誕生日の魔術 ep1-7
誕生日の? とは一体どういう意味なのか分からない。だが、雨稀は自信満々で未だ三つ目のパフェを食べている。彼女にとっては本気らしかった。
「分かったよ。ケイちゃん、和美。見せてあげる、私の魔法!」
「?!」
今、ここで見せると断言した。どうやら彼女はここで魔術を使うことが出来るらしい。どんな内容かは分からないけど、喫茶店の中でも出来るものらしい。いきなりファンタジーぽく、攻撃とか結界とか、そういうことを想像してしまいそうだけど、この幼稚園高校生が出来るはずもない。
「出来なかったら、どうする?」
もう店内のBGMは頭に入ってこなかった。周りの雰囲気はもう、無視だ。
「賭けってこと、ケイちゃん? できなかったら、じゃなくて、出来たら、でいいよ」
人差し指を振って、もう一方の手でパフェを食べながら、雨稀は笑った。
どうやら、相当の自信があるらしい。もう出来ることを前提にしている。ただの強がりというわけではないらしい。雨稀の眼は真剣そのものに見えたからだ。
「だから、私が出来たら、ここの特製パフェ二つ、おごって。出来なかったら、私が和美とケイちゃんの会計を持つから」
「特製パフェ (いちばん高いやつ)?」
特製パフェとはこの店で一番高いメニューだ。千円札二枚で食べられる超高級パフェで、私自身いまだに食べたことが無い。なんでも色々な種類のアイスとトッピングがのっているらしく、その量も二人分ぐらいあるらしい。
「どう?」
「ちょっと、それって、もしかして私も入ってるの? 雨稀が出来たら、私と珪沙でおごるってこと?」
もちろんその通りだ。けしかけているのはほとんど私だけど、和美にも責任がある。彼女と、〈誕生日の魔術師〉を名乗る女の子と知り合いだったのだから。そんなことがなければこんなことにはならなかったはずだ。
決意するために、深呼吸を一回して、心を落ち着かせる。
「いいよ。もし出来たら、ね」
「ちょっと、私の意見を無視するなっ、ぐえ!」
思わず、和美のお腹におもいっきり手刀をいれていた。和美がおなかを押さえて苦しんでいる。これで静かになった。
「やった!! 約束だよ、ケイちゃん」
「あいたー。もう本当に、知らないから。珪沙、責任とってよ。こんなことになっちゃたんだから」
和美はどうやら反論するのをあきらめて、しょうがないとため息をついている。だがまだぶたれたところが痛いのか、残念そうにお腹を擦っていた。
「うん。ありがと、和美」
「ちっとも、人の話を聞いてないでしょ?」
「うん。それであなたは、何が出来るの?」
「うわー、すごいスルー。珪沙、あとで覚えておいてよ」
不穏な発言は適当に無視して、雨稀と視線をぶつける。
雨稀も、待っていたように真正面から視線を合わせた。あの理科系オタクの視線と比べると、やや軽い感じもしたが、それとは違う言い知れない圧迫感を感じた。
「う、雨稀は、何が出来るの?!」
その圧迫感から逃れるように、無意識のうちに声を荒げて、もう一度聞いた。
「私はね。〈魔術〉で人の誕生日を当てることができるの」
「………」
二の句を継ぐことが出来ないまま、和美と私は目の前にいる〈魔術師〉を見つめていた。
「出来ないと思ってる? 私にはそれが出来る。あなたたちとは違ってね、私は〈魔術師〉だから」
そう言って、私は確かに園比雨稀が鼻で笑ったのを見た。