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死刑執行人リサ

作者: 花木64

バウンティハンター第3話 黒革の手帳と少しクロスオーバー短編小説です

第3話で死刑執行人リサが登場。

 ・・・そろそろ時間か。

 女は壁の時計を見上げた。彼女はロッカーから刑務官服を着用する。

 ステージでは観客達が首を長くして待っている。作曲もやるし作詞もする。いわゆるアイドルだが普通

にアイドルはやっていない。

 女は手馴れた手つきで長剣や銃が納められたベルトを着用する。

 私は死刑執行人のリサ。もちろん賞金稼ぎのハンターのようにハンターもするが本職は死刑執行人。

ハンター協会から許可証もあるし殺人許可証も所持している。ただ死刑を執行するだけならそこらにいる

死刑執行人と同じになるから好きだったアイドルやりながら死刑執行をパフォーマンスショーとして自分の

ファン達に見せている。ファンは自分の子供のように大事だ。

 リサは控え室から出ていくつかの部屋を抜け長い廊下を進む。彼女は資料が入ったタブレット端末

を操作する。

 今度の死刑囚はあだ名は「チビ」身長は一四〇センチのおじさんである。ただのおじさんではなく闇で

武器商人に仲介するブローカーである。武器商人の中には複数の国から逮捕状が出ている者もザラ

にいるし、警察やハンター達は協力者や小物から逮捕して最後の”「虎」を退治するのだ。この死刑囚

もそういった小物の一人だ。

 リサは収容檻のある石部屋に入った。

 マネージャーにタブレット端末を渡す。

 「こんにちは」

 リサはのぞきこんだ。

 死刑囚が力なく振り向いた。

 「眠ってたのかしら」

くっきりと口角の上がったバラ色の唇。

肩口から溢れる陽光のような金髪。

武骨な刑務官服に包まれた豊満な身体。

底冷えするほど寒いのに饐えた空気が充満するこの場に、その存在はいかにも場違いだ。

死刑囚は顔を上げた。

また夢を見ているのだろうか。ああ、甘い香りがする。

「さあ、いい子ね」

扉の鍵が外され、リサが手を伸ばした。

慈母の微笑み。

しかし死刑囚「チビ」はその手を掴まない。反抗しているのではない。掴むことができないのだ。死刑執行が

決まり何も食事が食べられなくなりガリガリにやせて力がでなかった。

「ああ、忘れてたわ」

リサはそう言うと格子を潜って房に入り、ベッドに仰向けになったままの「チビ」の横にやって来た。

格子窓から差し込む西日を受け、金髪がキラキラと輝いている。

リサは「チビ」の背中と膝裏に腕を差し入れ、ひょいと持ち上げてみせた。

監房を出た女はわたしを横抱きに抱えたまま、レフランプの照らす

無機質な廊下を歩き出した。この廊下の向こうはステージである。

「チビ」にも観客の歓声が聞こえる。自分はこれから公開処刑される事に気づいてた。気づいてももうどう

にもならないが。

衰弱した「チビ」の脚は、彼女の二の腕ほどの太さしかない。リサの張りのある胸に身体を預けると、

やはり甘い香りがした。

ようやく全てが終わるのだ。ゆるゆると生きたまま腐っていくような日々が。

長い廊下を抜けると扉の向こうはステージだった。

驚きの顔の「チビ」

ステージ前や二階席にまで観客がいる。

「怖がらなくていいのよ」

リサは耳元でささやきソファに「チビ」を座らせた。

リサはいきなり振り向きざまにナイフを投げた。

キーン!

というかん高い音をたててナイフは誰かの短剣になぎ払われ天井に刺さる。

ステージの暗幕から出てくる三人の男女。

「誰あんた?」

リサは振り向いた。

「私は東京支部ハンター協会の氷見十六夜。隣りはリックとジェル」

氷見達はステージに出てくる。

観客達もシーンとなる。

「私のステージを邪魔する気?」

リサが目を吊り上げた。

「勘違いしないでくれる。私達はそいつに用があるの」

氷見は死刑囚「チビ」を指さす。

「こっちはあんたの趣味に付き合うほど時間があるわけじゃない」

ジェルが言う。

「用が済んだら俺達は帰る」

リックが口をはさむ。

リサと氷見達は遠巻きににじり寄る。

四人が同時に動いた。

リックの速射パンチをすべて受け流すリサ。

ジェルの蹴りと氷見のパンチをかわして姿が消えた。

「・・・消えた」

絶句するリック。

氷見の後ろ回し蹴り。

リサは姿を現すなりソファの隣りに姿を現した。

「こいつテレポーターだ」

ジェルが身構えた。

「おもしろい展開ね」

氷見が長剣を抜いた。

このリサという女がトップクラスの死刑執行人なのは知っている。ここに来る前に死刑執行人ギルドで名簿

を見たから。本当のトップクラスは死刑執行人「パニッシャー」で彼は一人で犯罪組織やゲリラ組織を壊滅

させる。リサがなんで一匹狼的な活動が出来る理由は彼女がテレポーターだからだ。テレポートが得意な

能力者だからそういう芸当ができる。

そのうえ、この女はアイドルときている。ならこっちもプロのハンターの意地がある。少し付き合ってやって

もいい。

 リサは長剣を抜いて動いた。

 氷見とリサの剣が何度も交差する。

 「あんまり時間がないんだけど」

 氷見はにらんだ。

 「迷惑料払ってもらうからね」

 リサは言い返す。

 リックが動いた。

 リサは氷見の剣を弾き、何度もテレポートしながらリックの剣を受け払う。

 観客も死刑囚「チビ」も二人の動きは見えなかった。

 ジェルはまんじゅうをこねる動作をすると掌底を向けた。黄金色の光球が放たれる。

 リサは連続でリックの剣をかわして光球をテレポートでかわした。

 氷見は剣をなぎ払う。

 リサも受け払い、ジャンプ。

 氷見もジャンプして天井から下がる照明に着地。二人の剣が再び交差する。

 「あんたも物好きね。あんなロボットとサイボーグをメンバーに入れるって」

 リサは口を開いた。

 「成り行きでそうなった」

 氷見は答えた。

 「死刑執行人の間じゃあ有名よ。あの「チビデブ」と銀髪女を仲間の死刑執行人に引き渡したって」

 リサがふと思い出す。

 「依頼を持ってきたのは国連本部よ。それをオスカー会長が持ってきただけ。任務をこなしただけ」

 「わざわざ人のステージを壊してここに来た理由は?」

 「そこの「チビ」はモーロックやライデッカーの仲介人やブローカーをしていた。かなり近い場所にいた

重要参考人よ」

 氷見は答えた。

 「あんた本気でモーロックのアジトへ行くつもり?」

 リサが聞いた。

 「誰かがやらなければいけないでしょ。あいつは複数の国から賞金をかけられている。死刑執行人ギル

ドにも手配書があったけど」

 氷見が声を低めた。

 「知っている。死刑執行人も数百人ほど行ったけど誰一人帰ってこなかった。これはウワサだけど闇の

死刑執行人がいる。そう意味ではアフリカは死の大陸よ。あの大戦ですべてが変わったからね」

 リサは剣を弾くとステージに降りた。

 氷見も降りてくる。

 「好きなだけそいつに聞いていいけど」

 リサは促した。

 リックとジェルが近づく。

 「ねえ、あんた。こいつを知っている?」

 氷見はモーロックとライデッカーの写真を見せた。

 「私は武器の仲介をしただけだ。それ以外は知らなくてもいい情報だからね」

 「チビ」は視線をそらした。

 「砂漠の壁から向こうは行った事は?」

 氷見が聞いた。

 「何度もある。合言葉が必要で「チビデブ」のアジトを経由して入ってモーロックの手下に渡した。だが

「チビデブ」は死刑執行人に引き渡された。たぶん変更されている」

 おぼろげながら思い出す「チビ」

 「他に経由できる所は?」

 氷見が聞いた。

 「ガイドを探せ。そいつはエジプトの闇市場に出没する。黒マントを羽織っている」

 「チビ」は真剣な顔になる。

 「わかった」

 うなづく氷見。

 「本当に行くつもりか?」

 「チビ」が聞いた。

 「なんで?」

 氷見が聞き返す。

 「文字通りアフリカは暗黒の死の大陸だ。地獄だぞ」

 忠告する「チビ」

 「だからロボットとサイボーグを連れて乗り込むの」

 氷見は答えるとステージを降りていく。

 リックとジェルもついていく。

 リサもステージを降りた。

 「あんた」

 氷見達が振り向く。

 「これがあいつが持っていた「黒革の手帳」と顧客リスト」

 リサは投げた。

 リックはそれを受け取る。

 「それと死刑執行人ギルドのデータアクセスキー。使ったらギルドの局長に渡してね」

 リサは鍵を投げた。

 氷見はその鍵をつかむ。

 「あいつのデータにアクセスしたければ好きなだけしていい。聞かれたらリサに好きに使っていいと

言われたって言えばいい」

 リサは腰に手を当てる。

 「ありがとう。あんたのステージを邪魔して悪かったわ」

 あやまる氷見。

 「忠告するわ。闇の死刑執行人に気をつけることね。あのロボットとサイボーグに高額な懸賞金が

賭けられている。連中は非合法でやっている。ギルドとも関係がないから好きなだけ殺れる。あんた

達が死んだら骨だけは拾ってあげる」

 忠告するリサ。

 「迷惑料請求なら東京ハンター支部か国連事務所にして」

 氷見はフッと笑う。

 三人はステージを出て行く。

 リサはステージに戻った。

 どこか遠い目をする死刑囚「チビ」

 どよめく観客達。

 ステージに勝手に上がって動画を撮っているチビのおじさんがいることに気づくリサ。彼女は大股で近づく。

 「チビ」も観客達もシーンとなる。

 「すばらしい動きだ。サインがほしいです」

 おじさんは申し訳なさそうな顔で言う。

 リサはフッと笑う。

 よく自分のショーではよくあることだ。アイドルオタクが興奮してステージに上がって来てしまうのは。もちろん

自分のショーでは邪魔扱いしたことはなくファンは子供と一緒で大事だ。

 「立会料は高いけどいい?サービスよ」

 リサは笑みを浮かべた。

 「はい」

 顔をほころばせるおじさん。

 「ちょっとカメラ見せて」

 リサはふと思い出す。

 おじさんは照れ笑いしながら渡す。

 リサは動画や写真をチェックする。カメラには同業者の氷見、リック、ジェルが映っているし音声も

入っている。

 リサはタブレット端末をおじさんのカメラにつないで同業者の氷見、リック、ジェルの戦闘シーンと

音声を手馴れた手つきで消した。

 リサはカメラをおじさんに渡した。

 おじさんはカメラの内容見て不満そうな顔をする。

 「代わりに私の写真と歌を入れておいたわ。これはサービスよ」

 リサはおじさんを抱き上げた。

 「幸せ・・・」

 おじさんは目を輝かせる。

 リサは微笑む。

 もちろん観客席は高度な電波妨害で携帯やカメラの電波は圏外になっていて使用不能となっている。

その分、ステージ終了後のファンサービスはかかせないし、写真会や握手会もやっている。

 おじさんを降ろすリサ。

 おじさんの両目はすっかりハートマークになっている。彼は鼻の下を伸ばしたまま観客席に戻っていく。

 ソファに座りそっと抱き寄せるリサ。

 少し驚く「チビ」

 「そんなに怖がらなくてもいいのよ」

リサはチビを励ますように微笑んだ。

言われるまでわからなかったが、自分は震えているようだ。胸元に戴いたちゃちなロザリオを握る

手が震えている。

「死ぬのは・・・・怖い」

女の笑みにつられるように、思ってもいない言葉が口を突いた。

黙ってしまうチビ。

思ってもいない、すっかり忘れていたことが。

「死ぬのが怖いの?」

リサは不思議そうな表情をした。

視線をそらすチビ

罪の代償がなんなのか今になって気づく。震えが止まらない。

生きながらにして腐っていくことも、死刑台に運ばれていくことも、同じだけ怖い。何もかももとには

戻らない。自分は今から死ぬのだ。

「怖い」

リサはまた優しげに微笑んだ。そしてチビを抱える腕に力を込めると

「そうね、怖いわね。じゃあ、お祈りしなさいな。聞いててあげるわ」

励ますように言うリサ。 

チラリと手に馴染んで錆が浮き始めたロザリオを見る。それからの顔を見た。

リサは促すように頷いた。

「・・・主よ 御許に近づかん

昇る道は十字架に

ありともなど悲しむべき

主よ 御許に近づかん

現世をば離れて

天翔ける日来たらば

いよいよまず御許に行き

主の笑顔を仰ぎ見ん」


チビは閊えながらも讃美歌を暗唱する。喉も唇も渇いていた。

ステージ中央に向かって絞首刑台がそびえ立っている。

階段を進む足を緩めることなく動かしながら、リサは黙ってそれを聞いていてくれた。

讃美歌が終わるのとほとんど同時に、大きな観音開きの扉の前に辿りつく。

扉の横には男の刑務官がひとり立っており、ベルボーイのように慇懃な態度で女に敬礼した。

「とてもよかったわ」

子供を褒めるような口調。リサは微笑みのまま、チビの額に唇を捺した。

とても、信じられないほどに嬉しかった。

遥か百年ぶりの雨に満たされた荒野のように胸がいっぱいになり、気づいたら涙がこぼれている。

扉が開かれた。

四方がコンクリートの壁に囲まれ、堅牢な首吊り台。そこから観客席が見えた。

リサが足腰の立たないチビを運んで階段に足をかける。

「あの」

リサがこちらを見下ろす。

「も、もし、良ければ・・・これを受け取ってください」

その目がチビの差し出した汚れたロザリオを見る。

「それはあなたの昇天のための導きでしょう?」

「いいのです。わ、私はあなたによってす、救われました」

これ以上望むことは何もない。

口元だけ笑みを作ったリサはチビを抱えたまま、器用にロザリオを受け取ってくれた。

「あなたの心が穏やかに眠れますように」

リサのヒールが階段を踏んで、カツンと鳴った。



「今日はもう終わり?」

事務室に入ると上司が口を開いた。

「報酬はいつもらえるの?」

「今週中には」

「やった。来週からセールがあるの。新しいバッグと靴を買うのよ」

リサは手を打って歌うように言った。

「バッグはこの間買ったんじゃないの」

「あれとは別のブランドの新作。色違いでふたつ欲しいの」

分かってないなあ、とでも言うような口調だ。

リサはテーブルの上に投げ出されていた雑誌のグラビアを開いて、長く伸ばした爪でコツコツと

叩いて見せた。

「お好きなように。そのまま綺麗でいてくださいな」

上司は肩をすくめて呆れた声を出す。

 「あの囚人は泣いていたようだけど、なにかしゃべったの?」

野暮ったい帽子を取って豊かな金髪を掻きあげていたリサは、キョトンとした顔で振り返った。

「ああ。死ぬのが怖いって言うからお祈りでもすればって言ったの。褒めてあげたら、子供みたいに

泣いちゃって」

思い出した顔をして、リサは言葉の最後で笑い出した。

「ああおかしい。もう帰ってもいいでしょ?」

ひとしきり笑って、リサは腕時計を確認する。

「それとハンターが三人割り込んできたみたいだけど何か言った?」

上司がたずねた。

「モーロックとライデッカーの情報。あの三人は本気で死の大陸へ行くわ」

真剣な顔になるリサ。

「どのハンターも死刑執行人もしり込みする死の大陸へ行く者がついに現われたのね」

上司はため息をついた。

「死んだら骨は拾うつもり。同じ同業者だからそれくらいはしないとね」

リサは当然のように言う。

「報酬は振り込んどいてね」

念を押すリサ。

「もちろん。振り込んでおくわ。またお願いね」

「お金がいただけるなら」

上司に笑顔で手を振り、リサは部屋を出て行く。錆びてくすんだロザリオを出入口のゴミ箱に

投げ捨てて人ごみの中に消えて行った。




この短編小説は執行人リサの視点で描かれています。第3話では主人公の視点で描かれている点がちがう

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