デートをする六日目
【六日目】
窓から入り込む朝日の眩しい。
朝だとわかって飛び起きた。
狭いベッドの隣に布瀬がいて安心した。
長いまつげは閉じられ、光を透き通すような白い胸元に乗った黒髪が規則的に上下している。
いつもは僕よりもずっと早く起きる初世はまだ夢の世界にいるようだ。
初世も学校がない日はゆっくり寝るのかもしれない。
それとも昨日の疲れだろうか?
けれども、僕は昨夜を思い出しても甘い気持ちになれなかった。
おかしな夢を見たからだ。
高橋を傷つけたような気がする。
それよりも苦しかったのが、これもよく覚えていないのだけど……まるで初世が最初から存在しなかったかのような夢だったことだ。
胸を締め付けられるような気持ちになる。
初世の体を覆うタオルケットなかに潜り込んで彼女のお腹に頭をおいた。
どんなシルクよりも肌触りがいい。そして暖かい。
もちろん幻ではない。
彼女の手が僕の顔を撫でる。起きたのだろう。
きっと眠たげな声でエッチとか言われるに違いない。
「神様は人を助けることは出来ないの」
「え?」
「神様には人が思っているほど万能の力は無いから」
予想に反して壮大なことを言われる。
眠たげな声ではあったが、確信するかのような力強さがある。
「でも神様は人を愛していると思う」
そういえば僕は初世に私の神様と呼ばれたことがある。
「神様がいるとして、人を消えるのを神様が防げなかったって話?」
人がいなくなった状況についての話をしているのか聞いてみた。
「ううん。人も神様を愛しているって話だよ。親を愛さない子はいないでしょう?」
やはり違うらしい。彼女の言葉に僕は急に反発心を覚えた。
「誰もがそうじゃないよ。親を嫌う子もいる」
初世は僕の顔と頭をお腹の上でやさしく撫ぜた後に
「そうかもしれないけど、浩人はあまえんぼさんだね。ふふふ」
と言って笑った。
少しムッとした僕は彼女の脇をくすぐる。
「ちょっ。やだ。やめて。あはははははは」
二人でじゃれあうと恐ろしい夢の記憶はすぐに遠のいた。
◆◆◆
「海にいかない?」
「海?」
「行ったことある?」
初世が目を輝かす。
今日はデートをする約束になっている。その行き先に海を選んだ理由は漠然と広い世界を初世に見せたいと思ったからだ。
彼女はお嬢様で学校と家の往復しかほとんどしていないことが今までの会話から読み取れた。
「ない! 行きたい」
初世は予想通りの反応をしてくれた。
「けど遠いんじゃないの?」
ここから海岸まで20kmと道路標識に書いてあるのを見たことがある。
「20kmだったかな」
「一日じゃ行って返ってくるのは難しいんじゃないの?」
交通機関は動いていないから歩かなければならない。
「そうかもしれない」
「海には行きたいけど今日は別の場所にしようよ。勉強する時間無くなっちゃうかもしれないし」
「ははは。勉強か」
「そうだよ。海は行きたいけど」
勉強という初世に僕は笑う。
車に乗れるようになったら行っても良いかもしれない。
いくらでも時間がある。
「そうだね。車が運転できるようになったら海に行こう」
「う、うん」
何故か初世が少し曖昧な返事をする。
「ん? 行きたくないの?」
「ううん。行きたいよ。いつか行こうね……」
「あぁ」
海が難しいならどこに行こうか。
実は他にも行きたいところがある。
「なぁ、初世の家に行ってもいいかな? 初世の部屋を見てみたいよ」
初世は駅前の億ションのペントハウスに住んでいると聞いた。
「いいけど……なにもないよ」
「見たいんだ」
何故か無性に普段の初世を知りたくなった。
うまく言葉にできないのだが、彼女の存在が希薄な気がして、不安を感じる。
「どうしてもっていうならいいよ」
「いいの?」
「いいよ」
初世がにっこりと笑う。
不安が消えていく。
初世の部屋はどんな部屋なのだろう。
ふと昨日の夢を思い出す。僕は夢の中で誰かの部屋に行った、ような気がする。
「どうしたの?」
「あ、いや」
「私の部屋で変なことしようとでも考えてたんじゃないの?」
「そんなこと考えてないよ!」
「じゃあ、朝みたいに急にあまえようとしてるとか? ふふふ」
「ぐっ」
笑われてしまった。
彼女は幻想ではない。ちゃんと今ここで笑っていて、住んでいる家もあるのだ。
「でも、私の家に行くのは午後にしない?」
「なんで?」
「私も行きたいところがあるの。海じゃないよ」
「どこに?」
どこかいきたいところがあるのだろうか?
家と学校の往復生活なら憧れの場所があるかもしれない。
「教室……学校の……」




