誕生日の魔術 ep1-3
………
夕方のせいもあって、商店街の人通りは多かった。買い物袋を携える主婦と子どもや、学校帰りの生徒も何人か見受けられた。この時間帯は駅と学校の道の途中にあるこの商店街はどうしても混む。
「ケイ、どこいく?」
この国府里商店街には、駅から近いこともあって、さまざまな業種の店がある。八百屋、肉屋、魚屋といったものだけでなく、飲食店、学生用のカフェや、洋服屋なども出ている。買いたいもの、欲しいものはここでほとんどそろってしまうぐらいだ。
「〈夢の国〉は? あそこなら、お茶にもちょうどいいし、ゆっくり出来るから」
「そうしようか。あ、でも今の時間混んでいないかな? まあ、いっか」
〈夢の国〉は喫茶店である。商店街の通りから奥に入った場所にある隠れ家的カフェである。造りが中世的で古風な店で、大通りから少し奥に入ったところにあり、客席も少ないため、静かな場所としてよく学校帰りに活用する学生も多い。珈琲が有名だけでなく、軽食類も美味しいと評判だ。
「そうだね。でもいいじゃない。私は〈夢の国〉がいい」
「こっちだっけか、道合ってるよね?」
大通りを避けて、商店街の脇にある小道に入っていく。大通りより雰囲気が暗めで、近寄りがたい印象を持った。小道に入るだけで、民家が両脇に並ぶ。ただ、小道が狭いためか、隣の家との距離が極端に近い。
「もう少し道が分かりやすくて、広ければ良いのにね」
「確かに。これじゃあ、獣道を通っている感覚みたい」
和美が、自分の言葉に苦笑した。獣道とまではいかないまでも、確かに少し冒険しているような感じがする。子どものころ、路地の道を縦横無尽に駆け巡った小さな冒険の感覚に似ているのかもしれない。
五分ほど歩いて、古風なレンガ造りの店が見えてきた。一階建てで、テラスが見える。一見民家に見えそうな家だが、周りに垣根は無く、すぐここからでも店内が見え、テラス席の日よけ用の白いパラソルが見えた。古風な木製のドアを開けると、来店が分かるように鈴が涼しそうに鳴った。店内から静かな曲が流れているのが分かった。
「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」
「うわ、可愛い…」
頷く前に、和美が思わずそういった。たぶん店内が、ではなく、応対した女の子に対してだと思う。店員が着ているのは、店の制服、メイド服に少し似ていたが、現代風アレンジがついた服だった。これ以上、度を超すと何かのコスチュームにも見えてしまうが、色使いが落ち着いているせいか、そうは見えない。制服自体も良いが、着ている女の子にとても似合っている。頭にはカチューシャがついていて、大きな瞳におっとりとした雰囲気があった。これなら、確実にもてるだろう。なんだか同じ女の子として釈然としない。
「ケイ、どうしたの。眉間にしわが寄ってる」
「………」
しわは女の子の敵です。頬を思い切り二度叩いて、笑顔に徹しようとがんばった。
「叩いたから、顔が真っ赤になってる」
「………いいの!」
痛みではない、恥ずかしさを頬に感じた。
「こちらへどうぞ」
店内は意外と空いていた。カウンター席に二人、テーブル席は六つあるうちの二つが埋まっているだけだった。ちらりとみると、後姿しか見えないが、隣のテーブル席に小さな女の子がぱくぱくと美味しそうにパフェを食べている。
少しその絵面がおかしくて、笑ってしまった。小さな子どももいるんだ、と驚いた。そのことを和美に話すと、興味がわいたのか、盗み見ようとして、身体を傾け始めた。
「ちょっと、ばれたらどうするの?」
止めようとしたが、持ち前の好奇心にどうにもならないらしく、大丈夫、大丈夫といいながら、ぜんぜん大丈夫ではない変な行動を取ろうとしている。思い切り飛び跳ねて、その子を見ようとしたのだ。
「か、和美!」