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キミのいない六日目 その五

 高橋のの家と待ち合わせ場所のハンバーガー屋は近い。

『ポテトはS? M?』

 僕は高橋がポテトが好きなことを知っている。

『それは鈴木くんの私に対する気持ちにお任せするよ』

 メッセージの後にはハートマークが入っていた。

 ハンバーガー屋についた。

 ハンバーガーセットを頼んでから彼女の分も注文した。

「チョコシェイクSとポテトも」

「ポテトのサイズはいかがいたしましょうか?」

「Mでお願いします」

 選択の余地がない……と笑ってしまう。

 彼女とのやり取りを知るはずもない店員さんはなにを可笑しかったんだろうと思ったようで、少しだけ不可解な面持ちをさせてしまった。

 いつもの席は空いているだろうか。空いている。

 端っこの奥まった席。それが僕と高橋がたまに使う席だった。

かなりお腹が減っていたけど、ハンバーガーセットは一緒に食べようかと思って我慢することにした。

 高橋が来るまで英単語を暗記することにした。

「鈴木くん! 鈴木くんったら!」

「あっ高橋」

 気がつくと高橋が目の前にいた。

「無視されてるのかと思ったよ。呼びかけても全然気がついてくれないし」

「悪い。集中してた」

「私より単語帳がいいですか。そーですか」

 彼女が向かいの席に座る。

「ごめんごめん」

「まあいいよ。私こそ少し待たせちゃったでしょ」

 スマホで時間を確認するとハンバーガー屋に来てからかなり時間が経っていた。

 この店と高橋の家はすぐ近くだから、高橋のほうが先に到着していてもおかしくなかったが、彼女は外出に時間をかけただろう装いをしていた。

 ただよく見るとまぶたが少しだけ腫れぼったい気もした。

「ご所望のポテトとシェイクだよ」

 チョコシェイクとポテトを差し出す。

「よろしい。Mみたいだね。Lでもよかったんだけど」

 なるほど。女の子に対する経験値が少しだけ上がった。

「鈴木くんはセットでハンバーガーもあるのか~」

 先ほどの経験を活かすつもりはない。

「僕はお昼も食べてなかったんだよ」

「じゃあ半分もらっちゃうのは可哀想だね。後で私も買ってこよっと」

 高橋がポテトを一つ摘んで、シェイクを飲む。

「やっぱポテトは冷えちゃってるね。シェイクも溶け気味」

 もちろん僕のハンバーガーとセットのポテトも冷えていたが、空きっ腹には美味しかった。

 喉も乾いていたんだろうか。氷が溶けて少し薄くなってしまったコーラも美味しい。

「やっぱり、待たせちゃってたみたい。ごめんね」

 高橋が出したかわからないぐらいにペロッと舌を出す。

 少し前の僕はそんな彼女の仕草が好きだった。

 今だって可愛いとは思うのだけど、少しだけ作られた仕草のように感じてしまう。

「単語の暗記をしていたから待った気はしなかったよ」

「そう。ところでさ」

 高橋は勉強の話題を敢えて避けてくれたのだと思う。

 考えてみれば、家族を除くと、僕が落ちこぼれる様子を一番見せてしまったのが彼女だ。

 昔はよく勉強を教えていたのに全く教えられなくなってしまった。

 彼女は楽しそうに学校や友達の話をする。

 僕はほとんど聞き役だ。

 でも肝心の藤原の話も僕の告白の話も出てこなかった。

 話したくなった時に話してくれればいい。

 ともかく高橋の気が紛れれば、と他人事のように思ってしまう。

「なんだか私ばっかり話してる」

 聞き役に回っていたらそれを指摘されてしまった。

「高橋の話が面白かったからつい聞き入っちゃったよ」

 あっちこっちに飛ぶ高橋の話の内容自体が面白いわけではなかったけど、楽しそうに姿が面白くて聞き入ってしまったのだ。

 いや正確には見入っていた。

 まるでTVを見るように。

「な、なにそれ。なんか鈴木くんに上手くあしらわれている感じ」

 高橋が少し顔を赤くする。

「そんなことないよ」

 あしらったつもりなんてない。

「鈴木くんなにかあった?」

「なにも……ないよ」

 なにもないと答えそうになって間違いだと気づく。

 高橋と藤原のやり取りを見てしまい、その後に藤原から色々と事実を聞いていた。

「なんかちょっと鈴木くん変わった感じ」

「そ、そう? なにか変?」

「ううん。変じゃないよ……ちょっと……」

 高橋が言い淀む。

「……その……格好良くなったかな?」

 ぬるくなったコーラが気道に入ってむせてしまう。

「ごほごほ。ごめん」

「もうっ。褒めたのに」

 高橋はふくれっ面をした。

 作った仕草というのは正確ではないし、いじわるかもしれない。

 誰かさんと違って高橋はサービス精神が豊富なのだ。

「ん? 誰かさん?」

 誰かさんって誰だ?

「どうしたの? 誰かさん?」

「あ、いや。別になんでもないよ」

 なんだか頭に霞がかかっているようだ。

「好きな女の子でもできて、その人のことでも考えていたんじゃないの」

「まさか」

 よく女性のカンは鋭いというけれど、もちろん僕には高橋以外にそのような子はいない。

 カンがはずれることもあるんだろう。

 そもそも僕は高橋に付き合ってほしいと申し込んでいて、返答待ちなのだ。

「鈴木くん、ひょっとして眠くなっちゃったの?」

 スマホで時間を見る。

 時間は午後9時30分だった。

「もうこんな時間か。帰ろうか」

 今、帰れば寝る前に少しだけ勉強できる。

 セルフのトレイを片付けようと立ち上がると、高橋に袖を掴まれた。

「明日も日曜日で休みだし、まだいいじゃん?」

 久しぶりに高橋とゆっくり話せているのだから、確かに、まだいい。

 寝る前の勉強はすっかり習慣になってしまったようだ。

「いいけど」

「なら今から……ちょっと私の家に来ない?」

感想いただけると嬉しいです。

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