水と教科書は重い
布瀬と街を歩き回る。
こうやって現に僕達二人がいるのだから他に誰かいるのではないかとも思ったが、やはり人の気配は全く無い。
もちろん人が消えた原因や解決の手がかりも全く無かった。
しかし、すぐに手がかりが見つからないのは仕方ないとしても、代わりに布瀬に伝えなければならないことがあった。
言わなきゃいけない。
このままだとそれぞれの家に帰ることになるだろう。
「なあ、明日も学校行くの?」
「もちろん。さぼったらダメよ」
「あぁ、それはわかったけど……」
布瀬と別れたらその時に僕も布瀬も何か危険に巻き込まれてしまうかもしれない。
何かといっても危険の正体はわからないし、本当にまだ危険があるのかもわからないけれども、人が全て消えているという厳然たる事実がある。
それに電気も通っていないから日が落ちたらなにも見えなくなってしまう。
そうなれば危険は遥かに増すだろうと思う。
こんな時ぐらい男らしく守ってあげないといけないんじゃないだろうか。
布瀬も心細い思いをしているはずだ。実は僕も心細い。
布瀬と別れている時に、もし何かが起きて、この世界に一人残されてしまったら、守れなかったことをきっと後悔するだろう。
だから僕はこの状況の安全性が確認できるまで、いや、せめて今晩ぐらいはどちらかの家で一緒に過ごそうと提案しようと思っている。
理由なんかいくらでもあるじゃないか。
ひょっとしたら危険かもしれないとか、原因について話し合わないかとか、これからどう過ごしたらいいか相談するためとか。
けれど言えない。
昨日までほとんど話したことの無い女の子と一緒にいようなんて言えるだろうか。
いつも話していた高橋でも難しそうな気がした。
「鈴木くん、状況が見えてくるまで学校外でもしばらく一緒にいたほうがいいよね。お家にお邪魔してもいいかしら?」
あっさりと布瀬のほうから提案される。
僕よりもずっと男らしかった。
「……ダメかな?」
「い、いや、もちろんいいよ」
「ありがとう。一人だと心細かったんだ」
「そ、そうだよね」
やっぱり布瀬は女の子っぽいところもある。
頼りがいのあるところを見せることができれば、もっと安心してくれるかもしれない。
どうやって頼りがいのあるところを見せればいいだろうか。
まずはこの世界での生活基盤の確立だろう。特にインフラに問題がある。
なにせ電気もガスも供給されていない。
食料も確保したほうがいいだろう。
「あそこに大型スーパーがあるわ。そこで色々買っていったほうがいいよね」
その提案も先回りされてしまった。
◆◆◆
スーパーでまず食料を調達するものだと、僕は思い込んでいた。
けれど今運んでいるのは主にペットボトル入りの水、水、水だった。お、重い。
布瀬はカセットコンロや電池式の電灯など水以外のインフラを運んでいるようだ。
「ごめんね。重いものを持たせちゃって。大丈夫?」
「あ、あぁ。余裕だよ」
「一度にこんなに持てるって思わなかった。やっぱ男の子って力あるね」
余裕ではなかった。
水は水道管のなかにある水の圧力そのもので各家庭に届けられているためか蛇口をひねればまだ出てきた。
けれどいつ止まるかわからない。
僕は重いペットボトルを運んでいた。
「つ、着いたよ。小さいけどね」
きっとお嬢様と名高い布瀬の家と比べたら小さいだろう。
「素敵なお家じゃない。お邪魔するね」
「う、うん。どうぞ」
同級生の女の子を家に上げる。しかも美人。
普通だったら色々と感慨が深いところかもしれないが、今は玄関に教科書の入った鞄と水をげ玄関に放り投げるのが先だった。