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誕生日の魔術 ep1-5

 なぜか園比雨稀がVサインで応えた。容姿に比べて、性格的にちょっと普通には見えない、おかしな女の子だ。


「和美の友達ということは……え、同い年?!」


 和美と中学校時代同じだったとしたら、年が一緒だということだ。思わず口から出てしまっていた。なんというか世界七不思議というものがあるのなら、この発育の遅さはこれに数えられてしまってもいい気がする。それほど、同い年には見えない外見をしている。

 そしてやっと、雨稀が学校の制服を着ているのが分かった。私たちの制服とは違い、白を基調とした制服だ。これは確か国立大学付属新里高校のものだ。この街にあるもう一つの学校だ。有名進学校として知られているらしい。


「そだよ、これでもしっかり十六才!」


「………」


「みえない、でしょ? そうなんだよ、雨稀は中学時代も、ほんとよく幼稚園児に見間違えられてた」


 内心を見透かされてしまった。頭の中で考えていた言葉を和美に言われてしまったのだ。恥ずかしくなって、雨稀から目を逸らした。


「恥ずかしいから、止めてよ。あ、そうだ和美とケイちゃんも、こっちで一緒にお茶しようよ」


 ケイちゃん? それって私のことか。いきなりその呼び方はどうかと思うけど、その短いニックネーム付け、何。難波先生とは違うむかつきを感じるんですけど。それでも子どもみたく見えるから、まあいいや、と少しだけ思ってしまう。子どもって、卑怯。


「珪沙、どうしたの。いいでしょ? 三人で」


「あ、うん」


 私たちは、自分たちのテーブルから雨稀がいるテーブルに移動した。そして思わず声を上げそうになった。雨稀のテーブルには、紅茶のほかに大きなパフェが三つ置いてあったのだ。しかもそのうち、二つはすでに空っぽになっていた。


「雨稀――あんた、これ食べたの? 相変わらず、甘い物好きな所は変わってないんだね」


「うん、あともう一つ注文中だよ」


 今、さらりとすごいことを言わなかった? ここのパフェは他の店と違い、大きい。比べて1.5倍ぐらいは違う。一つでも、食べきれない人がいるのに、四つ注文して、残り二つも食べるらしい。辟易している和美も、相変わらず、の一言で納得しないで欲しい。


「どうして、その食欲が、発育の役に立たないんだろうね?」


「どこ触ってるの、和美。それは言わないで。これでも私、気にしてるんだから」


 和美が問答無用で、雨稀の胸を制服の上からさすっていた。当然の如く膨らみは無い。その部分では私は勝っている自信がある。嫌がるそぶりを見せずに触られている雨稀は、気にも留めず、パフェを食べている。つわものだ。


「和美も、そのセクハラ癖、治ってないんだね。中学校のときももっと凄いことされちゃったし」


「なっ、私にそんな癖は無い。あ、ちょっと、本気にしないでよ、珪沙。あくまで冗談なんだから」


 和美のセクハラ癖は初耳だ。今までそんなことやっている和美を一度も見たことが無い。すこし和美の評価を変えなくてはいけないみたいだ。冗談に見える光景ではないことに早く気づいて欲しい。


「雨稀はね、中学校の頃から、甘いものに目が無かったんだ。本人は糖分補給とか言って、学校にもたくさんのお菓子を持ってきてたの。何度も先生に取り上げられたのに、それでも懲りずにまた持ってきて、危うく大事になりそうなことがあったんだ」


「はあ」


 あまりのおかしな話についていけない。呆れてしまうぐらい、変な話だ。


「しょうがないでしょー、私には糖分が必要なの。それにパフェは別腹なの」


「あはは。本当に糖尿病になってもしらないから。ここへはよく来るの?」


「うん。ここのパフェは美味しいから。それに、ここの雰囲気が好きだし、今流れている曲も好き」


 ちなみに、話題には出ていないが〈夢の国〉はただの喫茶店ではない。〈夢の国〉は、体裁は喫茶店として知られているが、実際はジャズ喫茶をうたっている。だからこの店内に流れる曲はすべてジャズ、またはジャズアレンジされている曲ばかりらしい。


「曲ってこの?」


 今店内で流れている曲は、軽快なピアノを主体としている楽曲だった。


「うん。これ〈make someone happy (誰かが幸せになる)〉って曲。私、好きなんだ、この曲。誰が弾いているのかしらないけど」


「ぜんぜん分からないけど……」


 その時だった。


「よく知ってるね。お待たせしました。紅茶とパフェです。今流れているのは、弾き手によってぜんぜん違う雰囲気になるけど、ジャズピアニスト、bill evansの〈The Best Of Bill Evans Live〉から流してる。本家は違うけどね」


 横から、飲み物を持ってきたウェイトレスが口を挟んだ。注文していたお茶と、雨稀が頼んだらしいパフェが、ワインレッドのトレーに乗っていた。

 入り口で会ったウェイトレスとは、ちょっと印象が違った。服装と姿かたちは瓜二つだが、違和感が少しだけある。八重歯があるのが印象的なウェイトレスだった。乱暴な言葉遣いからも活発そうなオーラが少し現れているように思った。


「どうぞごゆっくり」


 一礼して、ウェイトレスが去っていく。その姿をなぜか追っていた。最初出会ったウェイトレスとは違う魅力を持っているせいかもしれなかった。



次回ぐらいで、〈魔術〉が現れます。なぜ、そのようなことが出来るのかを考えてみてください。それが話の焦点になります。


ちなみにジャズは、その登場人物のテーマ曲だと思ってください。

一人ひとりにテーマ曲があります。

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