曇り空の四日目
2018年2月10日 大幅改稿しました。よろしくお願いします。
【四日目】
「鈴木くん。朝だよ」
「ん? あ、布瀬」
「おはよう」
布瀬の声で目がさめるのは、もう当たり前になっていた。
「今、何時?」
「5時半」
本来なら早すぎないかと言いたくなるところだけど、今朝はありがたかった。
「出かける準備しよう」
「今日は調査するんだ?」
「うん。街に出よう」
僕と布瀬は学校に行く準備をして街に出た。
「鈴木くん、どこを調べるの?」
「ともかく僕と布瀬に関係した場所に手がかりがあるかもしれない。他の場所を探すよりかは遥かに可能性が高いと思う」
世界中の人が消えてしまったのに仮にも知り合いだった僕達二人が偶然の残っているのは確率的に非常に低い。だからなんらかの意味があるのではないかという仮説を僕は立てた。
「そうね。なら学校かしら?」
「学校もそうだけど、ちょっと他の場所で調べたいところがあるんだ」
「どこを?」
「うちのクラスの高橋の家だよ」
そこで話が途切れた。
僕達が話さないと、誰もいない街はしんと静まり返っている。
沈黙を破ったのは布瀬だった。
「高橋さんの家……ね。高橋さんは学校よりも私達と関係が深いの?」
布瀬は無表情だった。
彼女の無表情は有り体に言って怖い。
「高橋の家は僕達にとっては学校よりは関係が浅いけど、学校はもう一応は見ているだろ」
「高橋さんがひょっとしたらいないかも調べたい?」
布瀬は少し笑う。その笑みが寂しそうに感じるのは、僕の気のせいだろうか。
「図星だよ。心配なんだ。やっぱりいたら嬉しいしね」
「……」
「それに布瀬はそうでもないと思うけど、僕にとって高橋は関係が深いクラスメートだと思う」
「わかった。高橋さんの家に行ってみようか」
布瀬が元気のない声を出した。
けれども僕は気が重くもある。
あまり考えないようにしていたが、この事件を起こした〝誰か〟がいた場合、最有力の〝容疑者〟は僕か布瀬だ。
僕はもちろん僕が犯人でないことは知っている。
布瀬は恩人で感謝もしている。もし誰もいない世界で、布瀬がいなかったら物質的にも精神的にも、僕はどうなっていたかわからない。
無意識に彼女の表情を見てしまう。いつもの美しい無表情。
多分、犯人どころかなんの関係もないと思う。
普通に考えれば、この現象は一介の高校生に出来ることじゃない。高校生どころかアメリカ大統領でも出来ないだろう。神様だって怪しいところだ。
だが実際に多くの人が消えた状況は起きてしまっているのだ。
誰かの意志によって世界から人がいなくなったのなら、手段や方法があったということだ。
残念ながら手段や方法、つまり〝どうやって〟については全くわからない。
しかし、〝誰が〟〝なんのために〟という動機については、世界に僕と布瀬しかいないのであれば僕達二人の近辺にある可能性は高い。
高橋も僕にとって非常に個人的な存在だ。ひょっとして本当になにかの手がかりはあるかもしれない
昨日のようにやはり誰もいない街を二人で歩く。
天気は晴れているが、僕はなんとなく気が重い。
高橋の家に向かいだしてから布瀬の様子がまだ世界が普通だった時のように冷たいように感じてしまう。
冷たいといっても表情や態度のことで別になにか言ってくるというわけではない。
でも布瀬は真面目過ぎてクラスメートから影で会長と言われていた。この冷たい感じが会長といわれる理由かもしれない。
「布瀬、車が来るわけでもないんだし、車道の真ん中歩かないか? 広いし気持ちがいいかもしれないから」
「えぇ」
努めて明るく話しかけても、布瀬はずっとこの調子だった。
ひょっとして布瀬のほうでも僕が容疑者にでもなったんだろうか。
もちろん僕はこんなことはやっていないと言いたいところだが、よく考えたら超自然現象が理由ならわからない。
自分でも意識せずにこの状況を引き起こしてしまっているかもしれないのだ。
僕のほうも彼女の可能性を全て排除することは出来ないので仕方ない。
そうだ。意識してこの状況を作り出していることに関してはどうだろうか。
僕はもちろんこんな状況を作ろうとなど考えたこともなかったけど、布瀬はないと言い切れるのか。
もちろん、その可能性は極めて低いと思うが、仮に布瀬がやったとしたらどのような動機が考えられるだろうか。
学校での布瀬は今のように仏頂面で誰とも関わらないタイプだったと思う。
ひょっとして僕と同じように世界中の人間が煩わしいと感じることがあったのだろうか?
しかし、それならほとんど話した記憶もない僕をなぜ残したのだろう。
まさか……僕のことが好きだったとでも言うのだろうか。僕もこの誰もいない世界で高橋だけが残ってくれていればと妄想した。サッカー部のアイツも……いなくなっているだろうし。
確かに布瀬から好意らしきものを感じないでもない。でも、もし、万が一、布瀬が僕に強い行為を持っていてくれていたとしてもそんなことをするだろうか。
まだ話すようになって数日の関係だが、僕と二人きりになるために世界中の人を消してしまうようなことをする女の子だとは思えない。
ちょっと変わっているけれど、思いやりのある優しい子だ。
いや、ちょっとで済むかな。かなり変わっているかもしれない。
でも変わっていることは悪いことではない。
自分の思いのために人を傷つけるような奴じゃないと信じている。
それに僕への好意だって、ただの勘違いの可能性も高い。
僕は女の子と付き合ったことなどないのだ。付き合おうとはしているけれど。
女の子の気持ちなんてわからない。
「いい天気だね」
「向こうの方はちょっと黒い雲が広がっているよ……」
無言の行進がいたたまれなくなって話しかけたけれど、布瀬は相変わらずだった。
やっぱり高橋の家に行くことに不満なのだろうか。
だったら先ほど考えていた僕への好意も、ひょっとして当たっているのだろうか……。
「鈴木くんは高橋さんの家の場所を知っているのね」
「一度だけ家にあがらせてもらったんだよね」
布瀬の表情が変わった。布瀬のことを知らなければ、無表情から無表情に変わっただけにしか見えないだろうけど、さらに険しくなったように感じられる。
「鈴木くんって地味なのに意外とモテるんだね」
「えぇ? 女の子と付き合ったこともないのに」
「へ~そうなんだ」
言い方はとても布瀬のらしくもあり、違うような気もする。
言葉に棘がある。地味と言われてしまった。明らかに棒読みの相づちもされる。
誤解ではあるのだけれど、真面目な布瀬は軽い男は嫌いなのかもしれない。
好かれているのは妄想だったようだ。
高橋の家が見える。
布瀬の歪んだ愛情によって誰もいなくなった世界が作られた。
僕はそんなくだらない上にあり得ない妄想を終わらせた。
本日、また投稿します。
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