実験・視覚
翌日、朝。
今回は科学室ではなく俺の家である。
「起きてくださーい」
大きく揺らされて目を開ける。
「起きましたか? 九時です」
目を擦って目覚まし時計を見る。
「九時……」
呟くと同時に目覚まし時計が鳴る。今が九時じゃねぇか。
「お前はせっかちだな」
「数分の差です」
彼女は膨らませた頬を元に戻して「それで、今日の実験は?」と目を輝かせる。
「今日の実験は……遊びにいく」
「え?」
まあ驚くのも無理無いだろう。
さて、どう説明したものか……
俺は少し考えて口を開く
「テーマパークにいく、そこでお前の体がどの程度俺と同じなのかを確かめる」
「と、いいますと?」
「風に対する耐性や触れ方、体感温度などもついでに調べておこうか」
「あ、熱いとかは感じますよ」
「そうか……」
昨日の言動から匂いや味、五感は大体機能している事は予測済みだ。
まあ、それはいい。
「とりあえずいこう……嫌ならば別の方法を探すが」
彼女は目をより輝かせて前のめりに
「行きます!」
と、声を弾ませた。
移動、テーマパーク。
「はい、どうぞ入場してください」
スタッフからパスを返してもらい入場する。やはり彼女の姿は俺しか見えていないようだ。
「何処に行きます?」
「そうだな……」
待ち時間などは少し考えなければならないかもしれないが、混雑したテーマパーク内で空中に普通に話しても誰も気にかけない。
「好きなアトラクションとか無いか?」
「えと、どんなアトラクションがあるのかは分かるんですけど……乗った記憶は無くて……」
「そうか、なら西エリアでも行こうか」
「あ、私あれ乗りたいです!」
彼女が指差したのはスパイダー男の3Dアトラクションだ。俺も中々気に入っている。
「まあ、あれなら大丈夫だろう」
ジェットコースターのように高い所から落ちる事は無いだろう。痛覚はまだ試して無いから危険は避けておきたい。
「とりあえずいきましょう!」
笑顔の彼女に手を引かれて、俺は列に並んだ。
スパイダー男から出てきた彼女は目を丸くしていた。
「び、びっくりしました」
「そんなにか?」
確かに3Dの迫力は凄かったが……
「だってベルト無しですよ!」
「ああ、そうだったな」
彼女は皆には見えないので先頭近くにある椅子の無いスペースで体験していた。そこそこ揺れたし確かに驚くかもしれない。
因みに3Dメガネはこっそり拝借しておいた。……ちゃんと返したさ。
「次は何に乗りましょうか!」
「ちょっとまて」
俺はいつものレポート用紙の代わりにスマートフォンを取り出して記録する。
『3Dメガネなど、物を通した時の視覚にも対応している』