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誕生日の魔術 ep1-10



「お願いね。ウェイトレスさん」


「少々、お待ちください。私には判断できないので、マスターに確認をとってみます。それで大丈夫でしたら、協力してくれるお客様を探してみます」


 ウェイトレスが奥に下がると同時に、店内のジャズ音楽が、変わった。今度は静かな曲調のものだった。今の雰囲気とは完全にあっていない。この場の雰囲気は淀んで、重たく暗くなっている。

 私は、冷たくなった紅茶を一口含む。冷たくなったせいか、苦味が余計強く感じる。口直しにはなった。

 和美と雨稀は一言も言葉を発せず、黙っている。それが一層この場を重くしていた。

私は和美の耳元で、雨稀に聞こえないように囁いた。


「ねえ、和美?」


「…今度は何? もうぶたないで、お願いだから」


 がくがくぶるぶる、と震えだして怖がる和美。寒気で震えているのかと思ったが、見るところ私の乱暴な発言や暴力が原因らしい。そんなつもりはなかったのだが、興奮してしまったのが悪かった。男らしい言葉使いをしているからといって和美も一人の女の子なのだ。


「やらないよ。もう落ち着いたから。今のあれを見てどう思った?」


「あれ? それってもしかして、雨稀が珪沙の誕生日を当てたこと?」


「うん。雨稀の〈誕生日の魔術〉について、どう思うか聞かせて欲しいの」


和美が唸る。考えているというよりは、どんな言葉で言おうか迷っているように見えた。


「……分からない、というのが私の答えだけど」


「それじゃあ、意味がないの。私が言っているのは…」


「落ち着いて。まだ私の話は終わってない。珪沙の誕生日を当てたのを横で見てた感想だけど、私も珪沙と同じ考え。だけど、勘違いしないで。私はインチキとは思っていない。ありえないとは思っていたけど、目の前で見せ付けられちゃったし。確かに珪沙の言うとおり、事前に知っていれば、答えることは出来ると思う。本当のところ、私は雨稀に珪沙のことを話したことも、話す機会もなかったのは事実なの。事前に調べることについてはむしろ、不可能だと思う。無論、運で当てたなんて以ての外ね。それだったら、わざわざ質問する意味がないし…」


 苦い顔のまま、和美の視線は雨稀にあてられたままだった。和美にもなぜ、園比雨稀が誕生日を当てられたのか、全く分からないようだった。


「でもね、珪沙。一つだけおかしなことがあるの」


「え?」


 私には、何も疑問に思うことはなかった。何も分からなかったというのが正しいけど。疑えたのは、雨稀が何故こんなにパフェを食べられるか、というどうでもいいことだけだった。




「おかしな点は、雨稀が質問した、ことなのよ…………」




「…………」


 そう言って和美は黙ってしまった。そのまま、紅茶に手をつけている。何か話の続きがあると思っていたが、次の言葉はなかった。


「そ、それがどうしたの」


「気づかないの? ついさっきも言ったけど、運で偶々当てたとしたら、質問する意味がないの。でもその裏を返せば、わざわざ質問をしたということは、質問することに意味があったと言い換えることが出来る」


「質問に意味? あの質問に?」


 質問とは〈生まれた日を10倍したものに生まれた月を足して。次にその結果を2倍にして、それに生まれた月を足してみて。〉のことを指しているのだろう。

 これがどうしたというのだろう。和美の言うことが全く分からない。質問をすることの意味と言っているが、それが理解できない。


「きっと、雨稀は超能力で当ててない、ということよ。雨稀は何もせずに誕生日を当てたというわけじゃないと思う。きっと質問したことから、どうやってか、誕生日を推測(・・)したのよ」


 確かに。もし質問の答えから推測できるとしたら、誕生日を当てることが出来る。たぶん和美の言っていることは、テストの問題みたいなものだと言っていることと同じだ。問題文があれば答えを導くことが出来る。答えがあれば、問題を逆算することも出来るということだ。

 さすが、和美だと思った。


「じゃあ、やっぱりインチキ?」


 和美は深くため息を吐いた。それだけならいいんだけどね、と首を振るう。


「そうは簡単にいかない。いままで考えていたんだけど、雨稀の質問はおかしい。おかしいといってもその質問の中身よ。中身がおかしいの。その質問から、誕生日を出すことは出来ないの」


「? 出来ない、ってどういうk…」


「何、こそこそ話しているの? ケイちゃん。和美」


 もう少し和美に突っ込んで聞こうとしたら、会話の邪魔をされた。


「な、なんでもない」


「ふーん。何を言い合っているのか知らないけど、信じないのはかまわないよ。でも私の〈魔術〉は本当だよ。ケイちゃんの誕生日を当てたことは事実なんだからね。何言っても変らないよ?」


 意地悪く笑う。姿が幼稚園児に見えるだけあって、その姿は一層君が悪い。子どもぽい人懐っこい性格はもう隠れてしまっている。子どもの悪戯、意地悪さが前面に出ている感じだった。


「おまたせしました。マスターが許可するということで、何人か集まってもらいました。これでよろしいでしょうか?」




もう一話だけ、問題篇は続きます。次回は園日雨稀が少しだけ、追い詰められます。次の一話で物語を一度完結させます。時間を置いて、推敲篇と読者の皆様から答えをいただけましたら、解答篇を載せたいと思います。

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