キミのいない五日目 前半
【五日目?】
携帯のアラームで目を覚ます。
「朝か。7時30分?」
寝坊したと慌てて飛び起きる。ん? 寝ぼけているのだろうか。
ここ最近はは教科書も昨日のうちに揃えるようにしているから、寝坊どころか学校には十分に間に合う時間だった。
しかし、なにか大事なことを忘れているような気がしてならない。
僕はもう一度、鞄に詰め込んだ教科書と今日の授業があっているか確認した。
「あっているな」
それでもなにかを忘れているよう気がしてならなかった。
ふと、何気なくベッドを見る。
どうしてベッドを見てしまうのだろうか? もどかしいような、切ないような気持ちになる。
「学校行くか」
そんな正体不明の気分に浸っていても仕方ない。リビングに降りると父は無言で新聞を読んでいて母と妹が楽しそうに話していた。
「後、一回勝てば、県大会だよ」
「ホント? 凄いじゃない」
妹は硬式テニス部でもかなりの成績を出している。
「でも勉強も頑張りなさいよ。一旦落ちこぼれたら大変よ」
「大丈夫。学年で10番には入っているから」
二階から下りてくる僕に気がついて、母がため息を吐いた。
僕はそのまま洗面所に行く。顔を洗い歯を磨いて、テーブルに付く。なにも言わずに、用意されていたハムエッグを食べた。
「いってくるよ」
「いってらっしゃーい」
父が会社に行った。
「いってきまーす!」
「はーい。いってらっしゃい。気をつけてね」
妹も学校に行く。
「いってきます」
「えぇ」
僕も家を出て学校に向かった。
学校に近ずくにつれて学校に向かう学生が増える。
なにか違和感を感じた。
「よ。鈴木」
「あ、おはよ」
下駄箱で竹原に会う。
「はぁ~今日の一時限目の数Ⅱの小テスト勉強してきたか?」
「ん……あぁ。大丈夫だと思う」
「マジかよ。俺もお前も赤点ギリギリ組だったっていうのに」
その通り。
竹原も赤井も僕も数学は赤点ギリギリだった。
しかし、僕は最近はなんだか少し授業が楽しかった。
「数学は結構面白いよ」
「なんだって? どっか体悪いんじゃないか?」
学校に着く。
僕の席に周りに竹原も赤井も集まった。
「やべーよ」
「全然、勉強してねーよ」
ここに高橋が加わって先生が来るまで四人で会話するのが少し前までの僕らだった。
あの日からは高橋は入っていない。
高橋をかわいくないという赤井も、実際には彼女が来ると楽しそうだった。
登校した高橋が僕に軽く挨拶する。
「おはよー鈴木くん」
「あ、おはよ」
高橋はこれだけ会話を躱すと席から離れた女子のグループに入っていった。
赤井はあからさまにがっかりした顔をした。
「お前ら最近なにかあったのか?」
竹原の問いかけに正直に答えた。
「ちょっと今気まずくてさ」
「そうか。ふーん」
何かを察してくれたのか竹原はそれ以上は聞かなかった。
気まずくなったのはもちろん二週間ほど前に告白してからだ。
僕はまだ返答を貰っていない。
どうして保留されたのだろうとか、受け入れてくれるのだろうかとか、逆に受け入れてくれないのではないだろうかとか、ずっと気になっていた。
しかし、ここ数日は、何故かその気持も急に落ち着いてしまった。人間は長いこと緊張したり、高揚したりできないのかもしれない。
代わりになにかよくわからない謎の喪失感をふと感じる時がある。
1限目の数Ⅱの小テストが終わる。
テスト用紙を集めている際に隣の席に座る高橋が聞いてきた。
「どうだったテスト?」
「うん。結構良いかも」
「え? ホント?」
「うん」
ここ三日ほど僕は家に帰れば予習復習をして授業のわからないところにも対応できるようになりつつある。
なぜか勉強することが楽しいのだ。
勉強そのものが楽しいということもあるけれど、なんだか暖かい気持ちになる。
勉強する習慣が身についたんだろうか。
どうしてそんな習慣が身についたのか、自分でもよくわからない。
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