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取り戻したい日常

「当たり……正確にはまだプロトタイプなんだけどね。浩人はモニター生」

 初世は屈託のない笑顔で言った。

 僕も少しだけ笑い返した。

「え? 浩人はショックをうけないの?」

 どうやら初世は僕が笑ったことに驚いたようだ。

「ショックは気がついた時に受けたよ。でも初世は明るくしたいと思ってるんじゃないの?」

「うん……でも……」

 初世はどんどん顔を暗くする。

 僕は精一杯優しく笑顔で話しかけると決めている。なぜなら僕は……

「でも?」

「私のことがわかったら嫌いになったでしょ」

「いや。好きだよ」

 これからも初世を愛すると決めている。

「だって私、AIなんだよ?」

「わかってる」

「わかってないよ。私は人間じゃないんだよ?」

「でも……初世は初世だろ? AIとか人間とか関係なく、僕は初世が好きになっちゃったんだよね」

 初世が両手で顔を隠す。そのまま無言で教室の床に座り込んでしまった。

 僕も隣に座る。

「どうせ初世は朝ごはんも食べてないだろうし、お腹へってるだろ? お弁当作ってきたから一緒に食べよう」

 初世はまだ顔を両手で隠していたが、しばらく待っているとひどい涙声で返事があった。

「……うん」


◆◆◆


 教室の一番後ろの窓際に並べっぱなしの僕達の机と席に座って、校庭の景色を見ながら、僕と初世はおにぎりを食べていた。

 無言で食べていたけど、無意識にこの世界とおにぎりの味の感想をもらした。

「このリアルな世界が仮想現実なんて不思議だよな。お米がちょっと焦げちゃった苦味まで再現されてるよ」

 まぶたが赤く腫れぼったい初世が答えた。

「でも凄く美味しいよ」

「苦くない?」

「これぐらいお焦げのうちだよ。それに浩人が私のために作ってくれたおにぎりだし……世界一、美味しいよ」

 初世は泣き止んでからはずっと僕にくっついている。

 ひょっとしたら傷つけるかも知れないと思いつつも、初世と一緒にいるというこれからの目的のために必要かもしれないので聞くことにした。

「AIもお腹減るの?」

「教師役もリアリティ求めてるから」

 別に平気のようだった。

 初世がこの世界のことを説明してくれた。

「強制的にやらされてる感があると学習効果が小さいから、作られた世界であると認知・記憶できないようになっているはずなんだけどね。でも、そうするとAIが人形みたいだったら変だと思っちゃうでしょ?」

「いや最初のうちは人形みたいに思えていたよ」

「もうっ!」

「ごめんごめん」

「ともかく、だから本物の人間みたいにお腹も減るの……浩人に会えなくて、お腹も減って……凄く悲しかった……」

「初世を見つけて、お弁当も持ってきて、僕って結構いカッコいいね」

「カッコいいって自分で言うの? まあ浩人はカッコいいですよ。でも」

 初世が悪戯っぽく笑う。

「うふふ。もう一つこの世界の秘密を教えちゃおうか。この世界はね、誰もいない状況で私みたいな美少女から勉強を教わったら男の子には効果が大きいんじゃないかって考えのもとに作られたタイプの世界なんだよ」

 なるほど。普通に人がいる世界もあるんだろう。

 塾のプログラムで勉強していると知られると効果が小さくなるから記憶にはないけど、僕は塾の無料モニターにも受かっていたらしい。

「美少女って自分で言うの?」

「あら。効果出てない?」

「うっ」

 返す言葉もなかった。

「ふふふ。そっかー浩人くんも楽しかったですかぁ。私みたいな女の子と勉強できて」

 もう少し愛想がいいほうが良かったってアンケートに書いとこうか。

「100人のモニターのなかから浩人初世組はベストカップルだって」

「僕らの組が一番成績が良かったって意味?」

「うん! 私は凄く嬉しいんだ」

 その事実は少し嬉しかった。

「一番、問題も多い組って言われてるんだけどね」

「問題?」

「そのほら……私たち……しちゃったじゃない?」

「ひょっとして見られている?」

「大丈夫。モニター生はお客様だし、プライバシーもあるから映像とかはないし。健康管理のためにバイタルサインはチェックしてるけどね」

 ほっとする。

「まあ私にはプライバシーもないんだけど……反応チェックはしていてそれでわかったのかな」

 僕はそれに怒りの感情を覚えた。

 それが表情に出ていたらしい。初世がフォローした。

「あ、私の調整をしてくれている人は凄く良い人だよ。遠回しにそういうソフトじゃないんだからねって言われちゃったけど。多分、見逃してくれてるのかな。あはは」

「女の人?」

「うん」

「仲良いの?」

「うん。すっごく」

「そうか」

 なら僕が怒るのは大人げないのかもしれない。初世の味方は少ないはずだ。

 それに初世とずっと一緒にいるためにはその人の協力が必要になるかもしれない。

 必要ならばその人の協力も得てずっと初世と一緒にいるつもりだ。

「それはその人が隠してくれていて大きな騒ぎにはなってないんだけど他にも問題があってさ」

「他の問題って」

「浩人が私を覚えていたこと。効果を上げるために現実世界では思い出せないようにしているから、理論上は奇跡みたいな確率なんだって」

「また奇跡か。なにかの理論だか仮説でも奇跡って聞いたね」

「ふふふ。そうだね」

 僕はおにぎりとインスタントの味噌汁を飲み終わる。初世も食べ終わったようだ。

「まだまだ聞きたいことはあるんだけど」

「そうね。先に明日の予習しようか」

「やっぱり……」

「浩人だって教科書を持ってるじゃない。鞄からお弁当を出した時に見えたよ」

「うっ」

「えらいえらい。やろ」

 僕らはまた教室で勉強をはじめる。

 僕にとってはこれが初世との日常であり、日常を取り戻したいという気持ちがあったのかもしれない。

まだ数話、続きます。

感想よろしくおねがいします。

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