っている。まだ反論したいようだが、雨稀に何か言われるのが嫌らしい。それ以上何も言わず、不貞腐れて紅茶を飲み始めた。
「本当に出来るの?」
「うん。私が今からいくつかケイちゃんに質問をするから。その質問に答えて欲しい」
「質問? その答えから私の誕生日をあてるっていうこと?」
こくりと雨稀が頷く。この状況下でも、パフェを食べる手が止まらない。美味しそうに、三つ目のパフェのアイスクリームを食べている。
「それじゃ、やってみせて」
ここでやっと、雨稀のスプーンが止まった。口にクリームがついたまま、気にせず、こちらを見つめる。雰囲気が変わったのが分かった。彼女の中の撃鉄がカチリ、と入ったのだろう。圧迫感に加えて、眼光が鋭くなったような気がする。恐怖に似た寒さで、身震いをしてしまった。確実に圧されてしまっているのに雨稀は気づいている。
園比雨稀の〈魔術〉が始まった。
「ケイちゃんの生まれた日を10倍したものに生まれた月を足して。次にその結果を2倍にして、それに生まれた月を足してみて。それで終わり。その結果がいくつか教えて?」
「ちょっと待って。今やってみるから」
整理してみる。最初に自分の生まれた日を10倍。それに生まれた月を足す。次にその結果を2倍して、さらに生まれた月を足す。それだけだ。
「えっと、296になったけど?」
「ありがと。もういいよ、それであなたの誕生した月日は分かったから」
「え? 分かった? こんな短時間で?」
そんなはずは無い。結果を言ってから10秒経たぬうちに分かったというのか。それに口にしたのはあくまで計算結果だけだ。
「ケイちゃんの誕生日は、12月13日だね」
周囲の時間が一瞬凍った。
「嘘でしょ?! なんであなたが知っているの?」
和美が思わず、叫んでいた。叫んだ理由も分かっている。合っているのだ。誕生日があっているのだ。12月13日で合っているからこそ、和美は驚きを隠せず、叫んだのだ。
「そ、そんな、うそ。ありえない……」
「合ってる? ケイちゃん」
信じられない。不思議だ。
自分の生まれた日を10倍。それに生まれた月を足すと、「142」になる。
さらに、2倍して生まれた月を足すと「296」になったのだ。
「………」
「その顔からすると、合ってるみたいだね。これで分かったでしょ? 私が〈魔術師〉だってことが」
言葉を探して戸惑っている表情を見て、雨稀はまた手放したスプーンをもって、パフェを食べ始めている。
呆然と雨稀を見つめる。信じられない。確かに私の誕生日を見事に当てて見せた。混乱して冷静に考えることができなくなっているせいか、いくつかの質問を答えただけで、誕生日を当てられた。普通そんなことは考えられない。勘に頼って偶然に当てたということも考えたが、どうやら違う。当てるには相当の運と偶然が無ければ無理だ。それこそ、本当の奇跡が無ければ、だ。なら、考えられることは、一つ。
「あなた、知ってたんでしょ?」
「え?」
「あなた、最初から私の誕生日を知ってたんでしょ? 和美から聞いていて、それを言っただけなんでしょ。〈魔術〉なんかじゃない。雨稀のはインチキだ!」
「ちょ、ちょっと珪沙?」
「黙ってて、和美。ケイちゃんは私の〈魔術〉がインチキだって言うんだ。事前にケイちゃんの誕生日を知っていたっていうんだね? 私が本当にずるして、そんなことをやったっていうんだね。すごい、可笑しい」
突然、くすくすと園比雨稀が笑い出す。
「な、なにがおかしいの?」
「だって。ケイちゃんて、本当に馬鹿なんだね。頭の中が見てみたいよ」
「………は?」