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二人での夕食

 リビングの小さなソファーで二人、遠慮がちに少し休憩していたらすぐに外が暗くなりはじめた。

 電気もガスも止まっている家の中は陽の光がなければ真っ暗になるだろう。

 僕達には灯りがすぐに必要となった。

 布瀬があると便利でしょうとスーパーから電池式の電灯を持ちきたのは大正解だった。

 きっと一緒に持ってきたボンベ式のカセットコンロもきっと大正解だろうな。

「電池式なのに普通の照明とそんな変わらないね」

「うん。あのスーパーはホームセンターに売ってるようなものも多くて助かったね」

「だな。このカセットコンロも夕飯にすぐ使えそうだ」

 けれどやっぱり彼女は変わっている。

 スーパーでは布瀬がお金を出して書き置きとともにレジに置いていった。

 どう考えても非常時だと思う。

 別に支払わなくても大丈夫なんじゃないかと言ったけど、やはりお昼の時のように火事場泥棒だと怒られてしまった。

「うん。私、カセットコンロ使ってお夕飯作ってあげるね」

「おお、マジか? 僕は料理なんてできないからありがたい」

 そういえば布瀬のお弁当の焼肉は火を通したものだった。

「お弁当もこんな感じでカセットコンロ使ったのか?」

 布瀬は少し間を置いてから答えた。

「うん。家に災害用のものがあったの」

「そんなことを言っていたね」

「うん。エプロン借りるね」

「どうぞ~」

 布瀬が長い黒髪をゴムで束ねて、エプロンを着ける。

「やばい」

 つい思ったことを口に出してしまった。

「や、やばい? なにが?」

 エプロン姿とアップした髪型のうなじが……。とてもよく似合っていた。

「い、いや、なんでもない。間違い」

「間違い? ならいいけど」

 野菜を切る包丁の音が聞こえてくる。包丁の音だけで料理が手慣れていることがわかる。

 お嬢様は料理をするものなのだろうか。

 案外、良家に嫁ぐためみたいな理由で料理も学ばされるのかもしれない。

 僕は妄想した。会社で働いて家に帰ってきた時に、エプロン姿の布瀬が美味しい料理を作って笑顔でおかえりなさいと言ってくれる。

 うん、悪くないかもしれない。実際にはちょっと変わったところもあって、笑顔も少ないけど。 その上、会社が機能するような社会に戻るかはかなり怪しい。

 僕は布瀬が料理している間に家の中を掃除することにした。それほど散らかってはいないが、女の子のお客様が来ているのだ。

 水回りは特に念入りにしたほうが良いかもしれない。

 脱衣所兼洗面所、トイレ。バスルームではシャワーをひねる。

「うん。まだ水は出るみたいだ」

 冷たい水の雨でサッとバスルームの床を流す。

 電気とガスの供給はストップしているが、まだ水は水圧自体によって供給されるようだ。

 その時はスーパーから持ってきた飲料水が役に立つことだろう。

「一応、僕の部屋も見に行こうかな」

 階段を登り、二階の自室を軽く見回す。変なものはないが、ちょっとオタク趣味なものは目に触れない場所に置くことにした。高橋だったら喜んでくれるものも多いかもしれない。

 それを布瀬に見られないように隠すのは少しだけ胸が苦しかった。

 部屋を片付けて階段を降りると布瀬から明るい声をかけられた。

「夕食できたよ~」

 テーブルの上には大小の皿が並んでいた。特に大皿が目を引く。牛肉、豆腐、しらたき、葱、春菊、、しいたけ、卵。

「ひょっとしてすき焼きかな!?」

 うちは無理して妹が私立に通っている。僕が受かっていれば、妹が公立に通うことになっただろう。経済的にすき焼きを食べる機会はあまりない。

「生のお肉を食べられるうちに食べとこうと思って。お刺身もあるよ」

 なるほど、布瀬の言う通りだと思った。

 電源の供給がストップしているのでスーパーの食材は既に傷んでいるものもある。

 逆に締め切っていた大型の冷蔵施設や冷凍庫に入っていた食材は、食材自体が保冷剤となってまだまだ問題なく食べられそうだった。

 そこで美味しそうな肉や魚を持って帰ることにした。

 ただ、豆腐、しらたき、葱、春菊、しいたけ、たまごといった食材まで持ってきたことは気づかなかったから、僕が水を詰め込んでいる間に布瀬が袋に詰め込んでくれたのだろう。

 テーブルを挟んで向かい合わせ座る。既に火の着いたカセットコンロが鍋を温めていた。

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