どんな状況でも勉強をすることが大事
夕食を済ませた後に我が家の二人で二階にあがる。
二階には僕の部屋と妹の部屋がある。
「ここが妹の部屋だよ」
「へ~!」
廊下から見える妹の部屋の室内に、布瀬は目を輝かせていた。
布瀬の学校での冷たい美人像は大分崩れている。むしろ妹の部屋を見る布瀬は好奇心旺盛な少女のようだ。
「そんなに面白いか? 僕の妹の部屋が」
妹の部屋のカーテン、ベッドのシーツ、枕カバー、椅子はピンクが基調になっている女の子っぽい部屋だ。
もふもふしたぬいぐるみもある。それらもやはりピンクだった。
布瀬が好みそうなセンスとは隔たりがあるように思えるのだが。
「じゃあさ。どれでも着替えたら一階のリビングにまた来てよ。僕も制服を着替えるから」
「うんうん!」
なんだか凄く楽しそうに布瀬は妹の部屋に入っていった。
「なんだかわからないけどまあいいか」
記憶の中でいつもツーンとしていた彼女が僕の妹の部屋で着替えている。なんだか少し変な気分になってきた。
「僕も着替えよう」
二階の自室でチノパンと洗濯の回数を重ねたことで少し色あせたTシャツに着替えた。
「うーん。もうちょっと格好良い服のほうがいいかな? なんでだよ。これでいいや」
一階のリビングに降りる。
「ともかくだ」
勉強をさせられたり、インフラの整備に気を取られて、世界中から人がいなくなった原因と解決についてはほとんど話せていない。
やっと落ち着きそうだし布瀬が来たら、この状況についての話をしよう。
◆◆◆
……来ない。いつまで経っても布瀬はリビングに来なかった。時計は見てなかったけど、ひょっとして30分以上は経っているんじゃないだろうか。
流石に心配になってきた。妹の部屋で倒れていたりしないだろうか。それよりも他の多くの人と同様に消えてしまったとか。
見に行きたいけど着替えをしているとなると入りにくい。
外から声をかければいいか。心配することはなかった。
階段から足音が静かなリビングにも響く。
「おまたせ」
「お、遅いじゃな……」
妹の体が小さいからだろうか、それとも布瀬の胸が制服で着痩せしていたからだろうか、胸が強調される小さめのTシャツ。
そしてショートパンツだった。
「な、なに無言になっちゃって……」
「べ、別に」
確かに楽そうな服装になった。
でもあのお堅い会長があんな服をチョイスするとは思わなかった。露出も……多めだ。
「服……変……かな?」
「い、いや。変じゃないよ」
「そう? よかった」
今の僕にはこの状況を話し合うという優先課題があった。細かいことを気にしていてもしょうがない。
「まあやっと落ち着いたな。とりあえず世界中の人がいなくなっても特別危険な生物がいるとかウイルスが蔓延しているとかそういうことではないみたいだ。食料やインフラもスーパーやホームセンターの商品で当面なんとかなりそうだしね」
「そうね。それじゃあ」
とりあえず落ち着いたという二人の合意が形成される。
そして人がいなくなった原因と解決についてさらに話をすすめることも布瀬と合意形成されているものだと思い込んでいた。
しかし、それは僕の全くの思い込みだった。
「なら早速、今日の授業の復習をしましょうか?」
「えええ。そっち?」
布瀬はここに至っても学生の本文を全うしようとし、僕にもさせようとするようだ。