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ナポレオン

◆◆◆


神様、彼女にもう一度会わせてください。

それが全て偽りであったとしても。


◆◆◆


 午後の授業は地学と世界史だった。

 今は世界史を二人で勉強している。

 というか教えて貰っている。

「ナポレオンはフランスにもっとも近いコルシカ島の貧乏貴族の家の生まれだから、貧しい農民達からも人気があったのね」

「なるほどねぇ」

「さらに自由と平等を掲げるフランス革命軍という大義を掲げていたわ。だから当時王政支配に苦しんでいた各国の民衆からも人気があったの」

「さらに戦争も連戦連勝か。僕が当時のフランス市民でも熱狂しちゃいそうだよ」

 朝は布瀬の授業を本気かよと思ったものだが、受け入れ始めている自分がいた。

 いや今でも世界中の人間が消えたこの状況で勉強をしようとする布瀬はちょっとおかしいとは思うけれども。

「そろそろ5限目も終わる時間ね」

 僕はこの誰もいなくなった世界での勉強に充足感を感じ始めていた。

 こんなに真面目にノートを取ったのもいつぶりだろうか。

「世界史って結構面白いんだな……」

「そうよ。世界史だけじゃなく勉強は結構面白いのよ。気がついた?」

 布瀬は相変わらずクールだ。

 長いまつげが切れ長の目を彩っている。

「布瀬の教え方が上手いからかも。どの教科も先生の授業よりずっと面白いよ」

「先生は〝あなた〟の能力を伸ばすための授業じゃないから」

「え? じゃあ先生はなんのために勉強を教えているんだよ?」

「教師というよりも日本の教育は子供の能力を伸ばすためじゃないの」

「え? 違うの?」

「うん。ただ選別するためよ。優等生と劣等生みたいにね」

「能力を伸ばすためではなく、選別」

 腑に落ちる言葉だった。

 自分は育てられているのではなく、ただ単に選別されているのだ。

「有名大にいける生徒を育てるよりも、有名大にいける生徒を選ぶことが仕事ってことか?」

「そうよ。有名大にいけない生徒を選ぶのも仕事ね」

「なるほど……僕のことか」

 布瀬は少しだけ笑う。

「だから自分で勉強が出来るようになる子や教師の言うことを聞く子が優等生に選ばれるの。私みたいにね」

「会長だもんな」

 布瀬の笑いはやや自嘲的に感じた。

 僕も笑うことにした。

「そうね。揶揄やゆされてるって自分でもわかってる」

「ははは。まあそんなことを言う奴もいるけど」

「鈴木くんもそう思っているでしょ?」

「そ、それは」

 布瀬の笑いは自嘲の笑いだったのだ。

「選別も良い方に選別されれば楽しいけどね。鈴木くんと違って」

「仕返し?」

 会長と行った仕返しをされてしまったらしい。

「でも私は勉強が楽しいことを知っている」

「勉強が楽しい……」

「知らなかったことを知れる楽しさだよ。鈴木くんも知ってるでしょ」

「確かにそうかもな。僕も布瀬にちょっと教えて貰っただけだったのに楽しかったよ」

 いなくなった親の顔を思い出す。

「どうしたの?」

「いや……少しだけ親を思い出してさ。勉強しろ勉強しろってうるさい親だったよ。今なら少しは喜ばせてやれそうな気がするのにな」

「そう」

 校舎に入る日差しは豪華なお弁当を食べた頃よりもだいぶ陰っていた。

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