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猫は人間がいなくても生きていける

ちゃんと謎の回答は用意しています。

 勉強が本当は楽しいものだったとしても、誰もいない世界で何時間もそれをするのはいささか倒錯的だった。

 もっとも、ほとんど一方的に僕が布瀬から教わるという形になってしまった。

 きっとお礼をいうべきだと思う。

「教えてくれてありがとうね」

「いいのよ。また明日も教えてあげる」

 僕は布瀬を疑い始めている。

「本当か。ありがとう」

 お礼を言うと布瀬は返事の代わりに少しだけ笑った。何度か見た彼女の笑いだ。

 それはいい。彼女の笑顔は気に入りはじめている。

 けれども学校で勉強をするという行為が布瀬の現実逃避なんじゃないかという疑いは濃厚さを増している。

 ただの度を超えた真面目ならいいんだけど。

「また明日もよろしくな」

 もし精神的な疲労からおかしなことをしてしまっているなら、最初のうちは合わせてあげたほうがいいかもしれない。

「ダメよ。鈴木くん」

「え? なにが?」

「今あなた、教科書を机に置いて帰ろうとしたでしょう? 予習と復習が大事って教えたでしょ」

 やっぱり布瀬はおかしい。

 誰もいないんだぞ? この状況を調べようとしないなんておかしいだろ。

 でも僕しかいないのだから支えてあげなければならない。

「鈴木くんが教科書を鞄に締まったら一緒に色々回ってみましょう。何かわかるかもしれないし、誰かいるかもしれないわ」

「え?」

「スーパーとかに回って日持ちする食料や飲料水も確保したほうがいいかもね」

「……」

「どうかした?」

「いや、別に」

 布瀬の判断は冷静だった。

 多分、ただの度を超えた真面目のほうだ。

 そう思いたい。


◆◆◆


 誰もいない校舎から誰もいない街に出る。

 学校は長期休暇であれば、ほとんど人がいない場所になることもある。

 街にこれだけ人がいないのは体験したことがない。

「誰もいないね」

「人っ子一人いないな。動物はたまにいるのに」

「動物? いたの?」

「朝ススメが鳴いていたよ。あっ猫がいる」

「猫!? どこ!?」

「ほら。あそこ」

 クールな布瀬が猫に食らいついた。

 けれど猫は垣根の中に入っていってしまった。

「あ、あ~行っちゃった……」

「猫好きなのか?」

「うん。けど可哀想ね」

 布瀬はきっと猫の行く末に悲しみを感じているのだが、僕は希望があることを知っていた。それを教えてあげることにする。

「どうしてさ」

「人間がいなくなったら皆死んでしまうでしょう?」

「猫は人間がいなくなっても勝手に生きていくらしいよ」

 布瀬は目をパチクリさせる。

 彼女の目はくっきりとした二重でわずかにツリ目だから猫目というのかもしれない。

「本当?」

「ああ、テレビではそう言っていたよ。人間がいなくなっても猫は勝手に生きていけるらしい」

「そう。それならよかった」

 布瀬は満面の笑みを見せた。

 もっとも彼女には話せなかったが、そのテレビ番組では人間がいなくなったら生きられない動物の話もしていた。

 猫は人がいなくなっても生きていけるらしいが、犬は人がいなくなったら生きていけない。

 ならヒトヒトがいなくなったら生きられるのだろうか。

 とりとめのないことばかり考えていないで、そろそろライフラインについて考えるか。

 まずは当面の食料や飲料水を二人分確保する必要があるだろう。

 二人分か。少しだけ猫っぽい布瀬の横顔を見る。ツンとした猫だ。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 布瀬は僕がいなくても問題なく一人で生きられそうな気もする。

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