誕生日の魔術 ep1-4
「か、和美、やめてよ」
「うわちゃ!」
注意したら、和美が突然奇声を上げて、隠れるようにテーブルの下に身体を隠そうとしたが、隠しきれていない。みつかちゃった、と言っているみたいだった。
「見つかっちゃった? ……え」
後ろを振り向けない。これは正直やばい。
「こっち見てる…てちょっと珪沙! なんでそこで携帯打つまねしてるの、そもそも携帯手元に無いじゃない?!」
「た、他人のふり?みたいな」
同じテーブルで他人のふりも無いと思ったが、友人が起こしたこの状況に対して、ど牛たらいいか分からなくなって苦し紛れの結果だった。
「ああああああああ、こっち来たあ! どうする、どうするの、どうしたらいいの?」
和美があせりでいつもの口調から、女の子口調に戻っている。そういえば、緊張や混乱すると、和美は普通の女の子になる。そもそも本当は外見が地味な女の子に見えるのだから、こっちのほうが普通に見える。
「あああ、来たよ、どうしよう珪沙あ。立ち上がって、どこ行くのさ?」
「ちょっと、トイレ」
こういうときは席をはずすのに限る。と思って立ち上がろうとしたら、がっしりと、和美に制服の袖を両手で握られた。引っ張って強引にはずそうとしたが、何か不思議な力がかかっているのか、話さなかった。
「ちょっと、しわが出来るから」
「友達でしょ、お願いだから、一緒にいて。それに顔のしわが出来るよりはいいでしょ?」
なんて言った、この女。思いっきり頬を撫でてあげたい。
「ああ、もう。離してって……あ、」
その小学生みたいな女の子が、すでにこのテーブルの前にもういた。和美のほうをじっと見ている。身長は思った以上に低い。150センチあるかどうかだ。黒髪のショートボブ、目は大きめで、その瞳にはまだ幼さが残っている。小さな唇が印象的で子どもにしては端正な顔つきをしていた。
「あ、その、こ、こんにちは」
しまった。このタイミングで挨拶してしまった。これからどうしよう。誤ったほうがいいのかもしれない。こっちのほうが――ほとんど和美のせいだが、悪いんだし。
「ごめんなさい、私たちは邪魔しようと思っていたわけじゃないの。ただ、なんていうか……」
「カズミ? 和美でしょ? そうだやっぱり。久しぶり! 私、ウキだよ!」
「へ?」
テーブルの下に隠れていた和美が、おそるおそる、視線を向ける。表情はとても硬い。最初は怖がってみていたが、相手に敵意が無いと見て、しっかりと相手を見つめた。そして、心当たりがあったのか、和美がゆっくりと口を開いた。
「ウキ? 園比雨稀?」
「そうだよ、中学以来だね!」
ウキという名前の女の子が和美に向かってダイヴするように抱きついて和美を押し倒した。何か倒したとき、途轍もないような音がしたようなぶつかった音がしたが、とりあえずここは無視しても良いだろう。
「ちょっと、雨稀、重いし……痛い!」
和美はそのまま床に倒されて、少女の下敷きになっている。
「和美…この子と知り合い、なの?」
「あ、うん。ちょっといいからどいてって、雨稀。紹介するよ。この子は園比雨稀。中学校が同じだったの」
いわゆる〈おな中〉というやつなのだろう。
「こっちは、同じクラスの、えっとなんだっけ? ちょ、そんな怖い顔しないで、ケイ。今のは、助けてくれなかったお返し。こっちは私の親友の木頼珪沙」
ここはボケるところじゃないでしょう。その眼鏡を叩き壊すよ。いまさら親友扱いされてもぜんぜん嬉しくない。むしろ、その弾力肌をストッキングみたく伸ばしてだめにしてしまいたい。というか、弛んでしまえ。
「よろしくね」
「よ、よろしく」