誕生日の魔術 ep1-6
「でも結局、意味が分からないよね……ぜんぜんジャズ知らないし」
「あははは、確かにね」
一口紅茶をすする。甘酸っぱさと苦味が渾然となった味だ。この苦味はちょっと苦手だけど。
「そうだ。その制服、雨稀は新里高校行ってるんだろ? 今なにやっているの」
何気ない質問だったはず。和美と中学で分かれてから、雨稀がどんな生活をしていたのかを聞くという普通の質問だった。だが、ここで初めて雨稀はパフェを食べるのを止めて、とんでもないことを言った。
「私? 私はね、魔術師だよ。私は〈魔術師〉で〈高校生〉なの」
「は?」
背筋がゾクリと冷たくなった。
今度こそ狂ってしまったのだろうか。電波系の属性でも持っていて何か変な電波でも察知してしまったのだろうか。違う。この小さな女の子は確かに今、魔術、と言ったのだ。魔術の名を語ったのだ。
「えっと、今なんて言ったの?」
もう一度問う。
明らかに〈魔術〉というフレーズは非現実で非日常的だ。現代において、そんなことを言う人ははっきり言って距離を置いて接したくなるのが人情。思わず、二次元逃避してしまっているのかと考えてしまう。しかし、私はあの社会科教師から、〈魔術〉という現象について少なからず、教えてもらっているし、説明できないような不可思議な現象を見せ付けられたこともある。だからこそ、私はその言葉を少しだけ、和美とは違う立場で、考えることが出来る。
「だから、私は〈魔術師〉なの。魔法だって使えるんだから!」
難波先生は言っていた。〈魔術〉とは、科学と相反するものではない。先生の長い講釈によると、オカルトや宗教的なものとは一線を画し、科学の双極の位置にあるものではないという。よく分からないが、先生いわく、科学な出来事に似ている、とのことらしい。それを総称して〈魔術〉と呼ぶ。
「何言ってんの、雨稀。そんな冗談は止めて。そんなふうに話を逸らしてもダメだから。だいたい、〈魔術師〉って、ファンタジーで出てくるあれでしょ? それに中学校のときはそんなこと言わなかったじゃない」
「違うよ、和美。ほんとに私は〈魔術師〉で〈高校生〉なの。高校生になって、〈魔術師〉になれたの。本当に魔法が使えるんだから!」
ぷー、と頬を膨らませた。異質な言動とは比べて、その幼いギャップが変な鳥肌を立たせた。空調の温度が少しだけ、下がったような気がした。
「この子ね、まあ、見て分かると思うんだけど、不思議っ子なんだよね。学校でもそんなこと言って、クラスのみんなからよく怒られてたんだよ。だから、あまり気にしないで。どうせ嘘八百なんだから。って聞いてる?」
無意識のうちに、唾液を嚥下していた。
「あれ、も、もしかして、雨稀の言っていること信じてるの、珪沙? 黙っちゃってどうしたの?」
黙っていたのは間違いないが、どちらかというと絶句していた。現に身体が無意識のうちに震えてしまっている。それが本当なら、これで二人目だ。私が〈魔術〉を使える者に出会ったのは。
「ケイちゃんは信じてくれてるの?」
「ほ、本当に使えるの? 〈魔術〉」
まだどちらかというと半信半疑だ。いつもなら、鼻にもかけない、堂でもいい話として流してしまうだろう。もちろん、難波先生との一件が無かったら、だ。
「ぶー、ケイちゃんも信じてくれないんだね。もちろん、出来るよ。だって私は〈誕生日の魔術師 (birthday magus)〉だから」
〈誕生日の魔術師 (バースデイ・メイガス)〉と園比雨稀は、自分のことをそう称した。