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お弁当

 高橋を引き合いに出したのは照れ隠しだったのだけど、どんな理由があっても人と人を比較するなど許されることではなかった。

 それは母親に妹と比較される自分自身が知っていることだったはずなのに。

 教室で一人、布瀬が戻るのを待つ。

 布瀬はどんなことがあっても授業はすると思う。

 そうあって欲しい。

 布瀬は1時限目の地学には戻ってこなかった。2時限目も3時限目も、そして午前中最後の時間である4時限目も。

 探しに行こうかと何度も思う。

 けれども僕は探しには行かなかった。

 なぜかこの日の授業通りに一人で勉強をした。

 一人で勉強をして布瀬を待った。

 行き違いになってもいけないという理由も確かに少しあった。

 だからといって勉強をしてなにになるのだろうか。

 布瀬は言っていた。

 毎日、勉強することが重要だと。

 一度サボると再開するのに凄い労力が必要だということはわかる。

 再開するのは大きなキッカケも必要になる。

 僕の場合なんて世界から人がいなくなって、そこで変わった少女が勉強を促してくれるというとんでもないキッカケが必要になってしまった。

 それにしたってだ。今は彼女を探すべきではないだろうか。

 だが、布瀬のためには、何故か今は探すよりも勉強をするほうが正しいように思えるのだ。

 お昼休みの時間になる。

 布瀬が作ったお弁当は高橋の席にあった。

 中身を見たわけではない。

 それでも一生懸命に作ったことがわかる大きなお弁当。

 でも布瀬はいない。

 お腹が減ったような気もするが、喪失感のほうが大きい。

 それ以前に布瀬も食べていないのに僕が食べるわけにはいかない。

 休み時間も終わって5時限目も6時限目も勉強する。

 布瀬は戻って来なかった。

 学校を少し探したがいなかった。

 僕は家に帰ることにした。教科書を持ち帰る。

 家に帰ればひょっとして布瀬がいるかもしれないと思ったが、いないようだった。

 街に出て行くあてもなくさまよった。

 布瀬の家がどこかはしらないのだ。

「布瀬ーっ!」

 誰もいない街に自分の叫びがわずかにこだまする。

 無心に探したが、すぐ日が陰ってきてしまう。

 下校時刻からでは外が明るい時間はほとんどない。

 すぐ暗くなるのは当然だった。

 家に帰る。

 なにもする気が起こらない。

 でもなにも食べないでいたら身体に悪いだろう。

 もし倒れたら朝になって街が明るくなっても布瀬を探しに行けない。

 カップ麺を食べようとお湯をわかす。

 お湯を注いでできるまでの間に教科書を整理した。

 三分経ったので一口食べる。

 お腹が減っているはずだったのに、布瀬の料理と比べると味が濃く感じられて美味しくない。

 化学調味料の味がきつすぎるのか。それとも一人で食べる食事は美味しくないのか。

 半分ほど残してしまう。

 やることはなくなった。テレビもつくわけではない。

 電池式の暗い照明でぼーとするだけだ。

 僕はのろのろと数学の教科書を手に取った。

「明日の一時間目は数Ⅱか。もし世界が元通りだったら、確か小テストをするとか言っていたな」

 昨日はここで布瀬に授業の復習をしてもらった。

「小テストがあるなら予習が必要かもしれないな」

 テストに出そうな範囲の問題を解こうとするがわからなかった。

「布瀬……お前がいなきゃ……こんなのわからないよ」

 一滴二滴とノートに雫が落ちて書きかけた文字が滲む。

「そこは多項式の割り算を使うんだよ」

「え?」

 振り向と布瀬が僕のノートを覗き込んでいた。

「布瀬!」

「……うん」

 何処にいたんだよと聞きそうになる。

 だが何処にいたのか聞き出す前に僕には先に伝えないといけないことがあった。

「さっきはごめ」

「いいの」

 謝ろうとしたが布瀬に止められる。

「でも僕は布瀬と高橋を比較して……え?」

 布瀬が後ろから僕の首に手を回して抱きついてきた。

「いいの。私の方こそごめんね……」

 布瀬の優しい声音と息遣いが背中越しに伝わってきた。

 僕の首に回した腕に手を添えた。

 ビクッとした感触が伝わる。

 優しく言った。

「不公平だな」

「……ん……なにが?」

「布瀬は最後まで謝ることができて、僕に全身で抱きつけている。こっちは途中で遮られるし、腕しか触れられない」

 布瀬が笑いながら言った。

「ふふふ。いいのよ」

 彼女は急に僕から離れてピョコンと飛び上がる。

「カップラーメン半分じゃお腹減ってるでしょ。御飯作っちゃうね」

「見てたのかよ」

「うん。学校で一生懸命勉強してたのも見てたよ」

「ストーカーか」

「知らなかったの? 私、浩人のストーカーだよ」

 知らなかったし、どうして僕なんかをと聞こうとしたけど不快ではない。

 だから僕はこう言ったのだ。


「ありがとう」


「うん!」

 布瀬は歌を歌いながら料理をはじめた。

「ご飯食べ終わったら数学の続きだからね」

「あぁ。でも、お弁当でいいよ」

「そっか。浩人に作ってあげたかったけどもったいないもんね」

「そうだよ。こんなに豪勢なんだから」

 僕は教室から持って帰ってきたお弁当箱をテーブルの上に出した。

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