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女の子にはあまり聞かないほうがいい

システム変更がおこなわれたのでちょっと挑戦してみます!

急いで登校したので疲れていることもあって、とりあえず僕は布瀬に促されるままに自分の席に着いた。

本来ならば高橋が座るべき隣の席に布瀬が当然のように座るのは少しだけムッとした。

「授業だって?」

「ええ」

 布瀬の言っていることはやはりおかしい。

しかし、高橋の席に座る布瀬を移動させたいと思う僕もおかしかもしれない。

「授業っていっても布瀬の席はそこじゃないだろ? 教卓の直ぐ目の前じゃないか」

布瀬の席は教師の都合で最前列の真ん中にあった。

「今日は自習しかないみたい」

「見ればわかるよ。多分、明日も明後日も自習だろ?」

「私もそう思うわ。だから私が鈴木くんに勉強を教えてあげる」

「なんだって?」

明日も明後日も自習というのはもちろん皮肉だった。

布瀬は……本気なのか?

布瀬のなかでは誰もがいなくなった世界でも学校は成り立つのだろうか?

布瀬は一時限目のリーディングの教科書をかばんから取り出した。

「そんなことより、誰もいないことについて話し合うべきじゃないのか? 二人で協力して原因を探すとか」

「……す、鈴木くんと私が協力して?」

鉄面皮の布瀬が少し動揺したような気がした。

僕の口調がちょっと刺々しい口調になっていたのかもしれない。

今はどんな変わった奴とだって協力していかなければならないのに。

それに冷静に考えれば、誰もいなくなった世界で美少女と二人きりになるというのは僕ぐらい年齢の男子にしたら嬉しいものかもしれない。

特に僕のように世界を煩わしいと思っている人間にとっては。

布瀬は冷たげだけど美人だし、僕も高橋のことがなければ、ちょっとした期待に胸を膨らませたかもしれない。

僕の強い口調が悪かったかなという気持ちもあるけれど、布瀬の動揺した様子は普通の女の子っぽくて、少し可愛くもあった。

「ふ、布瀬以外に誰がいるんだよ? 一緒に協力してくれよ」

「分かった。次の休み時間でいい?」

 怖がらせないようになるべく優しく話しかけたが、冷静に、そしてピシャリと、休み時間にと言われてしまった。

 どう考えても人がいなくなったことを探すことが優先だろう。

 さっき思ったことは撤回する。

「ああ……」

もう、授業をすることの意味について議論をするのがしんどかった。

「鈴木くんも教科書を出して。もう大分、時間押しているから」

「はいはい」

教室の僕の机の中から教科書を取り出した。

「教科書を持って帰ってないの?」

「授業が多い教科書は。英語とか現国とかね。全部は机に入りきらないけど」

 僕は置き勉派だ。いつの頃からだろうか。少なくとも二年になってからは学校が夜間になっても僕の机はお腹を減らしたことはない。

「だめよ。今日からは持って帰りなさい。家で勉強できないでしょ」

布瀬の言うことは正しい、昨日までだったら。今日からは必要ないだろう。

「えーと授業はちょうど新しい話がはじまるところね。まずは私が読むから、終えたら鈴木くんが読んでね」

「それじゃあ自習じゃなくて授業じゃないか」

「いいから。It was in the old days of England, when instead of one King, there were many, who divided the country between them, and constantly made war upon each other, to increase their possessions.」

「冗談かもと思ったけど本気なんだね……」


――こうして僕らはどこまでも静かな教室で二人だけの授業をはじめたのだ。


◆◆◆


布瀬が腕時計で時間を確認する。

「リーディングの授業は終わりね。鈴木くんが遅刻したからかなり短くなってしまったけど」

もう突っ込む気力もない。


「ちょっと覚えていない単語が多すぎるよ」

「待って待って。今の状況について話そうよ。誰もいないことについて!」

何度そう提案して何度、まだ授業中だと言われたことか。休み時間になったのだから文句は言わせない。

「そうね。次の休み時間になったら状況について話すって約束したもんね」

約束とは大げさな。いや大げさじゃない。

この異常な状況について話すことは重大な約束だ。

布瀬以外の人であったなら、いつでもできそうな気はするけれども。

ともかく聞こう。

「布瀬はいつ気がついた?」

「なにが?」

この状況でなにがもないだろう。

「なにがって。人がいなくなったことだよ!」

「朝、起きたら」

「僕と同じか。いや、そんなことより何時?」

「えっと5時半ぐらいね。起きたらいなくなっていたわ」

こいつは毎朝5時半に起きているのか?

まあそんなことはどうでもいい。

「原因はわかる?」

「わからない。鈴木くんは?」

「まあ、そうだよね。僕もわからないよ」

予想通りの答えだった。

すぐに沈黙ははじまった。気まずい。

10分という短い休みでもまだ半分以上余っていた。

あれほど英語やその翻訳ではなく、日本語で会話したかったというのに。

こんな時、高橋ならアニメの話でもできるんだけど。

ふと、あることに気がつく。

「布瀬はどうして学校に来たんだ?」

会長の今までを考えると学生だからという回答が帰ってくるかもしれないとも思う。

けれど、僕のようになにか特別な理由があったのかもしれない。

「……答えたくない」

「え?」

答えたくないだって?

会長の人物像からいささか離れた返答が帰ってきた。

どういうことだろうか。

しかし、よく考えれ僕がおなじ質問をされてもやはり答えたくない。

まさか布瀬も会いたい人に会えるかもしれないと思って学校に来たのだろうか?

いやいや、会長だぞ。

まだ誰もいなくなった原因に布瀬の登校が関わっている方があり得そうな気がする。

そんなことを考えていると布瀬が急に立ち上がった。

スタスタと教室を出口のほうへ歩きはじめる。

「お、おい! 何処行くんだよ?」

「……答えたくない。つい見落としていたわ」

「見落としていた?」

「っ。ともかく行くわ」

呼び止めても布瀬は下を向いて、そのまま教室を出ていこうとする。

とたんに誰もいない世界で一人だけ取り残される恐怖を感じる。

「ええ? ちょっと待てよ」

僕は慌てて席を立ち全力で布瀬を追った。

布瀬の方は顔をあげて目を白黒させている。

「どこか行くなら一緒に行こうぜ?」

「な、なんで?」

今まで冷静だった布瀬が焦っている。

まさか……ひょっとしたら謎の核心に向かうのかもしれない。

そんなこともわずかに思ったが、気持ちの大部分はとにかく一人になるのが心細かった。

布瀬の手をしっかりと取る。

「ちょ、ちょっと……」

「危険かもしれないだろ!? それにやっと人に会えたのに!」

「だ、大丈夫よ。一人で行かせて」

この言い振りは? まさか本当に謎の核心に向かうのか?

「どこに行くんだよ!? どうして僕を置いて行く!?」

「トイレ……行かせて……そろそろ……」

え?

「一人で大丈夫だから……」

「あ……次の授業待っているよ」

「う、うん」

よく見れば、布瀬はさきほどから少し顔を赤めていた。

それにしても見落としていたとか紛らわしい言い振りだ。

真面目さで会長と言われるだけのことはある。

英文は自由に使える青空文庫からアーサー王物語


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