今日は寝るまで遊ぶ
初世の部屋のベッドは広い。
二人でうつ伏せになって単語帳を広げるスペースは十分にあった。
「これは?」
「participate 参加する」
「これは?」
「import ~を輸入する」
今日の復習も明日の予習もない土曜日でもやはり勉強はあるらしい。
初世は英単語のテストをすると言い出した。
「うん。結構、覚えてるみたいね」
「毎日やってるからね」
「楽しくなってきた?」
「こうやって初世が教えてくれるから楽しいよ」
初世が心底満足そうな笑みを見せた。
「やっぱり、勉強は、まだまだ私がいないとダメだね」
「う、うん」
「よーし」
そろそろ車の整備についてや農業や電気の作り方を学びたいけど、そんな本もないし、今はいいか。
そんなことを考えていると、初世は数学の参考書を物色しはじめた。
すぐにコロコロと教科を変える。
「え? もう英語やめるの?」
「浩人が自分で学べてるか確認してるの」
「そ、そう」
なんだか初世は急いでるように思えた。
◆◆◆
「浩人……結構できてるね」
様々な教科の小テストをおこなった結果、僕の成績はお嬢様の御眼鏡に適ったようだ。
「昔はこれでも優等生だったからね。初世が勉強する習慣を身につけさせてくれたからかな」
僕がそう言うと、一瞬だけ初世が悲しそうな顔をしたのは気のせいだろうか。
「もう勉強止めた! 今日は寝るまで遊ぶ!」
「ええ?」
初世が元気な声で急に宣言した。
「ポテトチップの食べくらべをする」
初世がベッドから飛び出る。
しばらくすると持ちきれないようなポテトチップを両腕で抱えてきた。
本当にもう勉強を止めるんだろうか。
彼女にしては珍しい。
高そうなカーペットはポテチの袋で占拠された。
いち、に、さん、十種類近くある。
「よし、食べよう!」
「こんなに食うの?」
「後悔したくないからね。何事も経験」
「まあポテチにだって賞味期限あるしね。じゃがいもから作ろうと思えば作れるけど……このバナナ味なんてのは作れないか」
「そうそう。食べよう。美味し~」
初世はポテトチップを食べ始めた。
黙っていると大人びた美少女だけど、今は完全に子供のようだった。
僕も彼女が食べたポテトチップを食べる。
「美味しいね」
「うん!」
初世が楽しそうに食べていると、普段よりも美味しく感じた。
「よーし。私、いよいよバナナ味にいっちゃうよ」
「これを……いくのか?」
「うん」
初世が一口、二口とやって微妙な顔をする。
「どう?」
「うーん。浩人どうぞ」
「え? 僕も食べないとダメ?」
「食べてよ!」
「はいはい」
口に広がる薄しょっぱいバナナ味。
バナナ味のポテトチップは初世が顔で表現したように本当に微妙な味だった。
「不味くも美味しくもないね。どっちかだったら笑えたのに」
「うん。ふふふ」
「ははは」
結局おかしくて笑ってしまう。
僕達は些細なことを二人で笑い合あった。




