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世界で二人だけの生活

 学校が終わって久しぶりに布瀬とスーパーに寄ることにした。

 米は事件前からのものがあったし、照明やボンベガスもまだあるけど飲料水が不足しはじめた。

 他にも色々〝買いたい〟ものがある。

 僕達は〝家計〟から未だにお金を払っていた。

 火事場泥棒はいけないという意見を布瀬は変えなない。

「お金を払うのはいいけどさ。帰る時ぐらいショッピングカートを使ってもいいだろ?」

 布瀬はショッピングカートに物を入れて家に持ち帰ることも許してくれない。

 ショッピングカートは店内で使うものという理屈だ。

 そりゃそうなんだけどさ。

「ぶ~仕方ない。でも使ったらまた戻しとかないとダメだよ」

 お許しが出たようだ。

 ひょっとして絶対に許してくれないかと思ったらそうでもないらしい。

「お菓子なんかは痛みにくいものが一杯あるねな」

「私、ポテトチップス食べたことないんだ。食べてみたい」

「ホント!?」

「う、うん。変かな」

 布瀬は想像以上にお嬢様なのかもしれない。

「賞味期限は3ヶ月以上も先だね。じゃあ買っていこうか」

「やったー!」

 でもポテトチップスなんて家では食べなくても、友達と遊んだりすればどこかしらで食べる機会があるような気がする。

 友達!

 そういえば僕には竹原や赤井がいる。高橋にも女子グループがある。

「布瀬の友達って……」

 聞こうとして失敗したと思った。

 でも学校の布瀬は友達と一緒にいる姿を見たことがない。

 少なくとも僕の記憶にはなかった。

 僕の鼻先に人差し指が伸びる。

「浩人だよ。えへへ」

 僕は友達なの。少し悲しくなる。

 確かに僕も布瀬を恋人と言ってしまって良いか迷う。

 いやいや、そうじゃないだろ。

 布瀬も気にしている様子はないし、この際、聞いてしまおう。

「あ、いや僕以外の友達だよ」

「いないよ」

 即答だった。

 しかも、なんの躊躇も戸惑いもない。

 友だちがいないことは別に悪いことではない。

 ただ、それを公表するのは、普通、後ろめたいものではないだろうか。

 僕も友達は多い方ではないので、そう思う。

 けれども、布瀬は僕というただ一人の友達の存在が、まるで誇らしいかのようだ。

「堂々としているよな」

「何が?」」

「いや何でもない」

 相変わらず、布瀬は不思議だ。

 色々買い込んで家に戻る。

 結局カートは二台分借りることにした。

 僕と布瀬で一台ずつだ。

「家に荷物置いたら返しに行こうね」

「いやーまた買い物に来るしさ。その時でいいでしょ」

「うーん。仕方ないか。非常事態だしね」

「そうしようよ」

 学校で授業をして、家でも勉強、体育では汗がでるほど走り、スーパーではお金を払う。

 そんな布瀬でも非常事態であるという感覚はあったらしい。

 家に着いたころには夜の帳が下りかけていた。

「御飯作るね」

「うん。ありがとう」

 生鮮品はさすがになくなってきたが、パックの食品などには味噌漬けの肉などもあり、布瀬はバリエーションにも困ってないようだった。

 それにしても布瀬はどうなっているんだろうか。

 彼女はかなりお嬢様のようだが、実は料理以外でも掃除、洗濯も完璧にしてくれる。

 勉強中、解くのに時間がかかる問題に取り掛かっていたり、一人で進められる範囲になるとすっと消えてその間にこなしてしまう。

 僕も手伝いをしようと思うのに勉強をやれと言われてしまい手伝うことができない。

 洗濯機も動かないので僕のパンツも手洗いされてしまった。

 彼女は気にしてないようだが、正直、恥ずかしい。

 けれども、そろそろこういった生活を改めなければならないだろう。

 僕はもう、人がいなくなったことの原因を調査したり、元に戻す方法を探すのはほとんど諦めている。

 その代わり、この誰もいなくなった世界で布瀬と二人で暮らすことを考えはじめている。

 今はまだ布瀬の高い能力と人間社会が通常だったときの名残で人間らしく生きられている。

 けれども、このままでは人間らしい生活を保つのは厳しくなっていくだろう。

 まずは食料だ。生鮮食品はほとんど食べられなくなっている。

 コメなどは古いコメでも問題ないかもしれないし、加工食品や保存食や非常食にはスーパーですら耐用年数が数年のものも売っている。

しかし、それ以降はどうだろうか。

 いずれは農業や畜産や狩猟をおこなわなくてはならない。

 水の確保や、寒さの対策も必要だ。

 そう考えると田舎で綺麗な川が近くにあって、ここより暖かい地方に移動したほうがいいだろう。

 残念ながら人間社会はなくなっていくけど、僕達はその遺産を十分に活用しながら生活基盤を確保していこう。

 不安もあるが大丈夫だ。

 日本でもほとんど自給自足で生きてる人をテレビやネット等で見たことはある。

 文明の遺産だって使いたい放題なのだ。

 布瀬と一緒なら乗り越えることはできると自分に言い聞かせる。

 考えてみると布瀬は勉強やスポーツどころか家事も完璧なのに、ポテトチップスを食べたことがなかったり、家族のアレルギーのためかもしれないけど猫を抱いたこともなかったり、このような状況下でもお金を払おうとしたりと、世間知らずなところもある。

 残念だけど、楽しくなってきた今の勉強量を少しづつ減らす。代わりに新しい生活基盤を築くための準備をはじめていく。

 二人で農業の実践書などを読むところからはじめてもいいかもしれない。

 布瀬には今の生活が難しくなっていくことを少しづつ理解してもらおう。

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