キミのいない六日目 その二
どうしてこんなことを考えるのだろうか。どうしてもそう考えてしまう。
教室で勉強することはできないだろうか? と。
休みの日に学校に入ることは出来る。現にサッカー部などは休みの日でもほとんど学校に来ている。
夜ならともかく昼は校舎にいる教師もいる。
校舎は開いているから教室に入ること自体は可能だ。
なんのとまどいもなく教室に向かう。
教室に入れることと教室で勉強していいかどうかは別であることぐらいは僕もわかっていた。
しかし教室で勉強したいという衝動は強く、そんなことは僕を止める力にはならなかった。
「ハァハァ」
僕は2年3組の教室の扉を勢い良く開け、走り込んだ。
もちろん教室には誰もいない。
けれども、何故か誰もいない静かな教室を見なれているような気がした。
自分の席に座って単語カードを見る。
感じていた喪失感が埋まったような気もすれば、喪失感がさらに大きくなったような気もした。
いつの間にか本当に勉強に没頭していたようで、気がつくとお昼を過ぎて午後1時になっていた。二時間以上は集中していたことになる。
「勉強って楽しかったんだな」
なぜか涙が出そうになる。慌てて手の甲で目を拭う。
「笑ってくれたような。え?」
誰が? 自分で言った言葉の意味がわからない。意味はわからなかったが僕はそれが気にならなかった。
空腹感を感じなくもなかったが、僕は再び単語カードに食らいついた。
勉強をすれば、意味の分からない喪失感が埋まっていくような気がしたからだ。
「おい! 鈴木! なにをしている」
急に自分の意識に野太い声が入ってきた。邪魔しないで欲しいと思いながら意識を外に向けると机の目の前に数学教師がいた。
「あ、千葉先生……」
衝動的な欲求に負けてしまったが、やはり休日に教室に入れることと、教室で勉強していいかどうかは別なのだ。
そんなことを皆がやり始めたら収拾がつかなくなるだろうと、少し冷静になれば分かる。
「休みの日は許可なく学校の施設を使ってはならないことになっている。生徒手帳の校則にも書いてあるぞ。知らんのか?」
「すいません。知りませんでした」
常識をもとに注意されるかと思ったが、明確な校則違反にまでなっているとは思わなかった
この調子では勉強をしていたことも信じてくれるか怪しい。
何と言っても僕は劣等生なのだ。
いかがわしいことをしていたとでも思われたかもしれない。
親に連絡はされるだろう。ひょっとしたら停学すらあるかもしれない。僕はそんなことを考えながら萎縮していた。
「勉強しているのか」
「は、はい。すいません。ここのほうが集中できたので」
「そうか。なら、いいぞ。ここでやっても」
ところが数学教師は僕が弁明する前に事情を把握してくれていた。
それどころか意外な提案までしてくれる。
「いいんですか?」
「今日だけにしろよ。俺も作らないといけない書類があるから。一緒にいれば、他の先生や見回りに咎められることもないだろう」
数学の教師は教卓に座って書き物をはじめた。
僕の教室で勉強をしたいという衝動は強かったので、ありがたかった。




