二人の確率
布瀬が作ってくれた朝ご飯食べて、鞄に教科書を詰め込んで家を出た。
時刻は5時45分、学校が始まるまでたっぷりと調査の時間があった。
話すことのできる人がいなくなった静かな街のなかで、ただ一人話しかけることのできる布瀬と相談する。
「さてと、どうするかだよな」
「うん」
「こんな世界規模のことを闇雲に調べてもな」
「そうね」
「何か方針が欲しいと思うんだ」
「方針ね。でも世界中の人が消えてしまうことの方針と言われても思いつかないな」
布瀬はなにも思いつかないという。
そりゃそうだ。世界中の人間が突如消えてしまった巨大なミステリなのだ。
意識しないようにしているが、〝死体〟すらも存在していない。
しかし、僕には漠然と気にかかることがあった。
「実は最初から気になることがあったんだ」
「え? 気になること?」
「ああ」
「一体、どんな?」
僕は彼女の表情を見る。
一般的な反応だと思う。
真面目な、そして整った、僕のなかのいつもの布瀬の表情だった。なにか知っているということもなさそうに思えた。
「それを説明する前に、どうして僕達は誰もいなくなった状況を世界規模だと思った? テレビもつかないから遠くのことだってわからないだろ?」
「う、うーん。ヘリも飛行機も来ないから」
「うん。そうだよな。日本から全く反応が無くなったら、きっと外国だって調べに来るだろう」
「それも全く無いよね」
飛行機もヘリも飛んでいない。こんな静かな世界だったらすぐに気がつくはずだ。
「だから僕達は世界の人口は70億だったけか? 世界中の70億の人がいなくなったと思った。世界中の人が消えたことを正しいとする。そうすると僕達は70億分の2だ」
「あ、もしかして……」
布瀬も気がついたようだ。
「70億から僕が完全ランダムに先に選ばれているなら2/70億だ。布瀬は1/70億」
正確には布瀬の分母の数は70億引くことの僕の1だけど、まあそれは誤差の範囲だろう。
「だから私達の組み合わせになる確率の分子は2で、分母は70億かける70億」
「そうなんだ。これがもし偶然だったら僕達二人がこの状況に選ばれて、今あーだこーだと相談している確率は単位すらわからないほどの天文学的数値の奇跡だよ」
布瀬は黙って考えているようだ。
僕の方から続けた。
「つまり世界中の人がいなくなったという仮定が正しいとして、僕達二人が残ったことはなんらかの理由や意味があると考えたほうが自然かもしれない」
「そ、そうだよね。私達、二人である理由や意味か……」
「地球が存在していることもきっと天文学的数値の確立の低さだろうから、僕達にも偶然の何かが起きたのかもしれないけど、他になんの手がかりもない。理由や意味があるって考えたほうがいいと思う」
布瀬は驚いた表情をしている。
この状況に即した反応だろう。
でも布瀬は気がついただろうか。
確率からすれば、僕達二人が残っているのは〝誰か〟にとっての意味であり、〝誰か〟にとっての理由かもしれないということに。
つまり、誰かの意図〟かもしれないのだ。
ただ、それを深く考えるのは、とりあえずよそう。
「ともかく僕と布瀬に関係した場所に手がかりがあるかもしれない。他の場所を探すよりかは遥かに可能性が高いと思う」
「そうね……なら学校かしら?」
「うん。まずは学校から調べよう」
そんな会話をしながら二人でどこまでも静かな街を歩いて学校に行く。
「着いたね」
「着いたな」
「どこから探す?」
「どこでも」
「なにを探すの?」
「わからない。とにかく布瀬と僕に関わることだよ」
「曖昧だなあ。でも私達の共通点を探していくっていうのは悪くないわね」
布瀬が長い髪を垂らして僕の顔を覗き込む。
「ん? 悪くない? 人がいなくなった原因のヒントでも見つかりそうって意味?」
「違うよ」
どういう意味だろうか。布瀬はなにか思いついたことでもあるんだろうか。
「手がかりがあったならどんな小さなことでも共有しよう」
「違う! もういい」
布瀬はなぜか僕を置いて校舎に向かっていく。僕は意味もわからず後を追う。
ここから二人の関係+段々と謎も関わってきます。
感想等ございましたらよろしくお願いします。




